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番外1310 密林の集落にて

「では――なるべく早く転移門のための資材を揃えるという事で」

「それまでは転送魔法陣で代用する、というわけですね」


 オーラン王子とエフィレトが必要な品々を書いたリストにそれぞれ目を通して言う。ギメル族が使っている言語、文字は違うのだが言霊の魔道具があるのでこういう時に楽だな。念のために、ランタンで現物を見せる事で間違いないというのを確認もした。

 核となる魔石、魔法陣を描くための魔石粉かミスリル銀線、それから門そのものを構築する石材といったところだ。


 転移門を構築するために必要な素材の量は確保も、ネシュフェル王国とギメル族ともども、それぞれ問題ないとの事である。


「今後同じような盗難がないように、秘宝をより安全に守る方法についても考えたいところですな」

「そうですね。今回の侵入は私達としても想定外でした。お恥ずかしながら、久しくこのような事件が起こっていませんでしたし、神聖なものではありますがそのような方法で使われるという事も考えられていませんでしたから……」


 古老の言葉にエフィレトが目を閉じる。祖霊を精霊として迎える儀式に使われるというもののようだからな。確かに……ジェーラ女王についての記録がギメル族側に残されていないなら、悪用を考えつかないというのは有り得る。

 そうした手段を取れるほど秘宝の利用法を熟知しているのも、ギメル族の外部ではジェーラ女王だけだったろうしな。


 秘宝に関してはギメル族の墓所に普段は保管されていたそうだ。警備として墓守役もいたし魔法的な守りを施していたそうだが、それらを掻い潜ってのものだったという。ジェーラ女王やラネブ、イムロッド達が背後にいたというのなら……まあ、ギメル族の防犯体制を掻い潜る方法を色々用意してきたのだろう。


「警備や防犯体制の構築も、差し支えがないならお手伝いします」


 契約魔法で条件を付けて扉の開閉や結界の解除を行うとか、警備用の魔法生物の設置、監視や通報システム等々、色々手立ては考えられる。

 方法についても提案と説明をすると、エフィレトと古老達は真剣な表情で聞き入っていた。


 そうしていくつかの防犯設備について組み込む事が決定する。


 さて。概ね話しておくべき事は話しただろうか。一段落したあたりで集会場の厨房から良い匂いが漂って来て、宴会の準備が整ったとギメル族の面々が笑顔で伝えにきてくれる。


「では――宴と参りましょうか」


 と、エフィレトが笑顔で言うのであった。




 集会場の前は広場になっていて……そこに机や椅子を並べて宴会の準備が整えられていた。

 集落の人達も歓迎しにきているそうで。芋団子、スープ、串焼き、魚の蒸し焼き、果物に酒と、色々大皿に盛りつけられたり、大鍋から小皿によそってもらったりと中々賑やかな事になっている。


 主食は現地で栽培している芋を一度粉にしてから、団子状にしてふかしたものという事だそうだが、何やら白玉のような見た目をしていて、確かに美味しそうだ。


 そうやって俺達の前に料理が並べられたり、各々料理を受け取ったりしたところで、エフィレトが宴会の開始を宣言するように口上を述べる。


「今日は祝福されるべき日です。持ち出された秘宝が私達の手元へ無事に戻り、事件の解決に協力し、戦って下さった方々との知己を得る事もできました。私達が知るネシュフェル王国だけでなく、北方のバハルザード王国や更に遠方の国――ヴェルドガル王国やシルヴァトリア王国からいらっしゃった御仁をお迎えし、こうして歓迎と祝いの席を設けられた事を嬉しく思います」


 エフィレトが言うと歓声が起こり、オーラン王子が一礼して簡単にギメル族に自己紹介をしてから返答をする。


「ありがとうございます。我が国の者が迷惑をかけてしまった事を申し訳なく思っています。しかし同時に、隣人としてこうして温かく迎えて下さったこと、問題の解決の一助となれた事を嬉しく思っています。これからもギメル族の方々と良い関係を続けていけたら、これ以上はありません」


 オーラン王子に続いてエルハーム姫。俺やエギールと続けてそれぞれの国を代表して自己紹介と挨拶をすると歓声が上がり、ギメル族の面々が笑顔と共に敬礼を以って歓迎の意を示してくれた。


「今回の事件の解決のために尽力し、各国の方々と良い関係を築いてくれた、ラプシェム、エンメル、レシュタムの三名に関しても、その功績は称賛され語り継がれるべきものでしょう。そして……戦いの場に赴いて下さった方々の、その武勇と高潔な行いに改めて感謝を申し上げます」


 エフィレトの言葉にラプシェム達も一礼する。そうして酒杯を掲げてエフィレトが言った。


「我らの友誼を祝して!」

「我らの友誼を祝して!」


 みんなの声が重なり、そうして宴会が始まった。

 密林に関しては色々な香草や薬草の宝庫らしくて、料理はどれも複雑ながらも風味が豊かで味わい深い。


 狩猟によって魔物の肉等も手に入るらしく、ギメル族は食文化もかなり発達している印象があるな。

 芋団子に関しては白玉のような見た目だが餅程の粘り気はなく……弾力はあってつるつるとしているという……なかなか変わった食感だ。景久の記憶から近いものを探すのなら、ああ、タピオカ……だろうか? あれもキャッサバという芋類を団子にしたものだったから、近しいものなのかも知れないな。

 ともあれギメル族の間では芋団子にソースをからめて食べるのが一般的らしく、中々に美味である。


 スープは魚の切り身、キノコに山菜等が入っているもので、酸味と辛さのある、中々に独特ながらも食欲をそそる味付けである。


 みんなで料理を楽しんでいるとギメル族が歌や楽器の演奏、踊りも披露してくれた。オカリナのような笛であるとか、弦楽器、打楽器もあって、素朴ながらも楽しげな音色だ。


 返礼としてイルムヒルトがモニター越しにリュートを奏でてセラフィナが歌えば、ギメル族の面々も随分と喜んでくれた。小さな精霊達も一緒に踊ったりして、賑やかな光景である。


 リンドブルムやコルリスやアピラシア、カストルムといった面々はギメル族の子供達から注目の的のようで。抱きつかれたり、握手をしたり、各々寛ぎながら子供達の相手をしてくれているという印象だ。


 そんな調子で賑やかに交流しながら宴の時間は過ぎていくのであった。




 そして一夜が明ける。昨晩はギメル族の集会場に宿泊させてもらった。集落内はともかく熱帯雨林帯で高温多湿だからか、風呂も各家庭や集会所に完備されていて、ギメル族の集落における滞在は快適と言えよう。


 転移門の設置と防犯設備の構築についてはまた後日だ。資材の準備ができたら進めるという事で話が纏まっている。それまではハイダーによる中継と、転送魔法陣でやりとりをし、ラプシェム達がエフィレトと共に秘宝を守る、という体制にしておくとの事だ。


 今日の予定に関しては――少々ギメル族の墓所に足を運び、警備システム構築の為に構造等を見てくる、という事になっている。

 ギメル族の墓所は通常、地下に造るのが昔からの伝統になっているそうだ。集落の外に造り、生活の場と墓所を分けている、との事で、密林の中を移動して現地に向かう。

 と言っても、墓所までは移動のために整備されているから、密林の中を移動と言ってもそこまで大変なわけではないが。


「ジェーラ女王の墓所は封印が大がかりなものだったが……形式自体は我らの知る墓所に通じるものがなくはないな」


 というのはラプシェムの見解である。秘宝の収められていたギメル族の墓所か。秘儀等についてはあまり突っ込んだ事を聞けないが、中々に興味深いのは事実だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 集落の総合セキュリティもお任せください的なことになってきましたw
[一言]  地下に秘宝を安置する封物殿でも建造して、テオドール監修の守護者に護らせるのかな。守護者の核に女王の宝珠を使う、とか。
[良い点] 豚汁を作り上げた獣は転移門の材料を普通に持っている
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