番外1286 オーラン王子との対面
広々とした庭園を通り、王宮内部の一角に案内される。貴賓室という事だが、その際、そこに向かう回廊で、数年前に使者としてバハルザードにやってきたという人物とも顔を合わせて挨拶をした。
「エルハーム殿下がお見えになったと聞き、挨拶に参りました。おお、大きくなられた。母君に似て参りましたな」
「これはカフラー殿。ご無沙汰しております。あの時は戦地に赴く前でしたので見苦しい姿をお見せしてしまいました」
「いやいや、戦装束に身を包まれた姫殿下のお姿は凛々しいものでしたぞ」
エルハーム姫がカフラーという人物に笑みを返し、少し自己紹介を交えた後で当時の思い出を振り返りながら世間話をする。
当時はまだカハールの率いる軍が健在でバハルザード国内は平定されていなかったが、大勢は決しつつある状況だったという事で、ネシュフェルも隣国であるバハルザード国内の情勢を探るのと、ファリード王との友好を望んでの使者であったらしい。
「ふふ。実際は鍛冶仕事を行って前線に出たりはしなかったので、あの鎧姿は兵士達の鼓舞の意味合いが大きかったのです」
「ああ。あの時もそのように仰っておいででしたな」
「そうですね。ゴーレムを使って鍛冶仕事をしにいくと伝えたら不思議そうなお顔をなさっていた事を覚えております。あの時は心配して下さってありがとうございました」
そんな風に和やかに言葉を交わす二人である。
なるほど。ネシュフェル側としては外との接点はバハルザードしかないからな。エルハーム姫が本物だと確実に分かる人物との面通しは必要だし、そうでなければ王族や重鎮と引き合わせるわけにもいくまい。
エルハーム姫もそれは分かっているから自分が間違いなく同一人物であると分かる話をカフラーにしているようだ。同時に俺達の身分についても伝えてくれて、間違いないとさりげなく証言してくれている。
以前エルハーム姫の特技を伝えているなら尚の事本人であるという証明はしやすいな。ゴーレムを用いての鍛冶技術を持っている人物となると、相当特殊で他の例を聞いた事がない。いざとなれば実演して貰えば本人である事は明確になるわけだし。
やがてカフラーは納得したように頷くと、「立ち話で長々と引き留めるのは悪い」と、一礼してその場を去っていった。
「大丈夫そう、だと思います。恐らく」
エルハーム姫がこちらに振り返って、真剣な表情で言った。
「殿下に同行して頂けたのは助かります」
「そう言って頂けるのは嬉しく思います」
そんな受け答えをするとシリウス号の水晶板越しにみんなも同意するように頷いていた。
そのまま俺達は貴賓室に通され、しばらくそこで茶を飲みながら待っていると、女官が部屋にやってきて「オーラン殿下がお見えになります」と伝えてくる。カフラーがエルハーム姫を確認したから、オーラン王子が話を聞きに来るというわけだ。
少しの間を置いて、部屋にオーラン王子が姿を見せる。
「遠路はるばるよくいらっしゃいました。オーラン=ネシュフェルです。父上は多忙故、まず私が話をお伺いしましょう」
そう挨拶してくるオーラン王子は……穏やかな雰囲気ながらも真剣な表情であった。こちらの用向きを考えればまあ、そうなるな。国王は執務等もあるだろうし、謁見の前にこちらの話を聞いて、方針などを定めてから、というのは理解できる。
「お初にお目にかかります殿下。エルハーム=バハルザードと申します。突然の訪問でありながらこうして快く応対して下さる事に、感謝を」
エルハーム姫が挨拶をし、俺達もそれに続く。
「よろしくお願い致します。それにしてもヴェルドガル王国の境界公と騎士殿……それに遥か北方のシルヴァトリアの騎士殿とは。対魔人で大規模な同盟を結成したという噂は聞いていましたが……」
オーラン王子は俺達が挨拶と自己紹介を済ませるとやや驚いた顔で目を閉じる。それからお互い椅子に座って、向かい合って話を続ける。
「緊急を要する話、と伺っておりますが、やはり用向きは魔人に関する事、でしょうか? 境界公に関しては……魔人殺しにして不世出の大魔術師という噂も聞き及んでおります。爵位と領地については寡聞にして知りませんでしたが」
同盟に関する話がある程度伝わっているなら、オーラン王子としてはそう判断するか。丁度教団残党に関しても警戒している時期だしな。それと……情報伝達も限定的か。
「いえ。話をすると少し複雑ではあるのですが……殿下は南方に住むギメル族、という方々をご存じでしょうか」
「知っています。魔法に優れ精霊の性質によく通じる、幻の民と言われています。かつてはネシュフェルとの交流もあったという話ですが……」
オーラン王子は顎に手をやって少し思案している様子であった。ギメル族についても襲撃事件に関わっているという話があるから、魔人や教団ではなく、そちらについての話だと見当をつけたのだろう。
「実は……彼らと知己を得る機会を得ました。ギメル族の皆さんは集落から持ち出された秘宝を追って、追跡を進めていたようです。同盟はそれを知り、彼らの捜索に協力をする事としたのです」
「それは――」
持ち出された秘宝と聞いて、オーラン王子は僅かに驚きの表情を浮かべた。これに関しても心当たりのある話だろうな。南方に兵を派遣している、という話だし。
「僕としては……その秘宝というのが精霊と縁の深い品であると聞いて気になっているのです。過去、そうした品や技術を弄んだ者達が大きな事件や事故を引き起こしていますので」
「なるほど……。そういう事、でしたか。そのお話に関しては、同盟の国王陛下やお二方も信用するに足ると考えておいでなのですね?」
「そうですね。彼らは精霊信仰をしている一族ですから、信仰心に関わる事で嘘を口にすれば精霊達は離れていくはずです。僕の見たところでは、そういった反応は見てとれませんでした。それに、ギメル族の方々は必要とあれば魔法審問で嘘を言っていない事を証明する事もできると仰っていました」
オーラン王子の質問に答える。ギメル族としては、秘宝が返って来れば方法はそういう物でもいい、との事であるが。
「やはり、これだけ重要な話となると、父上を交えて話をしなければなりませんね。実は少し前に兵士達が……恐らくギメル族と思われる方々と遭遇し、小競り合いになっているのです。我が国では直近でもう一つの問題を抱えており、デュオベリス教団の残党がその事件を起こした可能性も見つつ動いていたのですが……。そうですか。ギメル族の秘宝……」
そう言ってオーラン王子は目を閉じて眉根を寄せる。色々な可能性が頭を過ぎっているのだろう。
それに……教団残党についての話を切り出してきた、か。オーラン王子は静かに頷くと、口を開く。
「実は教団に関しては、バハルザード王国にもお伝えしなければならない事があったのです。それに関しては陛下とも相談し、使者を派遣すると決まっていたのですが、件の事件が起きて状況が落ち着くまで保留という事になっていました」
オーラン王子はそう言葉を続けた。ガルディニスの、伝言についてか。
俺も頷いて、オーラン王子に答える。
「殿下や陛下には、僕からもその点についてお伝えし、謝らなければならない事があります」
「テオドール公が我々に……? その話は気になりますが……そうですね。これ以上は父上を交えてお話をしましょう。これからの事も話し合わねばなりません」
そうだな。確かに。では、ネシュフェル王を交えて話を進めていこう。




