番外1315 女王達と宝珠は
確認と今後の仕事を円滑に進める準備だけしておいて、今日はみんなとのんびりさせてもらう。オーラン王子やラプシェム達はセオレムで歓待を受けているが、墓守の修理を待たせたりしているしな。
オーラン王子が見舞いに来たいという事なので、その時に墓守の修理の方針を決める事にもなるだろう。いずれにしてもそれは明日以降という事になる。
今日は戦いの後で帰って来たばかりで休息も必要だろうと気を遣ってもらったからな。歓待に関してはモニター越しに見せてもらうけれど。
報告を受けた後は通信室で腰を落ち着けて、お茶を飲みながらみんなとのんびりさせてもらう。
「というわけで、宝物庫に片付けて防犯用の呪法をかけてきた」
「ガルディニスの一件もこれで一段落ね」
クラウディアが目を閉じて微笑む。
「そうだね。一応目録だけは残してきたから、回収してきた品々の中に何かあれば対応できるようにはしてあるけれど」
「呪物も解呪したり危険性は取り除いてあるとは言っても、わたくし達は関わらない方が良さそうには思うわね」
ローズマリーが羽扇の向こうで言う。そうだな。今は出産を控えて大事な時期でもあるし。
『おかえりなさい、テオ』
「うん。ただいま」
母さんが冥府上層からの中継でモニター越しに声をかけてくれる。母さんも今現在冥精としての修業中ではあるから余り中継映像で顔は出せないが、ジェーラ女王との戦いは心配していたと伝えてくれる。
「ん……ありがとう。この通り大丈夫だよ」
『ええ。良かったわ』
「ふふ」
母さんにそう言うとステファニアやイルムヒルトも微笑ましそうに表情を綻ばせる。
『ガルディニスからは手間をかけたと伝言を頼まれた』
『テオドールの処置を聞いて、問題ないだろうとも言っていたな』
下層からの通信では、ヴァルロスとベリスティオもそんな風にガルディニスの反応を教えてくれる。
「それはまあ、俺の管理がしっかりしていればの話だろうけれどね」
『それも含めてお前なら問題はないだろうと見ているのだろうな』
ヴァルロスが少し笑う。
「ん。その点は実績がある」
シーラが腕組みしつつうんうんと首を縦に振り、マルレーンがにこにことした笑みを見せる。うん……。そうして信頼されているというのは有難い話だ。そうした気持ちに応えるためにもきっちりと管理しよう。
「おお。戻ってきたか。精霊に関する技術が絡んだ事件という事で、心配していたのだがな。無事で良かった」
その場に顕現してきたのはテフラである。それに合わせるようにティエーラやコルティエーラ、ジオグランタに四大精霊王達にフローリアやパルテニアラと、次々顔を見せてくれる。
「みんなもギメル族の人達も、無事で良かったね……!」
風の精霊王であるルスキニアがアウリアとハイタッチをしながら明るい笑顔を浮かべる。モニターの向こうではオーラン王子が歓迎に対してお礼の口上を述べているところであった。酒杯を掲げたところで、俺達もティーカップを掲げたりして。
「ん。ありがとう。みんなもただいま」
「……お帰り、テオドール」
と、コルティエーラが腕に抱える宝珠を明滅させつつ静かに頷いていた。
カーバンクル達を腕に抱いたり肩に乗せたりしているシャルロッテ、シオン達。カルセドネとシトリア。ユイとヴィンクル。オウギにティール、カルディア、ルベレンシア、マクスウェルにアルクス、ヴィアムスと……みんなが次々通信室に顔を見せに来てくれて、俺達が無事に帰ってきた事を喜んでくれる。
エスナトゥーラがルクレインを腕に抱いてにこにことしていたり、メルセディア達がお茶を勧められていたりと、今回の一件で同行していた面々も無事帰ってきた事を喜ばれていて結構な事である。
「ふふ。賑やかで良いですね」
グレイスと視線が合うと微笑んでくれる。
「そうだね。心配してもらえるのは嬉しい」
近くにやってきたラヴィーネやすねこすりのオボロ、ホルンといった面々を撫でながら答える。
そんな調子で水晶板を通してあちこちの面々と挨拶をして、歓待の様子を見たり、オーラン王子やラプシェム達の話から女王の宝珠について話題になった。
「ほんのりと光っていて……色合いが綺麗ですね」
アシュレイがテーブルの上に置かれた宝珠を見てそんな風に感想を漏らす。セラフィナとリヴェイラも机の上で宝珠の輝きを覗き込むように顔を近づけていた。
「私から見た場合の印象では、強い力を感じますが、嫌な気配はありませんね」
「同感だな。お守りのように持ち歩いても大丈夫なのではないか」
ティエーラとパルテニアラがそんな風に太鼓判を押してくれる。
「確かに、持ち歩けそうな大きさではありますね」
エレナがパルテニアラの隣から顔を出すように女王の宝珠を見て言った。そうだな。サイズ的には掌中に収まる程度なので、首飾りのような形でも問題はなさそうだ。
『そのジェーラ女王達と話をしてきたが、信念があっての行動だからこそ、冥府としては生前の行いを償う必要があると考えている。当人の怨念はテオドールのお陰で浄化されているから、落ち着いて話を聞いてくれてな。これからの事には冥府の取り決めに従うと言っていた』
そう教えてくれたのは冥府のベル女王だ。扱い的には独房組に近く、生前の行いや業に向き合って過ごす事になるだろうとの事だ。それからの事は本人次第ではあるらしいが。信念があっての行動だからこそ、か。
「生前の立場やしがらみはもうありませんし、死後の無念からは解放されました。当人は誇り高い人物とは感じました。良い方向に進んでくれるように祈っています」
『それに関しては当人達に伝えておこう。既に独房区画にいる者達もそうでない者達も、テオドールのそうした想いは心強い力となるはずだ』
ベル女王は微笑んで頷く。ん……そうだな。そういう意味でも女王の宝珠については意味がありそうだ。
昼間は賑やかであったが、夜は早めにフォレスタニアの上階にある寝室に移動して、夫婦水入らずの時間を過ごさせてもらった。のんびり循環錬気をしつつ、留守の間にあった事や旅先での話をしたり、イルムヒルトの奏でるリュートに耳を傾けたりといった時間を過ごす。
「フラヴィア様やオフィーリア様、カミラ様を迎えてみんなで縫い物をしたりしていました」
循環錬気をしながらもグレイスがそんな風に教えてくれる。落ち着いた温かな魔力が伝わってきて……楽しかったという事なのだろう。
子供の肌着に刺繍をしてみたいという話が出て、同じように出産を控えたオフィーリアやカミラも交えて……これから結婚する予定のフラヴィアも参加したとの事だ。
女性陣で集まろうという話は以前から進んでいたし、その一環ではあるのだろう。
女性陣では他の顔触れも刺繍をしてみたいと伝えてきて、刺繍ができる面々みんなで教えたりしたらしい。フィオレットを始めとした魔人達氏族の女性陣やルベレンシアも興味を持って参加していたという。
「その辺は馴染んできたのもあるのかも知れないけれど、理解を深めるために歩み寄ろうとしてくれてるって事でもあるんだろうね」
「ふふ。楽しそうにしてくれていたから私達としても嬉しかったわ」
イルムヒルトが肩を震わせる。
歩み寄ってくれるのもあるし、留守中のみんなものんびり過ごしてくれていたようだしな。俺としても喜ばしいことである。
そうして、みんなと寝台に軽く横になって寛ぎつつ循環錬気をしながら話をして……ゆっくりとした時間を過ごすのであった。