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番外1275 ティルメノンへの潜入

 王都に到着したのは昼前の事だ。王都へ入る順番待ちをしている人の列も見られた。人がはけるのを待ちつつ、テスディロス達の作ってくれた昼食を食べてから王都内部に入る、という事になった。


 シリウス号を街道から少し外れた場所に移動させて待機。潜入調査の準備をしながら昼食を待っていると、やがて出来上がった品々が運ばれてくる。

 テスディロス達が作ってくれたのは魚介類の入った炊き込みご飯と味噌汁、天ぷらといった品々だ。


「いや、これは嬉しいね。どれも出来がいい」


 揚げたての海老の天ぷらは衣も良い塩梅で香ばしく、食感も良い。炊き込みご飯も旨味たっぷりで食が進むものだった。


「お口に合ったようなら何よりです」

「テオドール公の好みの方向を目指しましたからな」


 オルディアとウィンベルグが笑みを見せる。料理に関しても学んでくれているようだが、このあたりの品々を昼食のメニューに選んだのはそういった理由なわけだ。


 そんな調子で和やかな昼食の時間を過ごした後で残りの潜入準備を進めた。

 ジャレフ山近辺の地方都市に潜入した時と同じく、外見を整える。キマイラコートとウィズの変形。変身呪法による容姿の変化。前回とは少し雰囲気と刻印術式の位置も変更しておけば、目撃証言等から特定されるような事もあるまい。


「髪の色を少し変えて長くした、というわけですな」

「そうだね。ネシュフェルの人達を見て、似た感じの特徴が多かったから、これなら大丈夫かなと思って」


 オズグリーヴが俺の姿を見て頷く。変身で髪を伸ばしたのも、印象を変えた結果だな。刻印術式は首にあったものをみぞおちのあたりに。違う種類の刻印を肩口に。

 ネシュフェルの人達が利用している刻印術式は、必ずしも刺青ではなく染料という場合もあるようだが……暑さ対策等、ネシュフェルで生きる上で必須に近い刻印は簡単には消えないような処置を施したり、刺青方式を選んでいたりする場合が多い。


 だから俺も染料ではなく刺青に見えるように変身呪法で調整している。これなら単純な変装でどうにかなるものではないからな。


 みんなから見ても不自然なところはない、との事で。

 例によって転送魔法陣を内側に描いた布であるとか、行商に見せかけた荷物を用意する。荷物の中身も前回と違うものにする。木や石の装飾物やガラス細工というのは既にやったので、今度は少し趣向を変えてみる。


「おお。これはまた……」

『綺麗なものですね』


 と、それを見たテスディロスが声を上げ、アシュレイが表情を綻ばせる。


 紙の上に色の付いた砂で絵を描いて固着させた……という風に見せかけて木魔法、土魔法で作った品だ。ルーンガルドでそういったものがあるのかは分からないが、要するにサンドアートだな。刻印術式も裏面に施して強度も上げておく。


 置物であるとか細工物を選んでいるのは……作るのに技術が必要そうな品なら身分を疑われにくいだろうと踏んでいるところがあるからだ。剣やポーションのような実用品ともまた違うので、警戒もされにくい。


 サンドアートの内容としてはラクダといった動物やオアシスの風景。街角で談笑する人々といったものだ。ネシュフェルの日常で見られるものをモチーフにしている。


 さて、では王都内部へ向かうとしよう。今回は初めての場所への訪問なのでカドケウスを連れていく予定だ。街中の構造も早めに把握しておきたいし、カドケウスがいれば街中での噂話等も含めて情報収集できるからな。


 上空から簡単に街の様子を見て、平面図を作製。後は現場で諸々補完していこう。甲板から降下して、街道近くにある砂丘の日陰に着地する。ジャレフ山の近くは水源が豊富なせいか植物もまばらに生えていたから足跡も誤魔化しやすかったが……王都周辺はオアシスのある街中以外は不毛だな。


 風はあるので足跡もすぐに消えるだろう。誤魔化すために土魔法で往復したように足跡を付けて街道に戻る。王都だけあって往来が多いので他人の足跡も結構残っているし問題はないだろう。


 王都に入る人達の列に加わって順番待ちだ。荷物を調べたり質問をしたりしているが、大きなトラブルもなく列は流れているようではある。ただ、襲撃事件があった関係で警備態勢も厚くなっているのだろうなという気はする。


 やがて俺の順番もやってきて……どこからやってきたのか、荷物について等も尋ねられたりした。


 ジャレフ山近くにある都市部から、と答えておく。あちらの状況を知っている方がボロも出にくい。


 荷物の中身も見せると、門番は「ほう」と感心するような表情を見せた。


「砂で絵が描いてある、のか?」

「こういう品にはあまり知識はないが色合いが鮮やかなものだな」


 門番達が興味津々といった様子でそれを覗き込んでくる。


「発色は中々上手くいったのではないかなと。趣味が高じたものですが、王都ならこうした品に理解を示してくれる方もいるのでは、と思いまして」

「なるほどな」


 門番は頷き、納得してくれたようで通って良いと言ってくれる。


「高く売れると良いな」

「ありがとうございます」


 お礼を言って王都の中に入る。

 門番は忙しそうにしているし、待っている人もいるからな。あまり別の話題は振らない方が良いだろう。露店をする場合の王都でのルールや警備の厚さに絡んだ事件の話など、話題にしたい事がないわけではないが、その辺りは街中の兵士に聞いた方が良さそうだ。


 王都ティルメノンの外壁から都市内部に入ると、外と空気が変わって割と涼しく感じられた。建物も道も石造りで舗装されているが、あちこちに刻印術式が施してあって都市内部の住環境を整備しているようだ。

 効果の程度や範囲等を諸々調整しているようで、刻印術式の研究が進んでいる事を窺わせる。


 門から入ったそこは大通りだ。人通りが多く、警備の兵士達も多く巡回しているが活気がある。砂漠の王国で石造りの都市……。無機質なのかと思えばそんな事はなく、水路が設けられて街の要所要所に緑が目立っていて、美しい都市だと思う。


 大通りの向こうに広場。更にその向こうに――街の中心部……宮殿があるのが見通せる。陽炎でゆらゆらと揺れる、壮麗な印象の宮殿だ。


 街の平面図は既に上空から入手しているからな。少しばかり街を歩いて気になるところも見て行きたい。


「それじゃあ始めよう」


 そう言うと、影に潜んでいたカドケウスも五感リンクで返事をしたのが分かった。建物の影に溶け込むように地面を滑っていく。日差しが強い分、影も濃い。人通りも多いので潜む影には不自由すまい。


 カドケウスが調査するのは裏通り等、あまり人目につかない場所。俺は観光客や行商がいても不思議ではない大通りや比較的広々とした場所を中心に王都を巡っていく。


 王都に来るのは初めてという事で、ある程度は観光という名目でうろついても大丈夫だろう。後は頃合いを見て兵士に行商や露店を行う際のルールを尋ねたりしつつ情報収集を平行して進めるわけだ。


『街は平穏な印象がありますね』

「そうだね。活気もあるし往来も多いし」


 エレナの言葉に答える。明るい笑顔で談笑する人達。手を繋いで歩く親子連れ。走っていく子供達……。この辺はまあ、国王が善政を敷いているからという印象だな。兵士の巡回も多いが、現時点では厳戒態勢と言うほどではないようだ。


「裏通りも……そんなには治安が悪いようには見えないかな?」


 貧富の差はあってもそこまで陰鬱な雰囲気はないというか。砂漠の国でありながら刻印術式で農業にも力を注いでいるらしいしな。


『王家に関しては伝え聞いた情報通りという事なのかしらね』


 と、クラウディアも頷く。確かにな。

 もう少し街を巡ったら情報収集を始めていくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色つきのサンドアートは珍しいですね。 ブラシで描いたように見えるのかなと想像しました。
[良い点] 影に潜んでいた獣も腹太鼓で返事をしたのが分かった
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