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番外1291 秘宝を取り返すために

 セルケフト王や交代した重鎮が胸像の人物達に関する情報を集めていくと、ちらほらと証言があった。やはりというか南方が絡んでいるようで、情報は王都や王宮から南に向かった時に集中している傾向がある。


 名前を聞いた事があると証言した者もいるし、胸像の人物複数人が一緒にいる場面を見かけている、という者もいた。

 それらの情報を基にして更に別の者から聞き取りを進める事で一部は足取りを追う事もできている。どうも王弟と時を同じくして王都を離れているようだ。ギメル族の秘宝を持ち帰り、それからまた南方へと向かった、と見るべきか。


 それらの目撃情報の人物名、場所、時期、状況、行先といった要点を項目分けしつつ紙に纏めて話し合いだ。


 同じネシュフェル王国内の者達なのだから、知っている人間がいる事そのものはおかしくない。その人物の背景や態度と合わせて考えれば、今のところ証言している者達の中に盗難事件の協力者はいないようにも見えるが。


 証言をした者達も……殊更王弟に近い派閥というわけではなく、政治関係よりは騎士や兵士といった武官に集中している傾向がある。これは目撃証言の多くが武官関係の施設に立ち寄った時であるとか街中を視察していた状況でのものだからだ。


 胸像の人物達は武官としての立場を持つ者や恐らく冒険者に近い立場の民間人なのだろうという者もいるようだな。

 ネシュフェルは他の国々と地理的に断絶しているから冒険者制度はないけれど、魔物を狩って素材の売却で生計を立てている者もいるようだし。


「――しかし、ラネブは政治的な派閥を形成して実権を強めているというわけでも、軍の有力者に近寄るような動きを見せているわけでもない」


 目撃情報を纏めた紙を見ながらセルケフト王が口を開く。王弟のラネブに関しては王宮内では怪しい動きが見られない、ということか。少なくとも、普段は。


「その辺りに働きかけがあると、父上の知るところになるかと」

「確かに。結びつきがないだけなのか、本気で何かを計画しているからこそ、気付かれにくい方法や人脈を選んでいるのか……」

「この人物達が意図を持っての人選ではないならば、もう少し無作為になると思います。だからと言って誰の意図に基づくものである、という確たる証拠とは言えませんが」

「無作為になる、か」


 俺がそう言うとセルケフト王は顎に手をやって頷いていた。証言はあっても決定的なものが出てこないというのは、そのように意図して動きを察知されないようにしているから、というわけだ。


「確かに……その辺りを意識していないならば、この時点でもう少し詳しい話が出てきてもおかしくはないな。発覚しにくくするための人選か。それとも最初からそのつもりで武官としての立場を得たか……」


 ラネブは王宮でこれら胸像の人物達の中の一部と会ったりもしていたようだが、南方の都市に配属された武官としてはどうも末端のようで、上の者達も殊更記憶しているような節はない。情報分析から察するに武官としての担当部署も分散している節があるし、民間人は言わずもがなで、わざわざ監視しているような国情でもないからな。


 王宮ではなく南方の都市で聞けばもっと詳しく分かるのだろうが……。


 ともあれ意図しての人選で裏での繋がりがあってきちんと計画を立てていたから、これらの者達が集まってギメル族の秘宝を盗み出しに向かう事ができた。王弟ラネブがどこまで知っていてどの程度関わっていたのかはともかく、かなり計画が練られていた事に関しては間違いない。


 ギメル族の集落に関して、彼らには事前に情報があったのか、それとも自分達で調査を進めたのか。複数人が武官としての仕事を休んで同時に不在になっているのも、計画性があるからこそだ。


 そういった考えを説明すると、一同真剣な表情で思案していた。


「事前に情報があったとするならばネシュフェル王国側の文献か。それともギメル族の内情を知る者が集落の外部にいるのか……」


 ラプシェムは顎に手をやりながら真剣な表情で思案する。


「ギメル族に関しては精霊祭の事もあって逸話や文献でその存在に触れているものもあります。古文書となると……その方面までは詳しくはないので何とも言えませんが、王城にもそういった類の書物はあります」


 オーラン王子が答える。


『古文書があってもその全てを網羅というのは難しいものね。必要な物を見つけられるか、役立てられるかは運と発想次第だとは思うわ』


 ローズマリーはオーラン王子の言葉にそんな感想を漏らしていた。


「古文書に触れる機会というのならば、ラネブはその点に関しては恵まれていたな。王弟であるからこそ国政や軍関係で実権を強めるのは良くないと当人は言っていたが。だからこそ古文書を解読したり歴史書を紐解いたりといった研究分野に力を入れるのだと……そう言っていたのだが」


 規則、伝統を重んじるというのならば、敢えて権力から遠ざかるというスタンスは妥当なところではないだろうか。その過程で何かの秘密を知って野心を抱いた、というのも有り得るし、偽装として周囲にそう公言していたという事も考えられるが。


「しかしそうなると困ったものだな。王宮に影響を与えず、発覚しないように動いている節があるとなると、後は現地に向かわなければ情報も出てこない、か」

「中枢に内通している者がいなさそうとなれば、一先ずの足場固めはできたようにも思いますから、悪い事ばかりではありませんな」


 宰相がセルケフト王に言う。その辺は確かに、な。


「現地に赴くのなら、僕達が乗ってきた飛行船もあります。陸を進むよりも短時間で現地に到着できるかと」


 同時に連絡を取り合うための魔道具もある、と伝える。武官を送り込む事も可能だが……まあ、実際に現地に赴いた上で南方都市がラネブによって軍事的に掌握されていないか確認する必要があるだろう。


「短時間、とは、どれほどかな?」

「恐らく……地図上の距離なら数刻もあれば」


 答えるとセルケフト王が驚きを見せるも、すぐに表情を真剣なものにもどして思案を巡らせる。


「何者かが不穏な動きをしていて後手に回っているのだとしても……それほどの速度で現地に向かえるのならば、対応して優位に立ち回る事が可能、かも知れんな」

「何かの実験や儀式等を進めているという可能性を考えても迅速に対応を進めた方が良い、というのは間違いないかと」


 盗難事件の犯人を発見し、確保した後で目的や真相について調べてもいいわけだしな。何かしらの計画があるのだとしても、肝になっているのはギメル族の秘宝で、重要なのはそれを取り返す事だと思う。


 そんなわけで、実際飛行船がある事の優位性を活かして現地に赴く、という方向で話が進んでいく。


「許可を頂けるなら、私もテオドール公と共に現地に赴きたいと思っています」


 と、オーラン王子が言う。ネシュフェルからも武官が同行するが、黒幕一味に王弟が加わっているかもと考えると、それだけでは不十分ということだ。事情を知らずに末端の兵士が協力しているようなケースであるとか、追い詰められて俺達を捕縛するような命令が出されるような事態を想定するなら、王弟の命令を止めるには同格かそれ以上の人物が必要となる、というのは分かる。


 セルケフト王が直接向かうのは……リスク管理の意味から考えても危険、となればオーラン王子が、というわけだ。


「僕としては、問題ありません。同行する以上は安全確保に努めつつ動きたいと思っています」

「それは……心強いな。すぐに必要になりそうな食料や装備などを手配し、出発の準備を整えさせよう」


 決まりだな。では、シリウス号でネシュフェル王国南方の都市を目指して動いていくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王弟の神経質さが更に浮き彫りになって黒幕説がいよいよ濃厚にw
[一言]  同盟に加わったら、飛行船ももらえるけど。きっと、テオ君がお得意の魔法建築で活躍してくれるよ! お山にトンネル掘ったり、転移門つくったり!w
[良い点] 鳥山の基礎となった獣は悪夢を見ていた 南斗の宿星の定めである
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