番外1292 王都からの出発
シリウス号で移動するにあたり、同行している面々についてもセルケフト王やオーラン王子達に伝える必要があったが……魔人達との和解、共存については先に伝えてあるし、その契機となったヴァルロスやベリスティオとの約束や、種族特性を封印術で封印してある事も補足として伝達している。
「一緒にいる面々は先程の話の中で少し出たテスディロスとウィンベルグ達ですね。ウィンベルグに関してはもう魔人化の解除までしています」
「他の方々もいますが、接して見ても特に恐ろしい方々とは感じませんね。オルディアさんは元々自身の能力を使って人と共存していた方ですし、オズグリーヴさんは世間と関わる事を止めて、力の弱い仲間を連れて隠遁生活をしていた方ですから」
エルハーム姫が笑みを浮かべて補足説明してくれる。ギメル族の面々も既にテスディロス達とは面識があるので、同意するように頷いていた。
「それは――是非会ってお話をしてみたいものですね」
俺やエルハーム姫の言葉にそう答えつつ目を輝かせるオーラン王子である。ヴァルロスとの約束の話に感じ入っていた様子だしな。オーラン王子は気さくな印象なので人望があるのも分かる。
ネシュフェルは魔人達の脅威については殆どが伝聞系で、実際に被害を受けた事例というのは少ないらしいからな。
その辺は魔人達の主戦場が北方になった、というのが大きい。ベリスティオが率いていた頃も南の砂漠に魔力溜まりがあるせいで大規模な地上軍は派遣できないと、南側を脅威として見做さず他の方面に注力した、というのもあるようだ。
ベリスティオが封印された後はベリオンドーラやシルヴァトリア、ヴェルドガルと、やはり北方が焦点になっていた。
だからというか、ネシュフェル国内での魔人の脅威というと主にデュオベリス教団の話になって、実際の魔人達については恐れられてはいるものの、そこまででもない、というところはあるか。
そうして中継用の魔道具を設置したり転送魔法陣を王宮の一角に描いたりしながら話をしていると、ネシュフェル側の食糧や物資等の準備も終わったようで、武官が報告にやってくる。
「準備ができました。何時でも出発できます」
「では、参りましょうか」
「重々気を付けるのだぞ。皆の無事を祈っている」
「ご武運を」
オーラン王子が明るい笑みをこちらに向け、セルケフト王や重鎮達が居住まいを正して見送りの言葉を口にしてくれる。
秘宝に関しては王都内でも追跡調査をしてくれるらしい。恐らくは胸像の人物達が南方の都市に持っていったのだろうと思われるので、実行犯の身柄も同時に押さえて行方を聞くのを平行してやった方が確実だ。
というわけで出発である。南門に物資を積み込んだ荷車が既に待機しているらしいので、そこまでは俺達が持ち込んだ荷物だけで良い。同行している面々や、オーラン王子とその護衛の武官達と共に街中を移動し、南門で物資を受け取って王都の外へと移動していく。
聞き取り調査も進めていたのでそろそろ日が沈むという頃合いだ。
砂丘を一つ越えて、視線が切れたところでシリウス号が降下してくる。迷彩フィールドの範囲内に入ると、空を見上げていたオーラン王子達が「おお……」と声を上げた。
「飛行船……これが」
「こんな大きなものを不可視にできるとは……」
と、驚いている様子であるが。武官達は護衛の任務もあるからか、これから魔人達とも会うとあって、やや緊張気味である。
そこに甲板の縁からアルファ、コルリスやホルン、リンドブルム、アピラシアにカストルム、蛇形態に戻ったアルハイムといった面々が顔を覗かせた。コルリスとアルハイムの隧道の埋め戻し作業も無事完了したようだな。
護衛達は緊張していたが最初に顔を出した面々を見て少し気が抜けたらしい。タラップが降りて来たので、砂でゴーレムを作って物資を甲板に運びながら顔を出した面々をオーラン王子達に紹介する。
「というわけで――あちこちで知り合った仲間や使い魔や魔法生物の面々ですね。みんな気が良い連中ですよ」
俺の言葉を受けてコルリスが片手を挙げて護衛の武官達に挨拶をすると、護衛達も少し緊張感が解れたようで、少し笑って手を挙げて応じていた。
荷物の積み込みをしている内にテスディロス達も出てきて、オーラン王子達に自己紹介と挨拶をする。
「テスディロスだ。よろしく頼む」
「オルディアと申します。初めまして」
「おお。お話はテオドール公から聞いています」
割と和やかに応じるテスディロス達とオーラン王子達である。少し心配していたが護衛達もちょうど気が抜けて緊張が解れたところなので良い初対面になったという印象があるな。これなら心配なさそうだ。
そうして荷物を積み終わると、王宮から同伴してきた付き添いの武官が笑顔で一礼して荷車を王都に運んでいった。
さてさて。では、お互いの自己紹介も終わったところでシリウス号の内部へと案内していこう。
まずは船室に案内して手荷物等をそちらに置いてもらう。それから艦橋に通したところでオーラン王子達は感心と感動が混ざったような声を漏らしていた。
「これはまた……すごいものですね」
「シルヴァトリアとヴェルドガルの二国間での最新技術が使われていますからね。基礎部分はシルヴァトリアの設計ではありますが」
作戦にも関わってくるので伝声管や外部モニターの使い方といった部分を軽く説明していく。中継映像に映っているフォレスタニアにいるみんなも紹介すると、それでまたオーラン王子達は驚きつつも納得するような反応を見せていたが。
では――南方に移動していくとしよう。
操船席について、地図の位置を参考に移動を開始する。今回は街道沿いに進んで行けばいいだろう。
「まず潜入調査が必要となりますので、現地には夜に到着する速度で動いていきましょうか」
「我らは問題ない」
ラプシェム達も同意してくれた。潜入調査を行うために猶予を持たせて移動しているから街道沿いに進む事ができる。これなら座標がずれるといった心配もしなくて大丈夫だろう。
夕食はまだなので、船の内部で作ってギメル族やオーラン王子、ネシュフェルの武官達と交流の時間も確保したいところだ。これから行動を共にして作戦を進めていく上で交流の時間を確保しておくというのは大事だからな。
さて。そんなわけで南方の都市へ向かって移動しながらゴーレム達に厨房で料理を進めて貰い――夕食の時間となった。
メニューについてはオーラン王子やラプシェム達に聞いてみたところ、折角だから国外の料理を食べてみたいとのことだ。食材等についても特にタブー等はないようで。
ヴェルドガルの料理については今後タームウィルズを訪れることがあるのなら饗されると思うので、フォレスタニアに行けば食べられる料理という事で振る舞っていこう。モニターの向こうにいるグレイス達とも献立を合わせられるというのもある。
ネシュフェルにもギメル族の密林にも海の幸は無いだろうという事で、魚介類を含んでいた方が良いだろうと、今回はシーフードドリアとオニオンスープ、ポテトサラダを用意した。米料理で食材に魚介類もしっかり使えるしな。
焼き目をつけたホワイトソースとチーズの風味であるとか、イカや海老の食感、旨味が口の中に広がって、中々の仕上がりだ。
「これは美味だ……」
「風味も良いですね」
と、ラプシェムやオーラン王子達がシーフードドリアを口に運んで笑顔を見せる。
「口にあったのなら幸いです」
「テオドール公の料理は良いものですね」
「ええ。いつも美味しい物をありがとうございます」
エギールの言葉を受けてエルハーム姫もそんな風に言ってくれた。そんな調子でみんなで夕食をとりながら南方の都市へ向かってシリウス号は進んでいくのであった。