番外1267 ネシュフェル王国の動向は
というわけでガルディニスの隠れ家があるジャレフ山へ向かう事となった。
ガルディニスの隠れ家、及び偽装の隠れ家の監視状況に変化はない。
ネシュフェル王国のオーラン王子はガルディニスと俺が共同で書いた魔導書を受け取った時の反応を見るに、信用のおけそうな人物だったな。
王都へと報告に向かったはずだ。それに対する反応もそろそろあっておかしくはない頃合いだろう。
というわけで今回は少しばかりネシュフェルの動向を調べる予定も組んでいるので食料や物資も多めに積んでいる。
同行する面々としてはテスディロス達で、これについては前回と変わらずといったところだ。
そうして造船所にて積み込んだ荷物と目録のチェックも終わり、出発の時がやってくる。
「荷物は揃ってるかな。このまま出発できそうだ」
「ええ。留守の間の事は任せて」
「今度は本当の隠れ家だものね。場所は抑えているにしても、十分に気を付けて」
ローズマリーとステファニアが言う。
そうだな。ガルディニスの仕掛けた罠付きの封印を解除する正規の方法は聞いているが、罠は効果範囲が広いようなので、そこで失敗をすると影響が大きい。
石化解除の術式はあるにしても、広範囲となると解除にも手間がかかるし、変化の度合いとしては大きなものなので、自重で地形が砕けたり崩れたりもするだろう。いきなり表層が石になって重さが増したら氷河も砕けるし地滑りなどが起こってもおかしくはない。
当然ながらガルディニスの遺した物品も取り扱いにも注意が必要だ。
そんなわけで後顧の憂いを無くした上で、まずは封印の解除と物品回収に集中させてもらうとしよう。
「いってらっしゃい、テオ」
「お気をつけて」
「ああ。行ってくる。今日は雪が降っていて寒いから、帰り道も気を付けて」
グレイスやアシュレイにそう答え、見送りに来てくれたみんなと抱擁しあう。
「帰りは……そうね。転ばないようにフロートポッドごと転移で戻るのが良さそうだわ」
「それなら安心ですね」
クラウディアの言葉にエレナも微笑み、マルレーンもこくこくと頷いた。
ん。そうだな。みんなと少し別れを惜しんだ後でシリウス号に乗り込んで出発する。
同行するテスディロス達も、隠れ里の面々や各氏族の者達に見送られて甲板から俺と共に手を振って。そうして俺達はネシュフェルに向かって出発したのであった。
「現地に到着したら、まずはガルディニスの隠れ家に移動して、封印解除と物品回収をこなしてしまおう」
「では、その際は私が周辺を煙で覆って氷河や岩肌を再現し、作業しているところを見えなくしましょう」
ジャレフ山に向けての移動中に、みんなと現地に到着してからの事を話し合い、簡単に作戦を決めておく。俺が封印の解除や物品回収をする間にオズグリーヴが周辺を偽装してくれる、というわけだ。
「それなら確かに落ち着いて作業ができるかな。物品回収は――」
俺が言葉を続けると、自分達が手伝う、と言うようにアピラシアが頷き、ティアーズもマニピュレーターを挙げて主張してくる。
「分かった。危険性を判定して、問題が無さそうなものは運んでもらうよ。危険そうなら封印術を用いて、それを固定してからかな」
そう伝えると、アピラシア達はこくこくと頷いていた。
「では、俺達は船の警備と周囲の警戒といったところか」
「ああ。シリウス号を配置する位置も、俺の背後に来るようにしておけば、封印の解除を失敗した場合でもとりあえず分解術式で守れるかな」
「石化の術を根本で消して背後に当たらないようにするというわけですな」
テスディロスへの俺の返答に、ウィンベルグも納得したというように言う。
「そうだね。カストルムの探知を誤魔化した時と同じ方法だ。出力にもよるけど背後であれば押さえて無害化できると思う。念のため、操船席はバロールに任せて防壁を張れるように準備もしておこう」
そう答えるとカストルムも目を明滅させて頷き、バロールも目蓋を閉じて頷くような仕草を見せた。
「私は物品から能力を奪って封印する方向で動いた方が良さそうにも思います」
「そこで手伝ってもらえれば確かに助かるかな。それじゃあ封印が解けたらオルディアも内部に立ち入って手伝ってもらうかな」
「はい。任せて下さい」
では封印の解除と物品回収に関しては各々の役割も決まったか。
「その後の調査については?」
「近隣の街とネシュフェル王都での情報収集かな。オーラン王子の動向や周囲の反応を調べてこよう」
それで問題が無さそうなら一先ずは安心なのだが。
ガルディニスの伝言を受け取ったオーラン王子は……それを隣国のバハルザードにも伝えたいと、そう言っていた。
バハルザード王国もネシュフェル王国もデュオベリス教団が活動していた地域だからな。その辺をバハルザードにも伝えて今後の為政者のあるべき教訓としたいとオーラン王子が考えるのは分かる。
教団の信徒に対しては……ガルディニス自身が武器を捨てても構わないと言っているのだから、ファリード王やオーラン王子が善政を敷いている限りは一応矛を修めさせる説得の材料にはなる……だろうか。
戦う力を既に持っているから何時でも立ち上がれるだろうとも説いているから信徒が絡んだ場合の扱いは劇物ではあるが。
まあ、オーラン王子の持ち帰ったガルディニスの伝言を受け取って国王がどう動くか、だな。
情報収集については、変身術式とキマイラコート、ウィズの変形で現地に溶け込める姿を取れる俺が行くべきだろう。今回は情報収集も行うという事で、夢の中で聞き込みもできるようにホルンも一緒に来てくれたから、現地に紛れ込まなくても対応できるようにしているが。
「ふむ。潜入しての情報収集となると、やはり私達では動きにくいですな」
封印術を維持していないと結界を越えられないし、俺と別行動をしていると何かあった時に身を守るのが難しくなるからな。
「その代わり、何かあった時には頼りにしてる」
「任せてくれ」
オズグリーヴの言葉に笑ってそう答えると、テスディロスは静かに頷いていた。
水晶板モニターで現地の状況を確認してみるが……異常はないな。本物の隠れ家は場所が難所だからか、訪れてくる者は今まで1人もいない。
これで何かしら異常があればいつでも転移できるように準備を整えていたが、その必要は無さそうだ。シリウス号と共に万全の体制で封印の解除に臨む事ができそうである。
俺が構築した偽の隠れ家の方はと言えば……オーラン王子が警備に付けた者達が現地に留まりつつ定期的に見張りを交代したりしているが、こちらも今のところ変化はない。
今回も途中で寄り道をしたりネシュフェル以外の場所へ向かう予定はないので、シリウス号は速度と高度を上げてジャレフ山への最短距離を真っ直ぐ突き進んでいく。到着まではそれほどの時間はかからないだろう。
そうやって作戦を立てたり打ち合わせをしたりしている内にもシリウス号は高速飛行を続けていき――段々と景色が変わっていく。
やがて……遠くにジャレフ山が見えてくる。
こうして砂漠地帯にありながらも氷河を有する高山という事で、周囲の水源にはなっているな。だからこそ隠れ家に仕込まれた罠が危険度を上げているとも言える。標高の高い、氷河の近くにあるからな。
では、早速ガルディニスの隠れ家に向かうとしよう。仕込まれた術式が正確ならば、もう封印を解いても大丈夫なはずだからな。
ネシュフェルに被害を出したりする事がないように、しっかりと仕事を進めていきたい。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!
今月、12月25日に境界迷宮と異界の魔術師の書籍版12巻、コミックス版3巻が同時発売予定となっております!
詳細については活動報告でも掲載しておりますが、今回も書き下ろしを収録しています。
こうして刊行についてのご報告ができるのも、ひとえに読者の皆様の応援のお陰です。改めて感謝申し上げます!
今後ともウェブ版共々頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。