番外1308 密林の奥地にて
「精霊達に集落の場所を尋ねるならば風か水の精霊が良いと思う。移動範囲が広いから聞けば色々と分かる。知らない場合でも精霊の移動してきた方向を辿る必要がない、というのがはっきりするからな」
エンメルが言うと、お茶を飲んでいるアウリアと共にシルフやウンディーネがこくんと頷く。
精霊達からの情報収集を行う場合のコツのようなものだな。
やってきた方向、移動してきた方向に集落があればその方向に向かえば良いし、情報が得られないなら向かおうとしている方向がズレているという事になるわけだ。
「まあ、小さな精霊達はお気楽だしこちらの価値観を知らない者も多いので、聞く物は明確な方が良いのう。精霊達にとっても脅威となるものや、不快なものの場合は精霊達も騒いだり中心部から離れたりするので危険の察知には良いが」
アウリアが補足説明してくれる。なるほどな。精霊達にとっては昔からそこにあるのが当たり前、というようなものだとあまり意識してくれないというわけだ。精霊同調という方法が取れるギメル族ならもう少し詳細を知ることも可能なのだろうけれど。
そんな話をしながら進んでいき、密林の直上まで差し掛かったところでシリウス号の速度と高度を落とした。
生命反応感知を行うと……流石は熱帯雨林といったところで、反応の数と種類が非常に多い。探しているのはギメル族の集落なので生命反応から分からないという事はないだろうが。
「それじゃあ、ラプシェム達と一緒に甲板に出るから水晶板に反応が映ったら教えて欲しい」
そう言うとアルファとアピラシアがこくんと頷き、ティアーズ達もマニピュレーターを振って応じてくれる。シリウス号も速度と高度を十分に落としてくれたようだ。
樹冠には引っかからない高度を飛行しているから安心だな。
「私も見に行って良いでしょうか?」
「俺も……外を見たいな」
オーラン王子やザンドリウスが尋ねるとラプシェムは「大丈夫だ」と応じる。
「こっちも問題ありませんよ。操船はバロールにやってもらいますし」
というわけで甲板に出て、ゆっくりと進みながら隠蔽フィールドを調整。風魔法のものだけ解いて風の精霊を呼び込み、情報収集をすればすぐにギメル族の集落に関しての情報が入ってくる。
「進行方向は――こっちのようね。少しだけ左寄りかしら」
レシュタムがシルフと言葉を交わしてから笑顔で教えてくれる。
「では、少し軌道修正しつつ進んでいきましょう」
艦橋で操船しているバロールにシリウス号の進行方法を調整してもらい。少し進んだら聞き込みを行って微調整を重ねていく。
「この方向で良いようだな」
と、ラプシェムが教えてくれた。
調整は必要だったがそれほど大きくはズレていないようで、最初に地図外に示した位置も結構正確だったようだな。
「すごい森、だな」
「熱帯雨林の密林だからね」
ザンドリウスの漏らした感想に簡単に気候や特徴について説明すると、真剣に頷きながら話を聞いていた。
そうしていると正面側にある監視用モニターの拡大映像を見ていたティアーズが、人型の生命反応が集まっている場所を発見したようで。バロールに向かってマニピュレーターを振ってくる。
「どうやら発見したようですね」
「そのようだ。まだ少し霞んでいるが……見えてきたな。正面の――樹冠が少し小高くなっているところがそうだ」
エンメルが言う。
「丘か小山、といったところでしょうか?」
「そうだ。あの場所に向かって欲しい」
「分かりました。では、進んでいきましょう」
目印としては分かりやすい。距離を詰めていくと、段々とギメル族の集落の全容が見えてくる。
ギメル族の集落はネシュフェルと同じように湿度等を調整しているという話で、周囲と少し植生が違うようだ。緑の中に石の建造物が垣間見える。
エインフェウスの都や魔王国のファンゴノイド達の居住区画、イスタニア王国のレプラコーン族の集落に近いものがあるが……森と石造りの人工物が一体化しているあたりが……少しそれらの集落とは印象が違うものにしているな。
植物や地形を活かして集落は作られているようだ。距離が近付いてくると集落内部も割と開けているのが見えてくる。
建物自体はジェーラ女王の墳墓に建築様式が近いというのは納得だな。集落内部は地面も石で整備されていて、そこに湿度や温度を調整するための刻印が施されているのが見える。
「まずは、そうだな。俺達が先に戻って、話を通してきた方が良いかも知れない」
「そうだな。先に説明に向かえば、混乱もしないだろう」
「みんなを歓迎したいものね」
ラプシェム達がそう言って頷き合う。なるほどな。それならシリウス号も姿を見せることができるし、より多くの面々で集落に挨拶にいけるというのはある。
では、ここはラプシェム達に事情説明をお願いしよう。
「では、シリウス号はここから動かさずに待機しています」
「ああ。行ってくる」
というわけで話もまとまり、ラプシェム達が甲板から降下していった。ラプシェム達が集落の面々と話をして、喜んだり驚いたりといった騒ぎになっているのは見て取れたが……しばらくしてから、ラプシェム達がこちらに向かって戻ってくる。
「どうでしたか?」
「大丈夫だ。長老達も歓迎をしたいとの事だ」
「シリウス号の事も話をしたから見えるようにしても問題は起こらないと思うわ」
戻ってきたラプシェム達に尋ねるとそんな返答があった。では――。
バロールが目蓋を閉じるようにして頷き、シリウス号が偽装を解いて姿を見せる。ギメル族の集落では人々が空を見上げて、驚きの表情を浮かべていた。
というわけで挨拶しに向かうとしよう。早めに挨拶をした方が集落の面々にも安心してもらえるだろうし。
今度はラプシェム達やみんなと共に集落の入口部分に向かって降下する。先行して色々説明をしてきてくれたわけだし、シリウス号側の警備は少なめにして大丈夫だろう。
入口を守る門番らしき面々は、俺達の姿を見るとギメル族の作法に則り迎えてくれた。俺達もまた敬意を示すように挨拶をしつつ、集落内部へと歩みを進める。
湿度も温度も、集落内部に入った瞬間に快適なものになった。この辺はネシュフェル王国の都市部と同じだな。ファンゴノイド族も自分達の過ごしやすいように環境整備していたけれど。
熱帯雨林はスコールが多いらしいが、その辺りも刻印術式によって集落内部で過ごしやすいように制御しているようだ。精霊達は……まあ、集落内部が穏やかな環境だから軒先等に座ってのんびりとしている様子が見て取れるな。ギメル族が精霊達を大切にしているからか、他の種族の都市部に比べて数が多い。
「多分、強い精霊に加護を受けているから、皆そっちにも驚くだろうと思うがあまり気にしないでやってくれ。悪気はないんだ」
ラプシェムが言う。家々や沿道に顔を出したギメル族の面々は……確かにそういった反応をしているな。
「大丈夫」
と、そう笑って答えつつ、都市内部の様子を見つつ進んでいくと、広場が見えてくる。そこで待っていた面々は年配の者や、装飾品が少し多めで毛色の違う人物だったりと、立場のある人物のように見える。中心にいる女性が手にギメル族の秘宝を持っていて……ラプシェム達が渡したのだろう。秘宝を大事そうに抱えている女性が、俺を見て驚きの表情になる。
「何という……強い精霊の加護を宿しているのでしょうか」
「ジェーラ女王相手では我らだけで対処できなかった。秘宝が戻ってきたのは彼らのお陰だな」
「墓守の魔法生物もいたのだが、戦いの中で破損してしまったために、テオドールの仲間達が修復を進めてくれている」
秘宝を手にしている女性の言葉に、ラプシェム達が答える。それを受け、年配の人物とその女性は俺達に恭しく一礼をし、感謝と歓迎の言葉を口にしてくるのであった。




