番外1250 新たな氏族達と共に
更新作業をしてから少し様子を見ていたが、カストルムは好調そうにしていた。特に不具合等もなさそうだな。
「うん。任務の部分については他と連動しているような構成でもなかったし、大丈夫そうだね」
そう言うとカストルムはこくこくと頷く。自分は大丈夫と言うように、力瘤を作るような仕草を見せてくれた。うむ。
「指令の部分を変えて長く運用できるような構成になっていたし、制御術式の記述が整っていて綺麗で読みやすかったな」
この辺は流石七賢者と言えば良いだろうか。そういった言葉に嬉しそうにしているカストルムである。
「俺達も解呪をしていかないとな」
ザンドリウス達もそんなカストルムを見て頷き合っていたりするが。
「ん。封印術にはもう慣れた?」
「うん。少し力が弱くなったなって思うけれど……解呪すればまた変わるのよね?」
シーラが尋ねると女の子が答える。
「ウィンベルグによれば、封印術を受けている時と解呪した時では常時出せる力が変わってくるそうだよ」
ウィンベルグ当人はフォレスタニアで巡回等々の仕事をしているから、今この場には不在だが。
最大出力においてはパワーダウンしてしまうのは否めないな。それからの修業と力の使い方次第で前より力をつけることも可能だとは思うが。
「感じ方が違えば見えていなかったものも見えるようになる気がする。発想にも影響を与えるならば、解呪したからできるようになること、というのもあるはずだ」
そんな風にルドヴィアが顎に手をやって言った。
「それはあるかも知れないわね。そういう発想は嫌いではないわ」
そんなルドヴィアの考え方に感心したように頷いているのはローズマリーである。ローズマリーは手札にある材料を自分の裁量で創意工夫というのは好きな性質だろうからな。
感性が変わる事で着眼点や発想も変わって色んな手段が取れるというのは……確かにあるかも知れないな。
そんなルドヴィアとローズマリーのやり取りにザンドリウス達も少し思案を巡らせているようだ。
「そうなると……早めに解呪した状態に慣れていった方が良いかも知れないな」
ザンドリウスが真剣な表情で言った。
「ザンドリウスは何か目標があるのかな?」
「ん……。そうだな。ルドヴィアに守られるばかりなのは……居心地が悪い、で良いのかな。そう思わなくなるぐらいまでは力を付けたいが」
ザンドリウスがそんな風に言う。なるほどな。
「ザンドリウスは年下の者達への面倒見が良い。今振り返ってみれば私も助けられていたように思うがな」
「そうだろうか」
ルドヴィアに言われてザンドリウスは目を閉じて思案しているが、他の子供達は頷いていた。ルドヴィアもザンドリウスも魔人化を解除したばかりだからな。やり取りも不器用さを感じるところはあるが、お互い気遣っているのが見て取れる。
いずれにしてもルドヴィア達は解呪に乗り気のようなので、こちらとしても安心ではあるかな。怪我の治癒にしてもそう時間はかからずに済みそうだし……それが終わったら一緒に解呪、というのが良いのではないだろうか。
というわけで解呪の予定について伝えると、ルドヴィアと子供達は揃って頷くのであった。
……ルドヴィア達に関して言うなら、彼女が氏族長でザンドリウス達は氏族の面々という事になるのだろう。
それだけ氏族が壊滅的な被害を受けてしまったという事でもあるが……ルドヴィアは氏族に関する話をした時は静かに受け止めていた。
「戦った人間達ではなく、裏切ったイシュトルムという男に思うところはあるが……。今は……そうだな。子供達のためにも自分がしっかりしたい」
ルドヴィアは目を閉じて言っていた。
ルドヴィアも子供達を支えたいと思っているし、ザンドリウスを始めとした子供達のルドヴィアへの想いは言わずもがなだ。お互い支え合いたいと思っているのが分かる。
ルドヴィア氏族の子供達はルドヴィアやザンドリウスを慕っているという事もあってか、憧れている部分もあるのか、隠れ里やエスナトゥーラ氏族の小さな子供達の世話を手伝ったりもしてくれるそうで。
だから他の魔人達や隠れ里の面々、エスナトゥーラ氏族の面々もそんなルドヴィア達を心配しつつも明るく歓迎してくれている。
総じてお互い良好な関係を築くために歩み寄っているように見えるので一先ずは安心だが、今は新しい環境で気が張っているというのもあるだろう。今後も丁寧に注視していきたいところだな。
ルドヴィアの治療に関してはそれから数日後に進めていった。体力と魔力を見て十分に回復していたので鎮痛と止血をしながらも部分的に解呪し、そこにアシュレイの治癒魔法を施す、と言ったやり方だ。
俺が呪術的なパスを通してルドヴィアの体内魔力に干渉。鎮痛、止血を行い、その間にアシュレイが魔力エコーで患部の状態を探りつつ治癒していく、という寸法だ。臓器等の重要な器官の治療を優先して行う。それさえ済んでしまえば普通に治療を進める事もできるしな。
「鎮痛を行っているけど――痛みはあるかな? 痛みだけを選択的に消去しているから、手足の感覚はあるとは思うんだけど」
フォレスタニア城の一角で……椅子に座っているルドヴィアの首の後ろあたりから手を翳して、そう尋ねる。
アシュレイはルドヴィアの隣に座って魔力ソナーと治療がいつでも始められるように待機中だ。
尋ねられたルドヴィアは、少し掌を握ったり開いたり、それから自分の手の甲を軽く抓ったりしてから頷く。
「……そう、だな。手足の感覚は伝わってくるが、痛みはない。不思議なものだ」
「良いみたいだね。始めよう」
アシュレイとルドヴィアを交えての循環錬気だ。廊下ではザンドリウス達が治療が終わるのを待っている。
鎮痛は既にしているので、患部付近の止血の準備をしながら、アシュレイの魔力ソナーに引っかかるように反応を送る。
「位置は捕捉しました」
「よし。それじゃあ変身を少しずつ解除していくよ」
「はい。何時でも大丈夫です」
アシュレイが頷き――そうして部分的に解呪と止血を行う。アシュレイが治癒魔法を用いて……その魔力が届く瞬間に、干渉しないように俺の魔力を後退させていく。
――順調だな。アシュレイは息を合わせて俺の指定した部分をきっちり治療していってくれる。変身させている部分を端から少しずつ解呪して損傷部分を順番に治していく。
やがて……重要な臓器や神経、血管部分を繋ぎ合わせる事ができた。
「後は外傷、という事になるかな」
「こっちはまだ大丈夫です。魔力に余裕がありますし、集中力も切れてはいません」
「ルドヴィアは?」
「私は大丈夫だ」
「分かった。こっちも問題はないから……このまま最後まで続けてしまおう」
筋肉の断裂もあるので甘く見るわけにはいかない。止血と鎮痛はしっかりと維持していきたい。そうして――少しずつ解除しては治癒魔法で繋ぎ合わせるという作業を続けていったのであった。
それから暫くして、ルドヴィアの治癒作業も完了する。改めて循環錬気で様子を見て、魔力の流れや組織等に異常がないか確認して一先ず終了だ。
「これなら大丈夫かな」
「ふむ。最後まで痛みはなかったな」
循環錬気を終えて頷くと、ルドヴィアは上半身を捻ったり逸らしたりと、少し動かして状態を確かめているようだった。
「これで傷が治ったわけか。改めて……テオドールとアシュレイには礼を言う」
「ああ。俺もザンドリウス達との約束が果たせて良かった」
「ふふ。ザンドリウスさん達を廊下で待たせてしまいましたね」
俺とアシュレイがそう答えるとルドヴィアは穏やかな笑みを浮かべ、改めて一礼してから廊下で待っている面々に無事に治療が済んだと伝えに行っていた。
俺の方は細かい作業なので少々肩が凝ったように思うが……このまま少し様子をモニターして、問題が無ければ解呪儀式も進めていくとしよう。