番外1314 南の砂漠からの訪問者
地平線の彼方にセオレムが姿を現したところで、徐々に速度と高度を落としていく。段々と近付いて全容が見えてくるセオレムに、ラプシェム達は「おお……」と声を漏らす。
「タームウィルズの王城に関する噂は聞いたことがありますが、実際に目にすると凄いものですね……!」
オーラン王子もセオレムを見て目を輝かせているな。オーラン王子は好奇心旺盛なところがあるようで、それでいて武勇に優れているのに思慮深いのだから人望があるのも分かるというか。
「セオレムは迷宮の一部でもありますからね。普通の建物とは違う部分があると言いますか」
そう伝えると、オーラン王子とラプシェム達は感心したように揃って頷いていた。
「海も……やはり美しいわね」
レシュタムは海に目を向けて目を細める。
タームウィルズは海沿いにあるからな。オーラン王子もラプシェム達も初めて海を見るので、移動中植生の違いや景色の変化には興味津々といった様子であった。
そのまま進んで造船所にシリウス号を向かわせる。
造船所にはフォレスタニアからみんなも迎えに来てくれているな。ジョサイア王子とフラヴィア。アルバートとオフィーリア、それにお祖父さん達も姿を見せていて、シリウス号が造船所の上まで来ると笑顔で手を振って歓迎の意向を伝えてきてくれている。
土台の上にゆっくりとシリウス号を降ろしてからみんなで甲板に出ると、ラプシェム達は喜んでいる小さな精霊達の反応に驚いていた。
「これは驚きだ。普通では考えられない程精霊の力が高まるというか……」
「大きな精霊達の祝福があったのね」
「しかも……複数か。すごいなこれは」
「精霊の力を高めるような儀式があったので、その影響がまだ残っているのかなと」
一時的に小さな精霊達も姿が見えるぐらいまで顕現していたからな。その事を話すとラプシェム達は呆気に取られたようにこくこくと頷く。
それからタラップで船を降りて、迎えに来てくれている面々と挨拶をしていく。モニター越しではあるが、既に面識はあるからお互い実際に対面できた事を喜んでいる印象だ。寒さについては――どうやら大丈夫そうだ。各々寒気対策してきているし、俺の精霊の加護も届いているかも知れない。
「ただいま戻りました」
オーラン王子達との初対面の挨拶が終わったところで帰還の挨拶をすると、ジョサイア王子が笑顔を見せる。
「ああ。思いがけず大きな戦いになったようだが無事で何よりだ。フォレスタニアに運ぶ品々を優先してもらって構わないと、父上から伝えるように言われている」
「ありがとうございます」
顔見せや口頭での報告等は後からで構わない、というわけだな。先にガルディニスの遺した品々の方を優先していい、と。まあ確かに。あれらは早めに安全確保しないといけないし、他人に任せるわけにもいかないからな。
「ただいま、みんな」
「おかえりなさい、テオ」
「おかえりなさい……!」
「ん。無事で良かった」
「ふふ、おかえり」
グレイス達は俺を抱擁して、帰って来たことを喜んでくれる。頬や髪、肩や背中をそれぞれに撫でられたりして、少しくすぐったい。柔らかな香りと体温を感じて……みんなの嬉しそうな表情と反応。……無事に帰ってきた嬉しさもあるし、みんなの体調が良さそうな事に安堵を感じるな。うん。
「墓守に関しては、今も工房で大人しくしていますよ」
「水晶板でも様子を見る事もできますが、後程案内致しましょう」
「それは良かった。直接顔合わせができるのは嬉しいですね」
オーラン王子は初対面の挨拶を済ませてから、アルバートやお祖父さん達とそんな会話を交わす。
さて。そんなわけで再会や初対面の挨拶も終えて、各々動いていく事になる。オーラン王子とラプシェム達は王城で歓待だ。エルハーム姫やエギール達も一緒に王城に向かう。
俺はガルディニスの遺した品々を安全に管理できるよう、きちんとフォレスタニアに運んで宝物庫に収める、という事になるな。
「わたくし達は輸送の時にフロートポッドで一緒に移動するわ」
「ん。それなら安心だね。それじゃあ……コルリスとティアーズは、フロートポッドの護衛に回ってくれるかな。リンドブルムとアピラシアは、俺と一緒に輸送側の手伝いで」
ローズマリーの言葉に応じてそう伝えると、こくんと頷く動物組と魔法生物組である。流石にフォレスタニアに戻るまでにガルディニスの遺した品を狙って襲撃を受けるような事はないだろうが……一緒に移動すれば戦力を分散させずに守る事ができるからな。ガルディニスの遺した品も、爆発物のような速効性のある危険物ではないし。
念の為、フロートポッド側にカドケウスとバロールも乗り込んで貰っておけばより安心だろうか。テスディロス達も周囲を固めてくれるという事なので心強い。
そうしてシリウス号から余った食料や物資、手荷物等々を降ろし、旅の後始末とフォレスタニアへの移送準備を進めつつ、王城へ向かうジョサイア王子とオーラン王子達を見送る。
オーラン王子達とは王城で歓待を受けて一泊し、明日以降また顔を合わせる事になるかな。
ガルディニスの遺した品については石棺に入れて封印された状態だ。
このままメダルゴーレムを使って自走可能にしつつレビテーションを組み込み、リンドブルムに運んでもらうというのが良いだろう。空から運べば不審な者が近付いてきた時に分かりやすいし、メダルゴーレムが組み込んであるという事は接触された場合に運搬容器自体が抵抗できるのでより奪われにくくなる。
余った食料等々、他の荷物はメルセディア達や迎えにきていたヴェルドガルの武官達が護衛を兼ねて運搬を手伝ってくれるとの事である。
「ふむ。では儂も護衛を手伝おう」
アウリアもそう申し出てくれた。
「ありがとうございます。それじゃあ動いていきましょうか」
というわけで諸々の準備を終えて、みんなで移動するという事になった。地上と空中で隊列を組み、みんなの乗っているフロートポッドと、リンドブルムが運ぶ石棺を中心に護衛しながら進んでいく。
メルセディア達が先導してくれているので、往来に邪魔が入る事もなく……ゆっくりとした速度で通りを進み、そうしてフォレスタニアに移動したのであった。
石棺に関してもそのまま宝物庫に搬入できた。念のために呪法で封印をかけ、許可なく石棺に触れると俺への通知が飛んできて、矢印の呪いがかかる、というようにしておく。
旧フォルガロ公国での騒動の時に使った呪法で、頭の上に大きな光る矢印が浮かぶ、というものだな。身体的なダメージはないし術式自体が精神に影響を与えるわけではないから呪詛返しにリスクがない。
許可なく容器や中身を壊したり持ち出したりしない事と、石棺に明記しておく事で文章に抵触した場合の呪法の強度をより増強できる。まあ、仕掛ける側としては良い事尽くめだ。
諸々の作業を終えて宝物庫からみんなの待っている通信室へと移動する。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「おかえりなさいませ」
セシリア達やゲオルグが笑顔で迎えてくれる。留守中に異常がなかったか等、簡単に報告を受ける。
「執務に関しては滞りなく進んでいます。報告書はいつもの様に上げておりますので、後で目を通していただければ幸いです」
「街の治安についても基本的には平和なものです。冒険者達の往来は多いのですがテオドール公のお膝元ですし、フォレスタニアに入る場合の経路は一つしかありませんからな」
「ん。ありがとう」
月神殿内の迷宮入口とフォレスタニアの塔だな。そもそも王都であるタームウィルズへ入るのと併せて二重にチェックされる。
ともあれフォレスタニアは異常無し、と。書類もそこまで溜まってはいないし重要な案件があれば都度モニターを通して報告と指示をしているので、それに絡んで忙しくなる、という事はあるまい。まずは留守にした分、みんなと一緒にのんびり過ごさせてもらってから色々と動いていきたいところだ。