番外1254 儀式の前に
儀式に関しては国内や同盟各国からも列席したいという通達が多かった。
とは言え月光神殿は迷宮の中枢部に近いので、実際には慰霊の神殿に集まってもらって祈りを捧げてもらう、という事になるだろう。
中継映像に関しては問題ないと思うので月光神殿に新設した儀式場から映像を届けて、共に祈るという事で話も纏まった。
同盟各国から沢山の人が集まるので、メルヴィン王やジョサイア王子としても賓客を迎える準備をしてくれる、との事だ。というよりは俺達が儀式を行うのでそのフォローをしてくれるわけだな。
歓迎準備等はメルヴィン王とセオレム、フォレスタニア城の文官達が進めてくれるので俺達は自分の仕事に集中していられる、というわけだ。
そうした支援もあって、儀式の準備は滞りなく進んだ。当日ではなくその前日から人が集まるので、俺達としても各国から来た面々と顔を合わせる事ができるな。
そんなわけで、一日一日と過ぎて行き……やがて儀式前日、国内外から人の集まる日がやってくるのであった。
俺達とジョサイア王子は転移港で出迎えをさせてもらう。
そうして待っていると、転移門から人が現れる。
「これはジョサイア殿下。テオドール公」
と、姿を見せるクェンティンとコートニー夫人。デイヴィッド王子とマルブランシュ侯爵、ガブリエラとスティーヴン達といったベシュメルクの主だった面々である。
「よくいらっしゃいました、歓迎します」
「お元気そうで何よりです」
ジョサイア王子やみんなと共に挨拶を交わす。
「テオドール達モ、元気デ良カッタ」
と、マルブランシュ侯爵の使い魔である青烏のロジャーがそんな風に言ってくれる。そうした言葉にみんなも少し表情を綻ばせていた。
「エレナ様、パルテニアラ様もお変わりなく」
「はい、ガブリエラ様」
「うむ」
エレナ、パルテニアラとガブリエラ。それにカルセドネ、シトリアとスティーヴン達と……再会できて嬉しそうな様子だ。
それから今回はもう一人……。モニュメント設置の際に知己を得たラングハイン伯爵も同行してきたようだ。
「伯爵には……その節はお世話になりました。開拓村で頂いたお土産は、みんなで美味しく頂きました」
と、そんな風に挨拶をすると、ラングハイン伯爵も笑って応じてくれた。
「ふっふ、あの時は変装していたとは聞いておりましたが……なるほど。魔法で髪や瞳の色を変えていたのですな。こうして正式な場で、改めてご挨拶をできて知己を得られた事を嬉しく思います、テオドール公。こちらこそあの時はお世話になりました」
そう言って一礼するラングハイン伯爵である。
というわけで改めて正式な繋ぎを持つ事ができた、というわけだ。まあ、ラングハイン伯爵は元々中央や国外と距離を取ってあまり依存しないようにしているらしいが……ザナエルクが倒れてクェンティン達が国内を安定させてきているから、こうして俺と顔を合わせに来てくれる程度にはラングハイン伯爵も現在の状況を歓迎している、という事なのだろう。
同時に今日一緒に来るというのは、魔人との和解、共存に関しても応援しに来てくれたという事でもある。有難い話だな。
改めてその事についてもお礼を言うと、ラングハイン伯爵は静かに頷く。
「我が国も大変な時期がありました。魔人達と我らの関係も……テオドール公なら平穏な方向に導いてくれるものと、微力ながら応援しております」
「ありがとうございます」
そんなやり取りを交わす。今回は来訪者も多いという事で、何時でも転移港からセオレムに案内できるように王城も手配してくれている。挨拶を交わした後、王城からの護衛が付き添い、ベシュメルクの面々はセオレムへと向かったのであった。
それから少し間を置いて、更に転移港に人がやってくる。今度は迷宮内の連絡通路を通ってきたメギアストラ女王達だ。騎士団長のロギやディアボロス族のブルムウッドやベリト達も一緒だな。
ルーンガルド側に親善大使として駐留しているファンゴノイド族のボルケオールと、パペティア族のカーラ。それにルベレンシア、スレイブユニットではあるがジオグランタも一緒に迎えに来ており、魔王国の面々も再会を喜び合っていた。
「ルベレンシアがルーンガルドでの暮らしを満喫しているようで、同族としては安心したところがあるな」
「うむ。先だってルーンガルドのあちこちをテオドールと共に巡ってきたが……魔界では見慣れぬ光景ばかりで中々に楽しかったぞ」
メギアストラ女王とルベレンシアがにやっと笑ってそんな会話を交わす。魔界の竜同士、互いに通じるものがあるようで。
そんな調子で次々と転移港にやってくる知り合い達と挨拶を交わしていく。
冥府の面々については現世側にいるのはリヴェイラやデュラハンといった面々だけだな。ベル女王は冥府側でヴァルロス、ベリスティオと共に儀式の支援をしてくれるという事である。
そうして、ハーピーやセイレーン、ネレイド族、魚人族に深みの魚人族といった各国の友好的な部族、国内外の王族、貴族といった面々を転移港で出迎えてから、俺達も王城セオレムへと移動したのであった。
儀式への列席なので祝いの類ではないが……あちこちから人が集まるという事もあって、民間への通達もされていた。馬車やフロートポッドでの移動は騎士団がきっちりと警備に当たっているが重苦しい雰囲気はなく、沿道で歓迎する人々も多い。
俺達も移動する際は手を振られたり声援を送られたりしてしまったが。こちらも窓から顔を出して子供達に手を振ると嬉しそうに顔を見合わせたりしていた。
「テオドール様に憧れているのでしょうか」
そんな子供達の出で立ちを見て、アシュレイが表情を綻ばせる。木の杖を持ってマントも羽織って、魔術師風の格好をしているな。先程手を振った時に大分喜んでくれていたので……まあ、影響は少なからずあるだろうか。
「んー。子供達からそんな風に思ってもらえるなら光栄なのかな。もしそうなら俺としては少し気恥ずかしいところもあるけど」
「ふふ」
と、そんな言葉に頬を掻いて応じると、グレイスも楽しそうに笑い、マルレーンもにっこりと頷いたりしていた。
やがて俺達の乗ったフロートポッドはセオレムに到着する。来客は迎賓館に集まっていて、俺達の到着を迎えてくれた。
「ふむ。儀式は明日か。それまでは皆との友誼を深めつつゆっくりさせてもらうとしよう」
「幸い訓練場も近いしな」
そう言って笑い合うのはイグナード王とレイメイである。性格的にも相性のいい二人、という印象ではあるな。
そんな話をしながらも、迎賓館内の大広間に移動する。
この後の予定についても通達されているが、改めて確認の意味を込めて説明しておく、というわけだな。
「明日についてですが、慰霊の神殿に案内致します。僕達はその後で月光神殿に向かい、そこで儀式を進めていく事になるかと」
というわけで、明日の儀式の開始時刻やら、その際の手順についても通達していく。
列席する面々に協力してもらう事としては……今までの解呪儀式と同じだ。タイミングを合わせて祈りを捧げて貰えれば、それが儀式の力となる。
「なるほど。私達は静かに儀式を迎え、真摯に祈れば良い、というわけですね」
そういってオーレリア女王が微笑む。オーレリア女王については月の民なので……まあ、月光神殿側への列席に関しても問題ないな。
魔人絡みでも重要な位置にいるから、今回の儀式では月光神殿まで同行する形だ。
「そうですね。慰霊の神殿でも月光神殿でも、行う事は基本的に同じです」
オーレリア女王に答えると、他の列席者の面々も頷く。では、俺からの連絡事項はこのぐらいだ。
「改めて、皆様には今回の儀式の賛同と協力、感謝します」
と、そう言って一礼すると、みんなから温かい拍手が返ってきた。さてさて。では明日の儀式までゆっくり過ごさせてもらって、魔力の調子も整えておこう。