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番外1262 再訪に向けて

 ミリアムの話にしばらくの間みんなも感じ入っていたようだ。当時の出来事や村での思い出を聞かせてもらったりした。


「巨狼は視力が回復してから、ちょくちょく村に立ち寄るようになっていましたよ。私が父と鞭の修業をしているのをよく見ていました」

「それは――きっと応援してくれていたのでしょうね」

「そうだと思います。私も、だから頑張れたように思いますし」


 狼の話について教えてくれたので、俺がそう答えるとミリアムは屈託のない笑みを浮かべていた。

 そんなミリアムの話も経て、お茶と菓子で一休みしてから集まった本筋である魔道具の話に戻る。


「――つまり……感覚系の導入、擬態術式、限定的な契約がこちらの行っている新しい技術という事になります。この内まだ魔道具化していないのは感覚系ですが――いずれこれも、部位ごとに分けることで感覚系の製作を魔道具化した上で、ある程度の調整ができるようにしていきたい、と考えています」

「なるほど。であれば、もっと広めやすくなる、というわけですね」


 王城お抱えの魔法技師達が真剣な表情で答える。俺達としてはゴーレム式義肢を普及させたいので、工程を魔道具化する事で低コスト化しつつ作製しやすい環境を構築したいのだ。


「素材や性能面を選ばなければそうなりますね。魔道具自体が壊れたり失われたりといった事も有り得ますから、予備を用意するだけでなく後世に伝える技術書も必要だとは思っています。技術の悪用を防ぎたいので、術式の記述部分は誰にでも、というわけにはいきませんが」

「それは……勿論です。王城で伝えられている魔道具にしても、そうした技術は秘匿されていますからな」


 その辺は魔法技師なので理解を示してくれる、というわけだ。

 ともあれ、その辺の工程を魔道具化してしまえば後はゴーレム自体の製作と固定化なので俺達が不在でもゴーレム式義肢を構築する事ができる。

 魔法で合成した樹脂でなく、木材で構築したとしても感触に拘らなければ擬態術式で個々人の特徴に合わせて表面の処理もできるしな。


「しかし、それだけの工程を魔道具化してしまう、というのは思い切りましたな。ゴーレム式義肢を個別で依頼されて作るだけでも一財産築けてしまいそうな革新的な技術だと思いますが……やはり治療に関する事は利の論理とは別、という事ですか」

「これに関してはなるべく多く必要としている人に、というのがテオ君や僕の共通の考えだからね」


 そうだな。ゴーレム式義肢を必要としている色々な層の人々に行き渡れば喜ばしいことだ。金銭面での対価や利益云々の話に限定されず、もっと広い範囲でプラスになる面が多いと予想される技術だしな。開発に携わってくれたみんなへの正当な報酬は必要だが、技術を世に出した後に必要以上の利益追求はしなくてもいい。


 まあ、いずれにしても魔道具自体にも悪用や勝手な解析ができないようにしておく必要はある。その辺は契約魔法でセーフティーの構築ができるので問題はないが。


 そうした話をすると、居並ぶ面々も頷いていた。

 同盟各国にもこれらの魔道具を配備したいと考えているが、その辺についてはメルヴィン王やジョサイア王子も賛同してくれているので俺としても安心だな。


 さて。そうして用意したゴーレム式義肢の引き渡しも終わり、暫く日常の中で使用した後で忌憚のない意見を聞かせてもらう、という事でその日は解散という流れになった。


「では、定期的な点検時以外で、故障したり困った事があればブライトウェルト工房やフォレスタニアの城に連絡を。できる事は増えたとは思いますが、慣れるまではあまり無茶はなさらないよう」

「はい。ありがとうございます……!」


 と、そんなやり取りを交わして引退騎士達と一旦別れた。


「元々国に仕えていた者達については、暫く王城で色々な事に従事して使用感を確かめてみる、という話だ。全員がしばらくの間タームウィルズに滞在すると言っていたが、帰郷した場合の連絡先も聞いて控えてある。今の内に渡しておこう」

「ありがとうございます」


 といったやり取りを経てジョサイア王子から各々の連絡先を控えた紙を受け取り、俺達も挨拶をしてから王城からの帰途についたのであった。




 さて。そうしてゴーレム式義肢を作成するための魔道具作りも進めつつ、日常の仕事や魔人に関する仕事に戻る。

 各国の動きは迅速なもので、すぐにベリオンドーラに構築する集合場所の資材を手配してくれた。


 魔法陣を描くための魔石粉やミスリル、契約魔法等の核となる魔石といった品々だ。これらをシリウス号に積んで現地に赴き、魔法建築してくる、というわけだな。


「これが、話し合いを行うための術式だね」


 まずは工房にて、アルバートに核となる魔石と共に術式を書きつけた紙を渡す。

 結界魔法と契約魔法を連動させ、区画内部での他者への攻撃行動を禁止する、という内容だな。

 区画内での攻撃行動はその意志を持った時点で結界により外まで押し出される事になる。外部からの攻撃、内部で発動した攻撃、区画自体への攻撃も……同様に結界によって遮られる、というわけだ。


 これについては最初からある程度予定していたので啓示でも示唆されたし、実際に区画内部に入った瞬間に呪法によるメッセージが送られて理解できるように術式を組んでいたりする。


 事前に禁止事項や発動の条件を宣言なり提示なりする事で、契約魔法や呪法はより効力を発揮できるようになるからな。一方的に有利な条件となるとその場合の増強効果も微妙だが、この場合は術者本人も同様に不戦区域の影響を受けるので問題はないはずだ。


「それじゃあ早速、魔石に術式を刻んでくるよ」

「分かった。俺はこれから造船所に資材や食料を積み込んで出発の準備かな。魔石も仕上がって準備ができたら、またベリオンドーラに向けて出発する事になる」

「今回は魔法建築だけみたいだけど、怪我をしないように気を付けてね」

「ああ。ありがとう」


 アルバートは俺とそんなやり取りを交わしてから仕事場へと向かっていった。


『ベリオンドーラへ向かう際は引き続き同行したく存じます』

『同じく。流石に魔法建築に向かうだけで大きな問題は起こらないとは思うが』


 モニターの向こうでオズグリーヴとテスディロスがそう言うと、オルディアやエスナトゥーラ、それにルドヴィアも頷く。では、引き続き同行というわけだな。


 テスディロス達は今日非番なので、迷宮村や隠れ里の面々、エスナトゥーラ氏族、ルドヴィア氏族の顔触れと交流を深めていたらしい。

 今もテスディロスは氏族の少年を肩車しながら話に加わっていたりするな。交流は順調というか、関係も良好なようで何よりである。


 さてさて。では造船所に向かい、資材の積み込みなどの作業を済ませてくる事にしよう。

 この作業も時間としてはそれほどかからないはずだ。工房の中庭で待っていたリンドブルムに乗って、造船所まで移動する。


「ああ。これはテオドール公」


 造船所で俺達を待っていたのは騎士団のメルセディアと兵士達だ。転移港に集積された物資を造船所まで運んでくれたというわけだ。


「こんにちは、メルセディア卿」


 と、メルセディアや兵士達に挨拶をしつつ、早速積み込みのために動いていく。

 目録を受け取って数が合っているかを確認。運搬ゴーレム達を動かして甲板まで運び、そこから船倉へとメダルゴーレム達に積み込んでいく。


「おお。あっという間ですな……」

「境界公のゴーレム捌きを見る事ができて嬉しく思います……!」


 そんな調子で兵士達が畏まっていたりするが。モニターの向こうで表情を綻ばせるグレイス達や少し楽しそうに笑うメルセディアの姿に苦笑しつつ、程無くして作業も終わる。

 よし……。これで魔石が仕上がってきたら魔法建築に向かえるな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次は対話の準備ですね。 今回は00ク○ンタを連想しましたw
[良い点] 獣は思案しているウルライダーって画面映えしまくんやないかっと
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