番外1266 返礼と祝いを
「おかえりなさい」
「お帰りをお待ちしておりました」
グレイス達と一緒に中庭に移動すると、隠れ里の面々、各氏族の面々がセシリアや迷宮村の住民達と一緒に出迎えてくれる。
夕食の準備を進めている最中らしく、顔を認めると挨拶をしつつ、少し忙しそうに動いていた。料理の匂いも漂ってくるな。
夕食まではまだ少し時間があるからな。とりあえず荷物を片付けたり服を着替えたりしてくるとしよう。
というわけで一旦移動し、まずは食事前に衣服を旅支度から日常用のものに着替える。魔法建築とは言え土いじりをしたわけだし、埃っぽくならないように生活魔法で浄化しているから、あくまで戦闘服から普通の服に着替えてリラックスさせてもらうだけではあるが。
各種魔道具を仕込んだり水竜の鱗を組み込んだ戦闘服を着込んだりしているしな。
キマイラコートについては変形させられるので、その場その場に合わせたアウターに変更できるというのもあり、着回しが楽でいいが。
そうして着替えてから手荷物を整頓して中庭に戻る。アルバート達も姿を見せている。
「やあ、テオ君。無事に帰ってきて何よりだ」
少し間を置いてテスディロス達も身支度を整えて中庭に戻ってきたようだ。
中庭には椅子とテーブルが並べられて、夕食の準備は引き続き進行中という印象だ。
「今日は私達も料理を手伝った……」
「それは楽しみだな」
小さく笑うテスディロスとそんなやり取りを交わしているのは、各氏族の子供達だ。料理に不慣れな者は隠れ里の住人にアドバイスを貰いながら進めたらしい。
各氏族の子供達は比較的大人しい子が多いように思う。総じて普通の子供よりも精神的に落ち着いた雰囲気があるが、俺達のところにも料理の手伝いについて報告しにきたりして、年相応の子供らしい側面もちょくちょくあるのだ。
「うん。楽しみだな」
そう答えると、嬉しそうに笑って手伝いに戻っていったりして、「ありがとう」と礼を言うステファニアと笑顔で手を振り合ったりしていた。ああした素直な反応は微笑ましいな。
それから程無くして、料理が次々と運ばれてくる。スプリントバードの香草詰めやら、迷宮食材も活用しての豪華な料理が多い。氏族の面々が用意した料理だというから習作という事かと思ったら結構手の込んだ本格的な料理だ。テーブルの上にそれらが並べられたところで、レドゲニオスが一礼してから言った。
「私達からの日頃からのお礼や、此度の作戦への感謝でもあります。楽しんで頂けるように皆で頑張りました」
「いつもありがとうございます。私達を受け入れて頂き、将来の事まで考えて下さっている。テオドール公にお礼を申し上げます」
レドゲニオスの言葉を受けてイグレットも言葉を続け……他の氏族の面々も俺に向かって一礼してくる。
ああ。そう、か。モニュメント設置や啓示の儀式、集合場所の構築等々、魔人達との共存絡みの仕事をしていたから……それが一段落したところで何かしようと準備を進めてくれていたわけだ。
「こちらこそありがとう。こうやって祝ってもらえるのは……嬉しいな、うん。俺も皆の事や、まだ面識のない氏族達の事をしっかりと前に進める事で、気持ちに応えたいと思う」
そう答えるとセシリアとミハエラ、それに迷宮村の面々、氏族の面々が拍手を送ってくる。グレイス達も視線が合うと微笑んで頷いてくれた。
そうして夕食の席が和やかな雰囲気の中で始まったのであった。
香草詰めのローストスプリントバード、新鮮なサラダ、貝と香辛料で味付けたパエリア。トマトとキノコのスープ。それに炭酸ジュースを利用したフルーツポンチらしきものの姿もある。
フルーツポンチについては俺が提案したわけではないので、誰かのアイデアがたまたま地球側の料理に似通った、という事なのだろう。果物は色々手に入っていたし、俺も炭酸飲料を製造する魔道具を作っていたし、果汁をフレーバーにするというのもやっていたから、材料や下地自体は揃っていたわけだが。
いずれにしても色彩豊かだからお祝いの席にはぴったりだな。
「これは見た目にも華やかで良いね」
そう伝えるとセシリアが「恐縮です」と答えて、氏族の子供達と笑顔を向けあっていた。どうやら考案したのはセシリアで、作ったのは氏族の子供達、という事らしい。
では、お祝いの料理を楽しませてもらうとしよう。
料理はどれも手が込んでいる事が伝わってきて、実に美味だった。良い感じに火が通ったローストは表面がパリパリな割に中がジューシーだったし、パエリアもスパイシーさと旨味の加減が素晴らしい。スープも程よい酸味で食欲をそそるものだ。
セシリアやミハエラ、迷宮村の住民がサポートしたというのはあるが、実際に料理を進めたのは各氏族の面々であるから、結構気合を入れて臨んでくれたのではないだろうか。
各氏族の面々はほんの少し前までは料理に興味が無いというか、そういったものを必要としていなかったわけだから、こうして祝いの料理を作って振る舞ってくれるというのは、中々に感慨深いものがあるな。
その事を伝えると、クラウディアも静かに頷く。
「テオドールが迷宮村の子達が外で生きられるよう、手助けをしてくれたから。あの子達もまた他の人に同じように返したいと言って実践している。良い事だわ」
「同じように続いていったら素敵な事ね」
クラウディアの言葉にステファニアも笑顔で頷く。
「そうだね。そうなっていってくれたら俺としても嬉しいな」
「ふふ。テオドール様のお陰で外の世界に出る事ができたというのなら、私達もそうですからね」
そう答えるとエレナも少し笑い、マルレーンもにこにことしながら頷く。
みんなで歌を歌ったり楽器を奏でたりしながら時間は過ぎていく。隠れ里や各氏族の面々もそうして歌や演奏を楽しんだりしていた。
セラフィナとリヴェイラが手を取って楽しそうに踊っているのを見て、真似る者が出てきたりと、色々と文化を知る事に積極的な様子が見て取れるな。
そうして……集合場所構築のお祝いと日頃の感謝という事で夕食の時間は和やかな雰囲気の中、進んでいったのであった。
それから1日、2日と時間が過ぎる。みんなの体調、執務や領地、各地の状況等は平常通りだ。ただ、ガルディニスの隠れ家解放の時期が迫っているので、次はそれに向けて動いていく事になるな。
魔人の結集については氏族内での話し合いと移動に考える時間を計算に入れて、もう少し先に設定している。
隠れ家解放の時期に関しても集合時期を決めるのに対して計算に入れていた、というのもあるな。この時期を逃すと次の封印解放までまた先伸ばしになってしまうし、扱いを間違えると一帯が石化してしまうような危険物をいつまでも放置しておく、というわけにもいかない。
また出かける事になるが、その辺はみんなが理解を示してくれるので逆に申し訳なくなってしまうというか。
「ふふ。テオは頼りになりますから。忙しいのは仕方のない事です」
「ん。中継映像で話はできるし、気にしなくていい」
「まあ、領主の妻であるならばそのぐらいはね」
その事を伝えるとグレイスやシーラ、ローズマリーからはそんな返答があった。
「それに、テオドール君は帰って来た時は一緒にいてくれるものね」
「テオドール様が帰って来た時の事を楽しみにしながら待っていますね」
イルムヒルトとアシュレイがにっこり笑う。
「ん……ありがとう」
結集の時期にまだ猶予があるので今回は偽装して渡したガルディニスからの伝言と技術に絡んで、ネシュフェルのその後も少し見てくる予定ではあるが、まあなるべく早くみんなのところに帰って来られるように気合を入れていくとしよう。