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番外1263 啓示の感覚は

 荷物、食糧の積み込みはそれから程無くして終了した。後は工房から魔石が仕上がってくるのを待って、出発となる。

 行先はまた旧ベリオンドーラ王国南方ではあるが、ルドヴィア氏族の会合場所は陸地の少し奥まったところなので、もっと海岸線に近く、分かりやすい場所という事でヴァルロス、ベリスティオと打ち合わせた上で動いている。


 ヴァルロスが以前ベリオンドーラで活動していた折りに、少し特徴的な地形を確認しているそうだ。その場所を思い浮かべて啓示を行ったとの事で。

 モニター越しではあるが、俺達もヴァルロス達も、地図上でも場所を確認済みである。


 会合場所に関しては目印になりやすい岩もあるし、啓示によって方角等は何となく分かるが、海岸線から遠いと集まってくる魔人達も現地まで移動が大変になるからな。


 俺も……儀式を行い、啓示を受ける事でその場へと向かう。後は各地の氏族達に対する啓示の力をよりはっきりとさせるために、現地にヴァルロス、ベリスティオの事を示す石碑なりを設置すればいいというわけだ。


 こちらについては各地に設置したモニュメントと違い、埋める必要はないし目立っていて構わない。その辺も含めて集合場所を構築していく事になるな。




 そうして、造船所での出発の準備をしてから更に1日、2日が過ぎる。アルバートからも魔石に術式が刻み終わったと連絡が来て、それを受け取って確認したところで出発という事になった。造船所にみんなで集まり、見送りをしてくれる。


「お気をつけて、テオ」

「無事に帰ってきてくださいね」

「うん。ちゃんとみんなと一緒に帰ってくる」


 グレイスとアシュレイの言葉に、俺も頷く。


「魔法建築だけとは言っても、やっぱり人里からは離れている場所だものね」

「そうね。一度訪れている場所とは言え、油断は禁物だわ」


 ステファニアの言葉に、ローズマリーが羽扇で口元を隠しつつ言う。そうだな。その辺は肝に銘じよう。


「いってらっしゃい、テオドール君」

「ん。怪我をしないように」

「ああ。行ってくる」


 と、そんな調子でシーラ、イルムヒルトと言葉を交わす。前回の旅程の危険はないとは思うが、行先がやはりベリオンドーラだしな。

 マルレーンがそっと抱きついてきて、出発前にみんなと抱擁をしてから、という事になった。


「いってらっしゃい」

「お帰りをお待ちしていますね、テオドール様」

「うん。留守をよろしくね」


 クラウディアとエレナが離れ際にはにかむ姿に、俺も少し笑って応じる。


 さて。同行するのは前回に引き続き、魔人と元魔人の面々。エスナトゥーラ氏族は例によって子供が小さいので何かあったら転送魔法陣で合流。ルドヴィア氏族に関してはルドヴィアと年長であるザンドリウスが一緒だな。ザンドリウスも手伝えることがあればとそう言っていた。


 カストルム、アルハイムも何か力になりたいと、一緒に来てくれる。危険は少ないがまあ、ありがたい話だ。


 隠れ里の面々や各氏族の面々、お祖父さん達も造船所に来て、俺や同行する面々に見送りと無事を祈る言葉をかけてくれた。


「ふむ。儂らはこの後戻ってシャルロッテやフォルセト殿と慰霊の神殿に足を運んでおこう」

「祈りを捧げれば、きっと啓示の力も強くなると思うものね」


 お祖父さんやヴァレンティナがそう言って、シャルロッテやフォルセトも頷く。

 ん。それは助かる。そうして少し出発前の別れを惜しんで、頃合いを見計らってからシリウス号に乗り込む。


「それじゃあ、アルファ。出発しようか」


 甲板に姿を見せたアルファにそう言うとこくんと頷いて。シリウス号がゆっくりと浮上する。

 そうしてみんなと手を振り合って――俺達はタームウィルズを出発したのであった。




 さてさて。向かう場所の座標については入力済みだ。

 移動を始めつつもシャルロッテとフォルセトが慰霊の神殿で祈りを捧げるのを待ち、地図や星球儀から特定した地形とヴァルロスの記憶の間に齟齬がないか確認するために、啓示を受けるための儀式を行う。


 艦橋内部に用意した簡易祭壇に向かい、ヴァルロスとベリスティオの祭具である指輪と剣を手に取って祈りを捧げると……何か、静かで大きな力が周囲に流れ込んできたような感覚があった。


 これで神格から啓示を受けられる。後は現地を目指して移動していくというわけだな。記憶違い等があれば石碑を設置して啓示と一致するように修正もできるはずである。


 まあ啓示だけでなくモニター越しに現地を見られるので実際に目視しての誘導も可能だろうけれど、まずはこれで現地を目指していこう。啓示による感覚的な部分を確かめるのも必要だからな。


「なるほど、ね。現地に近付いている感覚というか、何か特定の方角が気になるというか。言葉にしにくいけど、きちんと伝わってくる」


 神格からの啓示というのはこういう感覚なわけだ。意識を向ければ分かるというか。啓示を受けた時の力がそちらの方にあるように感じるというか。まあ……日常で邪魔になったり意識を削がれるような感覚ではないし、不快感もない。

 これは監視されているというのではなく、ただそこにある、という印象だからだろう。実際にヴァルロスやベリスティオが意識しているものではなく、神格が示すものなのだろうし。


「移動中だからかな。近付いているとかまだ遠いとか、そういう感覚もある」


 伝言に加えて感覚によるナビゲートもあるのなら、迷う事はあるまい。


『他の氏族達にもきちんと伝わっていそうですね。安心しました』

「そうですね。盟主に関してはヴァルロス達が結集を呼び掛けたから周知されていると思いますし、盟主ベリスティオと結集を呼び掛けたヴァルロスの二人が夢枕に立ったとなると、かなり衝撃的だったのではないでしょうか」


 モニター越しに微笑むオーレリア女王に応える。グレイス達もフロートポッドに乗ってフォレスタニアの居城に帰ってきているな。


『月でも彼らを受け入れる準備が整っています。テオドール公の約束もありますが、問題が起こりそうな時は何時でも頼って欲しいわ。私も、テオドール公の力になりたいと思っているのですから』


 と、オーレリア女王が言う。彼らが集まって来た時の話し合いにはオーレリア女王も出席すると言っているしな。


「それは――助かります」


 オーレリア女王に礼を言う。

 第二世代以降の魔人達だからな。戦闘能力に優れた者、気性の荒い者はヴァルロスのところに合流しやすい傾向が少なからずあっただろうし、残っている者はルドヴィア氏族のように子供や非戦闘員と留守を預かる者、という可能性は高いが……それでも人と因縁浅からぬ者というのはいるかも知れない。


 その点で言うと月ならば地上と交信が途絶えていた期間が長かったからな。オーレリア女王の提案も選択肢の一つと言える。少なくともそうした道もある、と彼らに提示する事はできるし、ヴァルロスやベリスティオも納得してくれている。俺の歩んできた道があってのものだからと、そんな風に言ってくれた。

 実際、そうした選択肢の有ると無しとではその差は大きいだろうからな。


 そんな話をすると、テスディロス達も静かに頷いていた。

 そうして、シリウス号は示される座標を目指して、高度と速度を上げて飛んでいく。一応隠蔽フィールドは展開しているが、今回はシリウス号も高速移動しているので、それほど時間もかからずに現地に到着するだろう。


 まずは集合場所の特定と、その場への魔法建築をしっかりこなしていくとしよう。オーレリア女王からの提案については、集まった者達の実際のところを見てみないと話が進まないところもあるので現時点ではこんなところだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海沿いに来れば迷わずに済みそうですね。
[良い点] 獣も空気詠まず水晶どくろ埋めて満足気だ
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