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番外1284 ネシュフェルとの対話に向けて

 シリウス号の艦橋でみんなと作戦会議を進めていく。ネシュフェル王国の出方を色々と想定して、対応を考えておかなければいけない。


「もし王国が、国としてこちらに危害を加えようとした場合は?」

「その時は転送魔法で離脱して対応しよう。結界術や呪法を使って、ギメル族の安全を守る手立ても考える、と」


 テスディロスの言葉に答える。それは国王や王子も世間の評判と実態は違う。或いは交渉が決裂した、という最悪のケースの場合だな。


「元より、我らはこちらの正体や意図を伝えるつもりで動いている。向こうがかつての互いの関係を覚えていてくれる事を期待していたが……それが望むべくもないとなれば、我らとてその後の事態への覚悟もしてきた」


 エンメルが目を閉じて言うとレシュタムも首肯する。


「これは……長や祭司長達の方針でもある。ただ一族全体として対応すべき事だから……潜入や奪還が難しそうなら私達だけで無理はしないようにと、そう言われたわ」


 確かにラプシェム達はこれみよがしに仮面の姿を見せて秘宝についての話もしている。ギメル族である事も、そうして伝えようとしているわけだ。ただ……ガルディニスの事があって彼らの想定通りの対応にはならなかったけれど。


 これは相手の善性に期待しての事ではあるだろうし、きちんとネシュフェル王国側が対応してくれるならそれで手打ちにする、というメッセージでもあるのだろう。


 襲撃の時に出た怪我人も、情報収集によればそれほどの手傷ではなかったという話だ。治療や見舞いも考えたが、ラプシェム達から実際のところを聞いても軽傷で予後は良さそうだしな。


 ただ、相手が聞く耳を持たなかった場合はその後のネシュフェルとの諍い等も覚悟している、と。これに関しては独断ではなく一族としての方針という事らしい。質実剛健というか何というか。


 ちなみに、ラプシェム達はギメル族の中では戦士的な立場で、魔物から集落を隠したり、守ったりしてきたとの事だ。戦士と言っても一族全体が魔法を主体とするのでシルヴァトリアにおける戦闘魔術師的な位置付けだな。


「秘宝は一族と精霊との絆でもあると言い伝えられている。祖先達の弔いと共にあったものであり、恐らくは今を生きる我らがいずれ眠りにつくときに必要とするものなのだろう。だからこそ、一族とは関係のない者達が助力してくれるというのは嬉しく思う」


 ラプシェムは俺を真っ直ぐに見てそう言った。俺もそれに頷いて応じる。

 ギメル族の秘宝は……彼らの死生観や文化に密接に関係しているようだな。

 実際、ラプシェム達が秘宝を見かけた時は精霊達の気配を強く感じたとの事だ。言い伝えに関しては信憑性が高そうだし……葬儀の際に用いられてきたというのも事実なのだろう。


 秘宝が宿している真の能力だとか、応用して何かに利用できるというものがあるのだとしても、それよりも秘宝が精霊との絆として齎されたという経緯や、今まで祖先達が積み重ねてきた歴史の方がラプシェム達にとっては大事な物なのだろうという気はする。


 そうしたものを盗み出すというのも……まあ大概だ。

 少なくとも、ラプシェム達は嘘を言っていないと思う。周囲にいる小さな精霊達の居心地が良さそうだからだ。精霊信仰を持つ種族であるから、こういう信仰に関わる事で嘘を言うと魔力に反応が出るし、信仰心があるだけにそれを小さな精霊達も感知してしまうというのがある。


 神官や巫女達の場合でも、戒律破りや後ろめたい行動をしているという自覚があったり、狂信で独善が過ぎると祈りが神格と共鳴せずに力を引き出す事ができないというような事態になったりするからな。割と繊細な力だと思う。


 こうして有事も想定しているが、俺達の立場としては調停役や橋渡しになるのが基本だし、話し合いだけで解決するならそれに越した事はない。


 いずれにせよネシュフェル王国そのものが敵意を示してきた場合は、ギメル族の安全確保を優先しつつ、戦意を削ぎ取る方向で考えるか。

 ネシュフェルの魔法技術も確かに高いが……まともにぶつかるとデメリットの方が大きく勝ると感じさせれば正面衝突を避け、交渉に持ち込む事はできる……と思う。


「とはいえ……ネシュフェル側の対応としてはそういう、行きつくところまでは行かない、と見ています。実際ネシュフェル国王やオーラン殿下の評判は良いようですし、街中の様子を見ても平穏で善政を敷いているのは見て取れました。実際にオーラン殿下の様子や言動も見ていますが、誠実そうな人物でしたよ」


 これまでの調査で見てきた物を伝えると、ラプシェム達は思案するような様子を見せた。


「先入観を以って臨まない方が良い、という事だな。まだ誰の意図でどういう目的で、我らの秘宝を持ち出したのかがはっきりしていない」


 いずれにしても証言の信憑性は高めておいた方が良い。記憶違いという事もあるので、ラプシェム達が精霊の記憶から得た、秘宝を持ち出した者達の容姿等をそれぞれランタンで映してもらい、それを土魔法で胸像にしておく。


 精霊達の留めていた記憶であるが、複数人で精霊同調を行った上で同じ顔触れがいるのが確認できるので、十分に信頼性の有りそうな情報と言える。


 捜査する上でオーラン王子達がこれを信用してくれるなら実行犯の特定から黒幕を推測したり、秘宝の所在を掴むための決め手にもなるだろう。後は人相や特徴から本人を特定し、魔法審問で実際のところを明らかにしていけばいい。


 そうやって色々と相談して今後の方針と作戦を練っていると、書状を受け取りにいっていたエルハーム姫と共に騎士団のメルセディアがフォレスタニアに姿を見せた。


『転移港を使って、書状を預かってきました』


 エルハーム姫が笑顔を見せる。メルセディアもメルヴィン王から書状を受け取ってきたそうだ。


『僭越ながら私もテオドール公の護衛という立場で合流するようにと仰せつかりました』

『同じく。私もバハルザードを代表し、父の名代としてそちらに合流したいと思います。同盟が正式に支援している事を示すという意味としても伝わるかと』


 なるほど。二人が一緒に来てくれれば確かに同盟としてのスタンスも明確になるな。ネシュフェルはバハルザード以外との接点が殆ど無い国だし、そのバハルザードとも立地の関係で交流が多いとは言えない。


 まずはメルセディアとエルハーム姫を転送術式でシリウス号に迎えて、それから動いていこう。


 簡易竜舎に移動し、転送魔法陣でフォレスタニアからこちらに呼び寄せる。二人に加えて、更に同盟から護衛の騎士が数名同行する事に決まったそうで。

 転送魔法陣で一緒にこちらに飛んできたのはシルヴァトリアの魔法騎士エギール、グスタフ、フォルカの三名であった。


「お待たせ致しました」

「よろしくお願いしますね」


 光と共にシリウス号側にやってきたメルセディアとエルハーム姫が笑みを見せ、エギールも三人を代表して挨拶してくる。


「こうして境界公に同行できること、光栄に思います」

「こちらこそ光栄です。よろしくお願いします」


 挨拶を交わしてから、ギメル族の面々と引き合わせて互いに紹介する。仮面を外して挨拶するラプシェム達に、エルハーム姫達も和やかに応じていた。

 メルヴィン王の書状は俺が預かり、ファリード王の書状はエルハーム姫が持つ、と。


 書状も用意できたし、方針と色々な状況に対応するための想定も進んでいる。もう一度集まった面々を交えて確認したら王都を訪問する、という事になるかな。

 その際はギメル族の付き添いと調停役であり、正式な使者としての訪問という事になる。ネシュフェルとの今後にも関わるので、慎重に臨むとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ギメル族である事もして~ 「○○して」か「して」を省略するのが分からなかったので、こちらで報告させてもらいます。 すみません。 精霊レコーダーに記録されていたとは実行犯も気づかなかったよ…
[良い点] 土竜は一族と精霊との絆でもあると言い伝えられている。祖先達の弔いの踊りが元にあったものであり、恐らくは今を生きる我らがいずれ眠りにつくときに必要とするものなのだろう。だからこそ、一族とは関…
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