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番外1304 女王の復活

 相手が霊体、それも悪霊の類となればデュラハンの力を借りたいところだ。転送魔法陣が機能を果たすのを確かめる意味でもデュラハンには突入前にこちらへ来て貰った。


「相当な力を持った精霊だな……」

「おお……。よ、よろしくお願いします」


 と、ラプシェムとオーラン王子達はデュラハンの見た目にやや戸惑いながらも挨拶をする。対するデュラハンはと言えば手にもった首を縦に動かすように頷いて初対面の面々に挨拶をしていた。そんな様子を見てマルレーンも嬉しそうににこにこしていたりするが。


『かなりの強敵のようね』

「ああ。最初から大分後手に回ってしまっているから気合を入れていかないとね」


 クラウディアの言葉に頷く。みんなも俺の目を見るようにして、真剣な表情だったり微笑みを浮かべたりして言った。


『皆さんと無事に帰ってくるのを祈っています』

『ん。テオドールなら大丈夫』


 無事や勝利を祈る言葉をみんながくれる。墳墓が重苦しい魔力だからここにきて心強いというか。

 相手の存在の規模と言えば良いのか。仮に力を持った邪精霊クラスとなると時間停止をきっちり干渉させるのも難しくなるからな。アルハイムの時のように、あれを使って一気に倒すというわけにはいかなくなる。


 とは言え魔力集束や術式展開の加速は問題なくできるし、時間操作系の術や能力があったとしても恐らく俺には効果がなくなるという迷宮核の分析は出ているので、良しということにしておこう。


 オーラン王子もモニター越しにセルケフト王達に「行って参ります」と言葉を交わしていた。みんなも準備はできているというように頷く。


「では――参りましょうか」


 そう言ってみんなで階段を降りていく。降り切ったところで、重苦しい魔力が一層濃くなる。


 広々とした地下空間だ。刻印術式が床から壁面、天井に至るまで描かれていて――大きな柱が立ち並ぶ向こうに神殿のような建築物がある。霊体の鎮魂と封印を目的とした刻印が刻まれた空間か。当時の王国の者達はジェーラ女王の復活と報復を相当恐れていたというのが伝わってくる。


 玄室にこれだけ広い空間を作ったというのは、ジェーラ女王が復活した際にこの場で迎え撃つ事ができるように、という事だろうか。兵士達の展開や戦闘も想定した作りなのではないだろうか。


 神殿の手前に――石の棺が置かれている。あれらは女王の側近の墓、ということだろうか。

 漂う魔力が濃くて魔力感知は上手く機能しないな。生命反応も……魔力が厚すぎて機能しそうにない。


 隊列を組んだまま歩みを進める、と……こちらの動きに反応するように神殿の中から人影が現れた。


「叔父上――!」


 オーラン王子がその人物を見て言った。

 胸像の者達も揃っていて……その先頭に立っている身形の良い人物が、ラネブか。年の頃は三十後半ぐらい、だろうか。セルケフト王とは結構年の差があるな。

 距離を置いてラネブ達と対峙する。


「ふ……。あの方の仰っていた通りだな。侵入者と聞いていたが……お前だったか、オーラン。……ギメル族はともかく、国外の者や魔物のような有象無象まで聖域に引き込むとはな」


 そう言って俺達を一瞥するラネブ。あの方……ジェーラ女王の事か。

 そんなラネブの言葉に、オーラン王子は信じられないというようにかぶりを振る。


「叔父上、貴方は……ご自分が何をなさっているか、この行動がどんな事態を招くか、分かっておいでなのですか……!?」

「ほう。その様子では碑文の回廊の内容を理解しているのだな。いや、ギメル族が同行しているならば当然か。教団の仕業と勘違いしていたようだから、潰し合ってくれれば話は早いと思っていたのだが」


 非難するオーラン王子に、ラネブは片目を見開くようにして笑う。情勢を利用して、好機とも捉えていたわけだ。ラネブは芝居がかった大仰な身振り手振りを交えながら言葉を続ける。


「当然分かっているとも。私が伝承を発見し、私が聖域を見つけて碑文を解読したのだからな。知識を他者から与えられたお前とは違う」


 挑発するようなラネブの物言い。オーラン王子は動じない。静かに眉をひそめて言う。


「そこまで分かっていて。何故わざわざ平穏を乱すような事を」

「卑劣な裏切りの上に築かれた国の平穏など偽りに過ぎん。子孫である我らが贖いをすることにこそ意味がある。それに才ある者……私にこそ国を率いる王たる資格があると、あの方はそう認めて下さった」


 熱に浮かされたように嬉々として語るラネブ。発見した墳墓の調査を進める内に復活を目論むジェーラ女王の霊体との接触があった、という事なのだろう。

 自身の後ろ盾としたか。それとも力を得るための契約でもしたか。女王は女王で、霊体から精霊化するための足掛かりが必要だったのだろうが。


 ラネブは伝統や規律に過敏で……他者が思い通りにならない不満があった。遺跡を発見したり解読したりしたことを誇りに思っている。そこで自分の行いを認められたから心酔してしまったのだろう。


「……過去の者達の選択で過ちや犠牲があったからと言って、何世代も経た今になって新しく血を流そうとするのを厭わないのは本末転倒だな。そもそも国民の虐殺を正当化した事だって、為政者の端くれとしても俺個人の生き方としても、認めるわけにはいかない」


 そう言ってウロボロスを構えると、ラネブが俺を見て表情を歪ませる。


「他所者が……何を知った風な事を」


 ラネブがそこまで言ったところで――変化が起こった。神殿の内部から、凄まじい量の魔力が吹き付けてくる。重苦しい魔力。墳墓を満たしている魔力と同質のもので――。


「お、おお……! 我が主よ……!」


 ラネブがそれを見て表情を輝かせる。中空に渦を巻き、暴風のような魔力と共にそれが顕現する。


 ドレスに宝冠を纏った怜悧な美女の姿。額には第三の目が開いている。髪の先やドレスの裾がオーラのように揺らいでいる。ジェーラ女王だ。

 道案内してきてくれた魔法生物が身構えるが――オーラン王子がその動きを制する。


「待つんだ。みんなで協力して事に当たる。良いね?」


 その言葉に今まさに飛び掛からんとしていた魔法生物が足を止める。どうやらきちんとオーラン王子の指示を聞いてくれているらしい。


「あれは……」


 吹き付けてくるような魔力に身構えつつ、ラプシェムがジェーラ女王を見て言った。鳩尾のあたりに青く輝く宝石が埋め込まれている。それは……聞いていたギメルの秘宝の特徴と一致するものだ。それにもう霊体ではないな。邪精霊に似た気配も感じる。

 壁画では秘宝も手にしていた。ギメルの秘儀も……当然ジェーラ女王の知識にはあったのだろう。だから、秘宝がジェーラ女王の手元に届いた時点で邪精霊化は避けられない、とは思っていたが。


「ギメルの子らか。元々これは妾が正当なる所有者。妾の手元に戻る事に異議があるなら力で奪い取るがいい。そもそも妾を裏切った神官共の末裔など、生かしてはおかぬ。それよりも――」


 ラプシェム達を見やり、つまらなそうにそう言ってジェーラ女王は俺に視線を向けてくる。目を細めて、薄く笑う。


「精霊として生まれ変わり……目覚めてすぐにこれほどの強者と相対するとは、な。だが先程の口振りからすると、どうやら妾とは相容れぬようだ」

「そうだな。お前を自由にさせるわけにはいかない」


 こいつが解き放たれれば沢山の人達が犠牲になるというのは分かり切っている。だから、それだけでも止める理由としては十分だが……。

 タームウィルズで出会った人達。同盟のみんなの顔やヴァルロス達との約束の場面が脳裏を過ぎる。今まで出会った人達と、俺の生き方と。それらに懸けて、引くわけにはいかない。ジェーラ女王の行いは受け入れられない。


 真正面から見返せば、ジェーラ女王は笑い、虚空に手を伸ばす。

 辺りに漂う魔力が手の中に集まって凝縮されていき……そしてそれはオーラを纏う王笏となった。壁画で見た王笏の特徴に酷似しているが、苦悶の声を漏らす亡者のような顔が浮かんでいて、呻き声のようなものを漏らしていた。


 長年墳墓に蓄積した怨念を固めたようなものだろうか。あれがジェーラ女王の武器か。


「さて。では契約に基づき力をくれてやろう。我が信徒らよ! そして使徒達よ! 我が力を受け目覚めるが良いッ!」


 ジェーラ女王が王笏の石突を床に叩きつけると、ラネブ達を紫色の輝きが包む。


「お、おお、お……!」


 膨れ上がるラネブ達の魔力。邪精霊の加護か。

 同時に、神殿の周囲にある石棺が内側から弾け飛び、ジェーラ女王と同じようにオーラを纏うミイラ達が姿を現す。そうして、怨嗟とも咆哮ともつかない凄まじい叫び声を響かせた。

 両手を広げて雄叫びをその身に受けながら笑うジェーラ女王。亡者の喝采を受ける亡国の女王、か。


 だがミイラ達はいずれも纏う気配がアンデッドではなく、邪精霊に近いものだ。ジェーラ女王を高位精霊とするなら、それに仕える下位の精霊といったところか。


「女王は――僕が相手をします。恐らく他の皆では押さえておく事は難しいかと」


 そう言って一歩前に出ると、ラプシェムやオーラン王子達が表情を曇らせて言う。


「済まない……。我らの因縁に巻き込んでしまった」

「テオドール公……。改めて、助力に感謝します」

「いえ。生き方に懸けて、譲れないものというのはありますから」


 そんな風に笑って答えると、ラプシェムやオーラン王子達は意を決したような気合の入った表情で頷き返してくる。


 そうして中空に浮かぶと、女王も楽しそうに笑い、こちらに合わせるように高度を上げてきた。向こうも……俺を敵として認識したようだな。

 オズグリーヴが煙を展開し、ディフェンスフィールドの魔道具を起動させる。オズグリーヴを中心に防御陣地を築いて対抗しようというわけだ。では――戦闘開始といこう。

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― 新着の感想 ―
[一言] アンデッド風なテイストを加味された邪精霊といったところでしょうか。 そして王弟が調子に乗っていますが、果たしてどうなりますかw
[良い点] 獣も手から零れるぐらい握った塩を天高く打ち上げた (テオに掛かるところだった
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