番外1245 新たな仲間達と
遺骨を運搬型のメダルゴーレムで回収。動物や魔物達の物はそれぞれ埋めて、雪原の街道沿いに慰霊碑を立てた。
「立派な慰霊碑だね」
「うんっ。冥府にも想いも届くし、きっとこれなら精霊も戻ってきて、これから先は大丈夫になると思う」
ユイの言葉にリヴェイラが笑顔を見せる。というわけでベリオンドーラ側と通信室のみんなで一緒に黙祷をすると……場の魔力が高まり清浄になって雪原に満ちていった。空白地帯になっていた分、魔力が広がるのも早い。
人化した白蛇も驚きの表情で、精霊達も何事かと覗き込みに来ているのが見えた。
これなら確かに大丈夫そうだな。魔力溜まりの外縁部ではあるが……今までとは逆に、精霊にとって過ごしやすいような場所になるのではないだろうか。
そうやって暫くみんなで黙祷を捧げてから、やがて頃合いを見てみんなに言う。
「それじゃあ、フォレスタニアに帰ろうか。ルドヴィアさんの治療を進めないとね」
「ルドヴィアの事、よろしく頼む」
俺の言葉にザンドリウスがお辞儀をしてくる。
そうだな。そこをきっちり終わらせないと今回の仕事は終わらない。ガルディニスの隠れ家の事や、魔人達に干渉するための儀式も控えてはいるが。
「水晶化の解除に協力はできても、怪我は……難しい」
と、白蛇は少し申し訳なさそうにしている。ザンドリウス達は白蛇を責めるでもなく、淡々とその言葉を受け止めているようだ。
戦いの上での事という考えなのか、ルドヴィアを助ける道筋がついているから、今文句を言うのは建設的ではないと思っているのか。思うところはあるのかも知れないが、一先ずは落ち着いているようではあるな。
「迅速に怪我の治療に移るためにもザンドリウス達にも立ち会って欲しいけど、大丈夫かな?」
「俺達がいればルドヴィアへの説明や説得がしやすくなる、というわけだな」
「ん。そういう事だね」
ザンドリウス達は頷き合い、それから「勿論、問題はない」と俺に返答してくる。
「多少ではあるけど……外の情報も伝わる、と思う」
と、白蛇が目を閉じて言った。
「ああ。術の性質上そうなっているわけか」
水晶化しても生命反応はあるからな。白蛇の元々の目的としては感情を引き出してそれを取り込むのが目的だから、というわけだ。
どこまで伝わるかは分からないが、帰り道にシリウス号の中でルドヴィアにも説明をしていくとしよう。上手くすれば、よりスムーズに治療が進められるはずだ。
そんなわけでシリウス号に乗って、ヴェルドガル王国に向けての進路を取った。
復路は気兼ねなく速度を出せるが、とりあえず朝に到着するように調整しながら進んで行こう。速度優先で行くと深夜に到着してしまうから、そうなるとフォレスタニアのみんなも大変だろうからな。
『ふふ、皆さん怪我がなくて何よりです』
『ん。こっちも、特に異常はない。各地の会合場所や隠れ家も、今のところ動きはない』
と、グレイスが言って、シーラも頷いてからそんな風に教えてくれる。
それは良かった。一先ずは隠れ家の封印解放の時期や、儀式まで少し落ち着けそうな雰囲気があるな。ガルディニスからの伝言を受け取ったネシュフェル王国の動向は、内情も含めて少し気になるところではあるが……まあ、今のところは静観しておくのが良いだろう。
転送魔法で少し人数も増えて、帰り道はカルセドネとシトリア、ユイやリヴェイラといった面々もカストルムやザンドリウス達、白蛇に挨拶と自己紹介をして、中々賑やかなものであった。
仮想循環錬気を行いつつルドヴィアに治療の事を語りかけ、それから少し遅めの夕食を取って、帰り道も交流の時間を確保したりした。
ユイとリヴェイラが一緒に笛を披露したりして、改めて封印術を受けたザンドリウス達もそれに聞き入っていた様子だ。白蛇も料理や音楽等は初めてなのか、エビフライを食べて目を丸くしたり、目を閉じて演奏を楽しんだりしているように見えた。
白蛇については――いつまでも名前がないのも何なので何か決めようかという話になったが「それは嬉しいが……ルドヴィアの治療が、無事に済んでからが良いのではないだろうか」と、当人にはそんな風に返された。
名前については白蛇にとっては特別というのは変わらないらしい。案外律儀というか、ルドヴィアの事が解決していないのに名前を貰ったり名乗ったりするのは気が進まないというわけだ。
後の事といえばザンドリウス達の解呪もだが……みんな解呪自体には異存はないらしい。覚醒に至っているわけでもないし、魔人でなければ力が付けられないというわけでもないからな。
「それにしても、最後に出した技……全く動きが見えなかった。あれは凄い」
と、ザンドリウスは状況が落ち着いたところで雪原での戦いに関する話題を出して。
「確かに。俺にもあれは見えなかったな」
テスディロスが同意するとオズグリーヴや白蛇も静かに目を閉じて首肯したりしていた。
時間停止の術式だからな。術者以外から見ればそうなるのだろう。
そうしてシリウス号は進んでいき、一夜が明ける。みんなで朝食をとって暫くすると、海の向こうにセオレムの尖塔が見えてくる。
「あれがヴェルドガル王国か」
「すごい建物だな……」
「綺麗なお城……」
ザンドリウスやザスカル達がモニターを覗き込んで言う。カストルムも目を明滅させて驚いている様子であった。
そのまま進んで造船所へ向かうと、迎えも来ていた。フロートポッドに乗ってやってきたグレイス達、アルバートやお祖父さん、ジョサイア王子。それにアドリアーナ姫とシルヴァトリアの魔法騎士――エギール、フォルカ、グスタフといった面々も顔を見せているようだ。
シルヴァトリアの面々は遺骨と遺品の受け取り、それに挨拶等も兼ねてと言うところだろう。
それぞれの肩書きを事前に説明しつつ、シリウス号を造船所に停泊させる。
「おかえりなさい、テオドール君」
「無事に帰ってきて何よりだわ」
そうしてタラップを降りて顔を合わせると、イルムヒルトやクラウディア、それにみんなが笑顔で迎えてくれた。
「うん。ただいま」
と、みんなとも抱擁して再会を喜び合う。母子ともに健康、と。みんなの体調も良さそうで、それほど長く離れていたわけではないが嬉しい事である。
「ヴェルドガル王国へようこそ。新たな顔触れを迎える事が出来て喜ばしい事だ」
「シルヴァトリアとしても、同じ道を進む仲間が新たに加わった事を嬉しく思います」
ジョサイア王子とアドリアーナ姫も、カストルムやザンドリウス達、白蛇と、今回のモニュメント設置の旅で新たに加わった面々にも歓迎の挨拶をする。
カストルムは嬉しそうに音を鳴らして返答し、ザンドリウス達と白蛇も歓迎してくれる事に礼を言って応じていた。
「魔人と他の種族との関係は――聞いた。歓迎してもらえるのは、嬉しい」
そうしたザンドリウスの素朴な返答に、ジョサイア王子やアドリアーナ姫も微笑ましそうに表情を綻ばせて頷く。
さてさて。では、色々やるべき事を進めていこう。シリウス号から遺骨と遺品を魔法騎士団の面々に引き渡していく。
「責任を持ってお預かりします」
と、エギール達は敬礼を以って応じてくれる。そうして必要なものを引き渡し、シリウス号から荷物を降ろしたところで、ルドヴィアを連れてフォレスタニアへ向かう、ということになった。
まずは迷宮核にデータ入力をして、水晶化解除のシミュレーションからだな。それが終わったら早速ルドヴィアの治療を進めていこう。