番外1258 魔人達の結集に向けて
リン王女の二胡とユイ、リヴェイラ、ユラの笛が織りなす幽玄な音色があたりに響く。
見慣れない楽器だという事でシルフはリン王女に二胡の演奏をせがんだようだが、それならばと、リン王女はユイ達にも声をかけて合奏という形にしたのだ。ユラは勿論、ユイもリヴェイラも東国の楽器を持っているので、合奏した時の相性がいい。
そうして奏でられる東国の音楽に合わせて、あちこちに座った精霊達が上半身や足を揺らしてリズムをとったり、目を閉じて聴き惚れていたりと、中々愉快な有様だ。
薄らとではあるが精霊の姿は片眼鏡を通さずとも見えるので、そんな光景にみんなも表情を綻ばせている。
今日はフォレスタニアの居城にもみんな宿泊していくとの事で、部屋に案内して手荷物を置いてもらった上で、庭園とそこに面するサロンにて、小さな精霊達も交えてみんなで過ごすというわけだ。
「ふむ。ヒタカにも似ていて良いな、これは」
そんな風に感想を漏らしていたのはヒタカの大蜘蛛であるオリエだ。カリン、レンゲ、ユズといった面々もオリエの言葉に揃ってこくこくと頷く。
そんな小蜘蛛達は肩にノームを乗せていたりして。オリエ達は土の精霊と相性が良いという事なのだろう。
レイメイ、御前、オリエのいた地方は妖怪達が沢山暮らしている場所だったからな。こうして小さな精霊達が顕現している状況というのは地元のようで楽しいのだろう。
そんな光景を横目に眺めつつ、みんなの演奏や歌声を楽しむ。リン王女達が演奏を終えると今度はイルムヒルトとユスティア、ドミニクが揃って演奏をしてセラフィナも歌声を響かせ……マギアペンギン達がウンディーネと共に身体を揺らす。そんな調子で賑やかに時間は過ぎていく。
そうしてフォレスタニア居城に宿泊した面々は夜になったら幻影劇の鑑賞に向かったり火精温泉に向かったりといった時間を過ごした。幻影劇についてはそれぞれ気に入っているものが違うので思い思いに違う上映ホールに足を運んで楽しんでくれたようだ。
フォレスタニアやタームウィルズの街の小さな精霊達は、ティエーラの見立てでは「まだ数日の間は姿が見えているのではないでしょうか」との事で。メルヴィン王が酒を振る舞ったりしているという事もあり、窓辺で子供と一緒に歌うシルフやウンディーネ。酒盛りの輪に加わって盛り上がるサラマンダーやノームといった光景も見受けられ……中々に賑やかで楽しげな気配である。夜になったので小さな闇の精霊も増えているな。街中に現れているのは夜の安息を司る精霊というのか。ナイトキャップとパジャマを纏った小さな妖精といったような出で立ちで、そんな精霊達が街中のあちらこちらにいるので中々にファンタスティックな雰囲気である。
さてさて。精霊達で賑やかな雰囲気になったタームウィルズとフォレスタニアの一夜が明ける。
数日はのんびりできるだろうと思われるが、今後の予定については話をしておきたいという事で、朝食を済ませてから通信室でヴァルロスやベリスティオ達と話をさせてもらう事にした。
『まずは――そうだな。儀式の成功について祝っておこう』
『そうだな。啓示も想定した通りに広がっている手応えと言えば良いのか……確信めいたものがある、と伝えておく』
ヴァルロスとベリスティオが言った。夢で啓示を伝えるわけだからな。一晩経ってその反応というのは想定通りに事が運んでいるという証拠だろう。
「それは……ありがとう。儀式が上手くいって良かった」
その言葉に改めて礼を言うと、二人も静かに頷く。
「確信めいたもの、というのは神格から来るものなのでしょうね。私にも神官や巫女の祈りに応えた折や神託を行った時に経験があるわ」
クラウディアが教えてくれる。人格と神格は別箇の感覚のようだからな。儀式を通して神格が対象者に啓示。そこからフィードバックがあった、という事なのだろう。
「それで上手くいっている手応えがあるなら安心かな」
俺の言葉にベリスティオが静かに頷いて言葉を続ける。
『啓示の内容についてだが、集まる場所、時期、条件の指定は伝わっているはずだ。後は……それに合わせた準備だな』
「集合場所に契約魔法と呪法による結界を展開。お互いに攻撃行動ができない場所を作る、と」
集まる時期については氏族で話し合って方針を決める事であるとか、その後で遠方からの移動に際しての準備と移動にかかる時間も加味し、そこそこに余裕を持たせている。
魔人達は空が飛べるので移動が早いし活動範囲が広いとは言え、そうした時間は必要だ。
啓示の影響を受けているので、どの方角にどの時期に向かえば良いかも、それぞれの氏族には概ねは伝わっているだろうとの事だ。
集まる場所は――ベリオンドーラ南部、という事になった。
これについてはルドヴィア氏族が既に俺達のところに来ているから、各地から魔人が集まってきても会合場所が発覚して困る魔人がいないというのがまず一つ。集まる過程でベリオンドーラが無人なのでトラブルが起きにくいというのもメリットとして挙げられる。
無人であるために他者の痕跡が分かりやすいからな。追跡や待ち伏せをされていないか等々、各々の氏族で判断、納得しての行動がしやすい、というのもある。
加えて今回のモニュメント設置の旅でルドヴィアやザンドリウス達が俺達の仲間として加わってくれたので、ベリオンドーラ南部に多少の土地勘ができたというのもあるな。準備を整えて待機する等、色々と現地で活動しやすくなった。
後は戦闘行為のできない交渉用の区画を構築して時期を待つだけだ。
「区画を作るには資材を用意する必要があるでしょう。それについては、私達も協力します」
そう言ってくれたのはクェンティンだ。同盟各国の面々も「そういう事であれば分担して進めるのがよいだろう」と協力を申し出てくれた。
「分かりました。予定している区画の範囲等から魔法建築で賄える部分とそうでない部分とで、必要なものを少し試算してみましょう」
そう言うと、ウィズも帽子の部分を動かすようにしてお辞儀とも肯定ともつかない仕草をみんなに見せる。
というわけでどのぐらいの規模にするのが適当か、交渉するならばどんな場所が良いのか等々、各国の面々と話し合って決めていく。
「目印として何か造るにしても、城や砦のように仰々しい建物はない方が良いだろうな。見通しが良い方が魔人達としても動き易かろう」
ファリード王が顎に手をやって言う。
それは確かに。魔人達は実利を重んじるだろうから、格式ばった立派な建物というのは寧ろ歓迎されないだろう。どこに誰がいるのか一目瞭然でどこからでも逃げやすい、という方が良い。
「そうなると――目印にしやすいように、ある程度整備された円形の広場、というのが良さそうですね」
中央に柱を立てて、その周りに石畳等で整備した広場を構築する、と。マルレーンからランタンを借りて幻術で完成予想図を展開。その規模等から必要になる資材を試算してウィズが示すと、各国の面々も頷いた。
「承知した。費用的な面ではそこまででもないな」
「魔法建築とは言っても、石材等は現地で賄えますからね」
イグナード王に頷く。
必要になるのは魔石だけだし、協力してくれる国々が多いので分担すれば負担もその分、各々小さなもので済む。
そうして……建設計画と実務の部分も程無くして纏まる。後は資材が集まったら現地に設計図通りに構築していけば良い。集まる予定日まではまだ時間もあるし、丁寧に進めていくとしよう。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
「番外1256 舞い降りる星屑」と「番外1257 儀式の後で」にて
ヴァルロスの祭具であるロシャーナクの指輪に関する加筆を行っております。
話の大まかな流れに関しては変更はありませんが、加筆修正という事で失礼しました。