番外1251 前途への祝福を
時間を置いて少し様子を見ていたが、ルドヴィアは大丈夫そうだ。
循環錬気、魔力ソナー、ウィズの分析等々でも問題はなく、封印術を解いて少し動いたり、瘴気等を使ってもらっても痛みや違和感はないとの事である。
「これなら良さそうだね」
「そうだな。実際調子は良い」
ルドヴィアは掌に瘴気を集中させて回復具合を試していたようだが、それを霧散させると飛行術を解いて中庭に降りてくる。
「そう言えば、ルドヴィアは瘴気弾の射撃が得意って聞いたけれど」
「ああ。射程距離と、距離をあけた状態での命中精度は氏族の中でも高い方だと思われていたようだった。射撃が得意と皆も知っていたから子供達も安全に食事ができると考えたのではないかな」
リネットも射撃を得意としていたが、白兵戦の中での偏差射撃が持ち味という印象だったな。ルドヴィアの場合は長射程を減衰させずに狙撃するのが得意という事らしい。
「まあ……得意分野を十全に活かすと食事面では有用ではなくなってしまうのが悩みどころではあったのだが。魔人であれば近距離戦を得意としていた方が良いのかも知れない」
と、そういってやや気まずそうに頬を掻くルドヴィアである。
「ああ。確かに長射程でいきなりだと、精度が上がれば上がる程魔人としては困るのか」
狙撃の精密性や威力を向上させていったら、相手が自分に向ける感情を食うまでもなく倒してしまうという事になるからな。
姿を見せて相手に自分を認識させた上での射撃とか、そういった形に持ち込む事になるのか。狙撃で抵抗できなくしてから姿を見せれば良いと仲間は言っていたそうだが、ルドヴィアは合理性を考えて動くタイプだからか、そういった方法はあまり好みではなかったそうな。
「一度その方法を試して、魔物から手酷い反撃を受けそうになった事もあってな。反撃を受けないように集中するのなら、戦いの中で完結してしまう方が良いと思う」
と、昔の思い出を教えてくれるルドヴィアである。結局得意分野があるにも関わらず、近距離での立ち回りを覚える事になったそうで。
なるほどな。魔人の場合食事一つとっても料理と違って過程も結果も安定せずに大変そうだ。狙撃が強力で食事には向かないという事であれば、それはルドヴィアの遠距離射撃の正確性や威力の裏付けでもあるのだろうけれど。
とは言え、そういう性質も……ザンドリウス達を引率して指導するには向くか。
「ルドヴィアは近距離戦の教え方も分かりやすくて上手い、と思う」
ザンドリウスが言うと、子供達はこくこくと頷く。苦労して考えて身につけた分、他者を指導する時にも応用が利く、というのはあるのだろう。
ともあれルドヴィアの調子は良さそうなので、今日予定していた解呪儀式も問題なく進められそうだな。
その事を伝えるとルドヴィア達は「分かった」と応じる。
体調を診るために封印術を解いていたのだが、今は封印術があった方が落ち着くとの事なので改めてかけ直す。
では――準備をしてから慰霊の神殿へと向かい、そこで解呪の儀式を進めていくとしよう。
ルドヴィアとザンドリウス達を連れて鎮魂と慰霊の神殿へ向かう。解呪儀式を行う事は事前に伝えてあるが、各国からも同じ時間に祈りを捧げると、協力を申し出てくれた。
というわけで今回はハイダーの中継映像を通しての儀式だ。
東国にも中継映像は繋がっているな。冬だからか日が落ちるのが早く、モニターの向こうはもう暗くなっているのが見て取れる。
『その子供らが今回解呪の儀式を受けるってわけか』
『そして、その者は蛇の化身という話であったな』
レイメイや御前がモニターの向こうから笑顔を見せる。ルドヴィアやザンドリウス達、それに祈りの為に一緒に列席するアルハイムにも挨拶をしていた。
「蛇である事もそうだが、我の成り立ちは東国の妖怪に近い、と聞いた。よろしく頼む」
と、そんな風に挨拶を返すアルハイムである。
ルドヴィア達もモニターで顔を合わせる面々に挨拶と自己紹介をしているようだ。
それを横目に眺めつつ、儀式の準備を進める。
解呪儀式は何度か行っているので準備も手早く進んでいく。俺が司祭役。フォルセトやシャルロッテが巫女としての役割を担ってくれるというのも変わらずだ。
ティエーラと四大精霊王といった面々も顕現して、コルティエーラとジオグランタもスレイブユニットで神殿まで足を運んでくれた。面子が面子なので始まる前から場の魔力は高まっている印象があるな。
「和解に関しても順調に進んでいますね」
穏やかな表情を見せるティエーラの言葉にコルティエーラとジオグランタがこくんと頷く。
「そうやって、みんなで力を合わせるのも生き物の強さの一つ、だと思う」
「ええ。私達としてはどういった形であれ、世界に生まれた子らが強く生き延びていってくれる事を嬉しく感じるものよ。だから、テオドールの選んだ道を応援しているわ」
「ん。ありがとう」
ティエーラ達の言葉に、目を閉じて頷く。そうだな。ティエーラ達にそういって貰えるのは心強い。
そうこうしている内に準備も終わる。ルドヴィア達、カストルムやアルハイムは今後も儀式に列席する側として参加する事もあるだろう。儀式の際にすべきことなどを伝えていくと、揃って真剣な表情でふんふんと頷いていた。
儀式の手順といった部分はこちらで進めるので、列席者としては想いを祈りに込めるだけで良いというのは分かりやすくて良いのではないだろうか。
「それじゃあ始めようか」
「わかった」
解呪される側は魔法陣に入ってもらい、俺達が祭壇側から祈りを捧げる形だな。ルドヴィア達は少し緊張した面持ちで、魔法陣の中心に向かう。そして、自分達も祈るように手を組んで目を閉じた。
みんなにも儀式を始める事を伝え――そして儀式細剣を構えて詠唱を始める。
「――我ら、ここに祈らん」
そうした文言から始まり、ルドヴィアやザンドリウス達の名前を一人一人呼んでいく。詠唱と共にみんなが祈りの仕草を見せて――そうして魔法陣が輝きを宿した。
祈りと共に高まる解呪の力が――ルドヴィア達を包んでいく。ヴァルロスやベリスティオの……神格としての力も感じられるもので。冥府からも力と想いが届いているように思う。
「何というか……温かなものが宿ったような……そんな感じがする」
「思っていた印象と、少し違うな……。とても……落ち着くような」
ルドヴィアは胸のあたりに手をやって目を閉じ、ザンドリウスは驚いたように自分の掌を見やる。子供達も自覚無しに涙が出たようで、それに驚いたりといった反応を見せていた。
「みんなの想いが儀式の力になって届いているからね」
「そうなの、か。俺達は――その。大きな戦いを経験した事がないが、平和への想いと言うのか。そういう想いをこうして受け取ってみると良いものだと、そう思う」
ザンドリウスは少し考えつつも、自分の感じた言葉を聞かせてくれた。そんな言葉に、みんなも微笑んで頷く。
儀式に際してルドヴィア達の封印術は解いている。少し落ち着くのを待って、それからきちんと解呪ができているか確認していく。
「ああ。確かに普通の魔力になっているな」
と、ルドヴィアは指先に魔力を集束させ……それを霧散させてから頷いた。
狙撃を行う際の魔力の動き、といった感じだな。長距離射撃が得意と言っていたが、ああやって集束させてから放つのだろう。ウィンベルグ達もそうだが、解呪されても得意な技を使えるようで、その辺は研鑽等が無駄にならないのは喜ばしい事である。
それからザンドリウス達も、全員きちんと解呪されているのが確認できたのであった。
「これなら解呪のお祝いもできそうですね」
グレイスが微笑む。
「そうだね。歓迎とお祝いを兼ねてみんなで楽しもうか」
そう言うとルドヴィア達や列席したみんなも笑顔で頷くのであった。