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番外1305裏 玄室の戦い1

「まずは――防備を固めて敵の力の程を見るとしましょうか」


 変身したオズグリーヴの言葉と共にディフェンスフィールドの魔道具が起動し、周囲に光魔法の防壁が張られる。同時にオズグリーヴの煙が薄く足元を満たした。

 オズグリーヴの陣取った場所を中心に敵を迎え撃つ構えだ。防御陣地は玄室の入口を背後に背負っており敵に包囲されたり後背をつかれる危険性を減らすと同時に、避難可能なエリアを構築している。


 そんなものは関係がないというように、ミイラ達は獣のような怨嗟の咆哮を上げて突っ込んでくる。防御陣地後方に構えたルドヴィアが膝をつき、2本の指を揃えて伸ばすような構えを取ると、次の瞬間に細く集束された光弾が放たれた。


 ルドヴィアは魔人化を解除しているので魔力弾ではあるが、その初速が一様に尋常ではない。陣地に突っ込んできたミイラの胴体に命中すると爆発を起こした。真っ先に突っ込んできたミイラ達は吹き飛ばされて後方に転がる。


 ――が、痛手には至っていないのか、爪を床に引っ掛けて体勢を立て直すと、地面を手足で駆け、右へ左へ跳躍しながら防御陣地へと突っ込んでいく。立ち昇るオーラが尾を引くようにその軌跡を空間に残した。


「……速い、な。耐久力も高い。だが獣狩りなら得意分野だ」


 ルドヴィアは呟くように言うと幾条もの光弾を放つ。弾速、軌道。1つ1つが同じ技とは思えない程違う。偏差射撃によって2発目が面白いように叩き込まれて再度吹き飛ばしていく。


「多少は撃ち漏らしがいても問題ない。味方が穴を埋めてくれる」

「承知した」


 ルドヴィアとそんなやり取りを交わし、防御陣地を飛び出して突っ込んでいくのは、変身して雷を纏ったテスディロスだ。すれ違いざまに雷の槍を振り払い、ミイラを吹き飛ばす。が、様子を見ながら防御陣地から出てくるのを待っていたというように、別の個体がテスディロスに突っかかる。


 真っ先に突っ込んできたミイラ達とは性質、知性や理性の残り方が違う。文官、武官、術師。ミイラ達の能力は個体差が大きく、生前に身に付けた技能が影響している。そして、テスディロスを己の獲物と見定めたそのミイラの生前は――ジェーラ女王に仕えた将軍だ。


 その手にはオーラで形作った武器が握られている。途中から弧を描くように湾曲した刃を持つ奇妙な形状の武器だ。コピシュと呼ばれる、斧のような特徴を持つ剣である。

 たちまち空中で雷の槍とオーラの剣が激突。雷とオーラが空中に光の尾を引いて、幾度もぶつかり合って剣戟と火花を散らす。




 敵陣、遥か後方から、オーラで形成された杖を手にするミイラ達が、祈るような仕草と共に頭上に向かって杖を掲げる。魔力が渦を巻いて、防御陣地の直上で異変が起きた。

 オズグリーヴに向かって落ちる雷。が、それは魔力の動きを察知したオルディアが防いでいる。頭上に放った煌めく瘴気の波が、雷とそれを展開した術式を呑み込み、宝石に変化させるとオルディアの手元に戻ってくる。


「呪法の基礎はパルテニアラ様に教授してもらいました。ですから――これはお返しします」


 オルディアがそう言って、マジックサークルと共に手の中の宝石を握れば、あっさりと亀裂が入って砕ける。

 ミイラの術師達の頭上に魔力が渦を巻いて。先程の焼き直しとでもいうように落雷が発生した。

 オルディアの統制から離れれば、宝石は本人の所へと戻る。それは相手の力を宝石に代えても相手との繋がりを持っているという事に他ならない。


 だからオルディアの能力と、ベシュメルク式の呪法はすこぶる相性がいい。テオドールがしたように繋がりができるために呪詛返しの危険はあれど、その為には相手が呪法を身に付けていなければならない。

 返す技も自分の意志一つであるという事から考えれば、直接的な攻撃なら呪詛返しを受けても痛手にはならない。返された呪詛を再度封印してしまうという手もある。


 攻撃を受けると一瞬オーラが揺らぐ術師達であったが――ラネブ達が祈るような仕草を見せると、すぐに戦列に復帰してくる。


「なるほど。精霊に信徒が祈りで力を与える、と……」


 ウィンベルグがミイラ達と空中で射撃戦を展開しながら眉をひそめる。


『精霊術を使う側として意見を言わせてもらえるならば……ラネブ達を自由にさせておくのはまずいな。術によってはかなり強化されるし、消耗戦を強いられる可能性がある』

「アウリア殿の見解は概ね正しい。連中がどこまで精霊の力を補助できるのかは分からないが、邪精霊達は下位の者達でもかなり強力なようだ」


 魔道具を通して聞こえるアウリアの言葉に、エンメルが同意する。


「幸いというべきか。下位精霊達の数はそこまで多くありません。こちらから距離を詰めましょう」


 エスナトゥーラが言うと皆が頷く。


「我らの手で決着をつけねばな。首魁をテオドール殿に任せるしかないのは当事者として申し訳なく思うが、せめても……!」

「であれば、私もですね。共に参りましょう……!」


 ラプシェムが言うと、オーラン王子が戦意に満ちた表情で答える。エンメルとレシュタム、ネシュフェルの武官達も頷き、そうしてエスナトゥーラを先頭にデュラハンやカストルム、アルハイムといった面々が周囲を固めた。墓守の魔法生物もオーラン王子を守るように傍らに随伴する。


「クク。使徒の方々でなければ自分達でも対抗できると見ているわけか? 瘴気を操っている連中……魔人ならば、確かに使徒の方々にも抗しうると認めよう。だが……ジェーラ陛下のお力を受けた我らに、貴様らごときが勝てるとでも?」

「やってみなければ分からない」


 オーラン王子は短くそう答え――そうして隊列を組むと、一瞬の間を置いて裂帛の気合を響かせる。


「行くぞッ!」

「おおおおおッ!」


 気合の声と共に、オーラン王子とラプシェム達が突っ込んでいく。応じる様にミイラ達が動きを見せた。剣を構えて斬り込み、空中から光弾を放つが――それをアルハイムが泥の鞭で受け止め、カストルムが指先から光弾を放って撃ち落とす。


 同時に――ルドヴィアも後列から弾幕を展開して前衛の支援を行う。


 ラプシェム、エンメル、レシュタムが独特の紋様を持つマジックサークルを展開する。もし顕現していない精霊を見る事のできる者がいれば、彼らにしがみ付いていた小さな精霊達が一体化するようにその身体に吸い込まれていくのを見る事ができただろう。


 ラプシェムの三つの目が赤い色になると同時に、その四肢と身体に炎の帯を纏う。精霊同調の奥義だ。


 同様にエンメルは風を纏い。レシュタムは水を纏った。瞳の色はそれぞれ緑と青に変化する。


「チッ!」


 爆発的に力を増したラプシェム達に舌打ちした胸像の者達がマジックサークルを纏った掌底を突き出す。刻印術式をマジックサークルによって強化するという方式だ。

 空間から突如として砲弾のような不可視の衝撃が発生するが、跳ね上がったラプシェムの炎の蹴りが衝撃を撃ち落としていた。精霊の感覚も得ているからこそ、そうした魔力の動きを感じ取る事が可能なのだろう。


 あちらこちらで閃光と剣戟、火花の散る只中で、ラプシェム達も爆風の中へとお構いなしに踏み込む。踏み込んで、そうしてラネブやその側近達と相対する距離で対峙した。


「露払いは……任せてくれ」


 飛び掛かってくるミイラを、魔力を纏った泥の鞭と壁で弾き返しながらアルハイムが言う。目を明滅させたカストルムがラプシェムやオーラン王子達の背中を守るような位置に陣取ると、後方から飛び掛かってきたミイラに拳を向けた。


 魔力の輝きと共に、巨大な拳が射出される。これは予期できなかったか。ミイラの真正面からまともにぶち当たる。

 そのまま推進してミイラごと柱に激突した。崩れる柱の瓦礫の中で、カストルムの拳から放たれた光芒が四方八方に飛び散る。一瞬遅れて、瓦礫を周辺に跳ね飛ばしながらミイラが飛び出してくる。身体のあちこちが焦げて一部は欠ける程の損傷を負っていたが、着地したその時には傷の部分をオーラが埋めて、あっという間に再生を果たしていた。


 咆哮を上げながら、着地と同時に最短距離を飛んでくるミイラをカストルムが光弾を以って迎え撃つ。

 自身の不死性を理解しているのかそれとも理性や知性を失っているのか、被弾すら意に介さず敵との間合いを詰めてオーラの爪牙で蹂躙するという性質を持っている者がいる。


 器がミイラではあるものの、下位精霊達は受肉した邪精霊という括りに入る。邪精霊の力でそれを行うのだから、実際に相手をするとなると剣呑な相手だ。が――突っ込んで来ようとしたところでミイラは前につんのめるようにして転ぶ。

 エスナトゥーラが罠のように周辺に瘴気を撒いていたのだ。触れた瞬間に、展開した水分ごと足を凍り付かせていた。


 エスナトゥーラが身に付けている腕輪は、水の魔道具だ。ネシュフェル王国は乾燥した砂漠地帯という事で、空間から温度を奪っても氷結効果を発揮させられないと想定できた。エスナトゥーラの能力の本質は氷結ではないが、水や霧を発生させる魔道具を用意しておく事でエスナトゥーラがそれに瘴気を乗せて放ち、温度を奪うと同時に周囲ごと凍らせる事ができる。能力を普段に近い形で行使できるようにしたというわけだ。


「……テオドール様が見繕って下さった魔道具は、確かに私との相性が良いようだな」


 そう言ってエスナトゥーラは笑みを浮かべるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] コピシュとはマニアックな武器を使いますねw 打撃力のある弓形の剣でしたか。 力でグイグイ押してきそうな将軍のようですね。
[良い点] 獣もお神酒を口に含んで 汚物は消毒やー を繰り出していた
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