番外1289 王国とギメル族の邂逅
まずはラプシェム達に王宮へ来てもらうところからだな。
といってもシリウス号が停泊しているのはそんなに遠い場所ではない。南側に移動してラプシェム達を砂丘の向こうに降ろして待っているという状態だ。なので、俺達は少し空飛ぶ絨毯で移動し、彼らを回収してくればいい。
南側に移動したのはラプシェム達もセルケフト王とオーラン王子達とのやり取りに納得して方針を変えたからだ。
途中まで作った隧道は後で誰かに利用されないように破棄するという事で、今現在コルリスとアルハイムが地下に潜って隧道を埋め戻している最中である。それぞれ術を使って内部空間を岩で埋める形だな。
『コルリスの土の術は……魔力効率が良い、な。我にとっても良い刺激に、なる』
中継映像ではコルリスの使う術にうんうんと頷いていたりするアルハイムである。コルリスは小さな石を生成して、それを巨大化させるようにして空間を埋めていた。
アルハイムはアルハイムで、泥のような質感の土を生み出して空間を埋めてから岩として固める形だな。これはこれで湿地にいたアルハイムらしい術ではある。
コルリスはアルハイムの言葉に親指を立ててサムズアップで答え、アルハイムもそれに真面目な顔で頷いてからサムズアップで応じる。うむ。土属性同士仲良くしてくれているようで何よりだ。
2人の作業効率から言うと隧道埋め戻しの作業はそれほど時間もかからずに終わるだろう。作業が終わり次第、待機しているシリウス号に戻ってもらえばいい。
というわけで俺達は俺達で空飛ぶ絨毯に乗って王宮を出てラプシェム達の所へと移動していく。
「ああ――。これは楽しいものですね」
空飛ぶ絨毯に乗って楽しそうに笑うオーラン王子である。王子護衛の役目で同行しているネシュフェルの騎士達も、そんな王子の言葉に少し笑って和んでいる様子だった。騎士達は、駐屯地で見た顔触れだな。セルケフト王やオーラン王子から見て信用がおける人材なのだろうし、そんな王や王子も騎士達からの人望があるというのが窺える。
絨毯に乗って街中の上空を横切り、少し移動していくと砂丘が見えてくる。先に事情を説明してくると言って空飛ぶ絨毯をその場に残し、ラプシェム達と少しこれからの話をしてからオーラン王子と引き合わせる。
「お初にお目にかかる。ギメル族のラプシェムだ」
ラプシェムが名乗ると、他の面々も自己紹介する。翻訳の魔道具を装備してもらっているので意志疎通に不具合はない。
「オーラン=ネシュフェルと言う。ギメル族の方々に会えて嬉しく思う。しかし……出会いがこんな形になってしまった事が残念でならない。我が王国の者がギメル族に迷惑をかけてしまった事を申し訳なく思っている」
「王子殿下の謝罪には及ばない。テオドール殿と予測を立てていたが、国王陛下と王子殿下は善政を敷いていると聞いた故、王宮でのやり取りを知って、これまでの経緯に納得もしている」
「何者かが画策した事で、国王陛下や王子殿下……それに民達が知っていた事でないのなら犯人以外の責を問うのは理不尽というもの。そして、王子殿下のその気持ちは嬉しく思う」
「私達も……出方を見る過程で手荒な手段を選んでしまった事を申し訳なく思っているわ」
と、オーラン王子とギメル族の面々が言葉を交わす。
ギメル族の面々としては顔を見せた時に恐れられる可能性があったし、何より目立ってしまうからな。聞き込み等の情報収集は難しかっただろう。
ラプシェム達とて外部と接するのは初めての事だ。秘宝を盗まれた時点であまり良くない印象を持っていた、というのもあるのだろうが、ネシュフェル王国そのものが関わっているかの判断材料や正規ルートでの手段を持たず、ギメル族の事を推測可能な形で警告を行ったわけだ。
警告の際に出たという怪我人も軽傷で予後も良好だったとオーラン王子からも確認はとれている。ラプシェム達も許されるなら怪我をした者にも謝罪と見舞いを行いたいと、そうオーラン王子に伝えていた。
ネシュフェルとギメル族の関係が致命的なところまでいかずに済んで良かったと思う。こうしたやり取りが交わされるのを見ると安心できるところがあるな。
さて。そうやって挨拶と言葉を交わし合ったところでギメル族の面々も空飛ぶ絨毯に乗せて王宮へと戻った。まだ聞き取り調査が残っているので情報漏洩しないようにギメル族の姿は幻術で偽装して街中の移動中は隠しておいた。
セルケフト王は聞き取りの準備を進めていたが、俺達が戻ってきた事を聞くと、隣室から顔を出して、ラプシェム達に挨拶をする。
「セルケフト=ネシュフェルだ。こうして顔を合わせる事ができて嬉しく思う」
セルケフト王は自己紹介と挨拶をしてからネシュフェル王国の者がギメル族の秘宝盗難に関わっている事を謝罪したいとラプシェム達に伝える。
「全ては国を預かる、我が身の不徳の致すところだ」
そんなセルケフト王の言葉に、ラプシェム達は深く一礼をする。まず名を名乗り返してから、ラプシェムが言った。
「我らこそ……早計な行動により王国の者に怪我をさせてしまった事、それによる不安を齎してしまった事をお詫びしたい。一時は暮らす場所が離れて疎遠になってしまったが、また良き隣人として共に歩める事を願う」
「その言葉を嬉しく思う。此度の事態の解決に尽力する事で我らに二心がない事をギメル族に示そう」
そうして……セルケフト王とラプシェムは握手を交わした。怪我人への見舞い等は残っているが、ネシュフェル王国とギメル族に関しては一先ずこれで安心か。
『無事に和解が進んで良かったです』
と、アシュレイがモニターの向こうで笑顔で言うと、マルレーンもにこにこと頷く。
後は――秘宝盗難事件の犯人を特定し、解決に向けて調査を進めていく事になるな。なるべく早い段階で秘宝を無事に回収し、犯人達の身柄を確保できれば言う事はないのだが、さて。
というわけで挨拶と自己紹介も済み、互いへの謝罪を行って誤解も解けたという事で、セルケフト王は隣室にて聞き取り調査を進めていく事となった。
ただ、その前に俺達の目の前で書状を認め、南方に増強した兵士達を呼び戻す命令書を遣いに渡していた。
「やはり、実際に会うというのは重要だな。精霊達の反応を見ているとお二方は秘宝の一件に無関係だと感じる」
エンメルが言うとラプシェムとレシュタムも同意する。
「我らも過剰に警戒してしまいましたが……ギメル族の皆さんを探して遣いを出すべきでしたね」
と、オーラン王子は苦笑する。
「普段からの国交があればそれもできたのだろう。年長の者達に秘密主義的なところがあるのも分かっているから、その辺りが難しいのはギメル族が招いた部分もある」
そうだな。ネシュフェル王国とギメル族は元々悪い関係ではなかったがつかず離れず。疎遠になった理由については、ネシュフェル王国側の見解もギメル族と一致していて、砂漠の拡大によってギメル族の暮らす土地が南下する事で交流が少なくなった、ということで間違いないようだ。
だからまあ、現在のギメル族に対して遣いというのも中々難しい所ではある。
そんなわけで、俺達も俺達で聞き取り調査をしている隣室にて待機しつつ、今後の方針について話をしていく事となったのであった。王弟の周辺でキナ臭い動きが見られるといっても、まだ王弟の関与が決定的になったわけではないからな。伝え聞く性格から考えると内心で反感を募らせている者もいるだろうし、それが理由で陥れられている、という可能性だってある。
セルケフト王もオーラン王子も、それを分かった上で計画的な謀反という、対応が難しい状況を想定しているに過ぎないからな。