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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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192 イビルウィードと家庭菜園

 2人を娯楽室に招待し、シーラやアルフレッド、迷宮村の住人達を交えて一通り娯楽室のゲームを制覇した。
 イザベラとドロシーは迷宮村の住人ともすぐに打ち解けた。人当たりが良いのは盗賊ギルド周りや娼館周りに訳有りの人間が多かったりという背景もあるのだろう。

「あの劇場で演奏なさっているんですか」
「満月の日だけよ」

 ドロシーはと言えば、シーラやイルムヒルト達と歌や楽器の話で盛り上がっていた。なかなか楽しそうだ。そんなドロシーとシーラを微笑ましいものでも見るように眺めていたイザベラが、こちらに向き直る。

「そう言えば……大使様は東区に店舗を構えたのですよね? これらはそこで販売するおつもりで?」
「ええ。その予定です」
「でしたら……私も注文したいのですが構いませんか? いや、個人的に気に入ったというのもありますが――」

 イザベラが言うには……娼館にカードやダーツのような手軽な遊びがあると丁度良いということらしい。

「それはありがたいです。まだ店も始まったばかりというところなので」

 販路開拓というところか。こちらとしては否やなどあろうはずもない。
 イザベラ自身もダーツに熱中していたからな。シーラもコントロールは良いのだが、イザベラもすぐコツを掴んだようだ。盗賊ギルド幹部ということで、やはりこういうのは得意分野なのだろう。

「この飲み物は分かりませんが――これらの遊具は後追いがありそうな気がしますがねぇ。粗悪な品を扱うような輩に関しては私らが目を光らせておくべきでしょうか」

 そんなふうにイザベラが漏らす。海賊版の取り締まりみたいなものだろうか。

「いえ、そこまでは。商工ギルドの職人方も情報の秘匿を徹底しているようですし、作るとしたら見て学んでの模倣という形になるわけでしょう? 余程悪質でなければ、それは別に良いんじゃないかと思ってますよ」

 先行でノウハウもこちらにあるわけだし、商工ギルドを通してきちんとした職人に協力を得ている。品質が違うとなれば、そこでこそロゴマークに付加価値が出てくるだろうし。どこかの後塵を拝するつもりもない。

「では、悪質と思った場合にはお知らせするということで」
「分かりました」

 苦笑する。全く義理堅いことだ。



「ハーベスタはどうですか?」

 夜――。和室の座卓で、机の縁に手をかけてじっと見守っているマルレーンやセラフィナと一緒に、イビルウィードのハーベスタの実験と観察をしていると、アシュレイが尋ねてきた。

「ん。なかなか面白いよ」
「ハーベスタすごいんだよ」

 虫篭に捕まえてきた色々な種類の虫をハーベスタに近付けて様子を見ているのだが……。
 ミミズのように土壌改良してくれる生き物は放置するが、葉を食い荒らす虫は食虫植物のように積極的に食べようとしたり、葉で追い払おうとする仕草を見せるのだ。
 興味深いのは蜂のように受粉を手助けする種類の虫や、害虫の類を捕食する益虫ならばハーベスタはスルーしていることだろうか。

 まあ、こんなところか。捕まえてきた虫を窓から逃がし、とりあえず実験終了というところか。

「好き嫌いが激しいだけということはなさそうですね」
「うん。自分にとって有益な虫かどうかをしっかり判断してるんじゃないかな。例えば、この虫は他の昆虫を食べる種だから、ハーベスタにとっては中立だけど敵にはならないわけだし」
「ハーベスタは中々賢いようね」
「外の鉢植えのほうはどうだったのですか?」

 クラウディアの言葉に頷いたグレイスが尋ねると、アシュレイが答える。

「あちらも……イビルウィードと一緒だと生育の速度が全然違いますね」

 ふむ……。これはやはり、実地試験する価値がありそうに思えてならない。

「何かの作物と一緒に育ててみるのが良いだろうな」
「なるほど。テオドールは農法に使えないかと考えているのね」

 クラウディアの言葉に頷く。

「もっと先の話だよ。今はもう少し小規模に抑えて、安全性を確かめておく必要がある」
「迷宮村に色々作物の種や苗があるわ」
「丁度良いな。分けてもらえるなら、物置きの横に畑でも作ろう」
「もし、もっと大きな規模でとなったら、シルン男爵領でも協力できると思います」
「ん。それは助かる」
「領地の収穫量が上がったら、それは嬉しいことですから」

 そう言って、アシュレイは微笑んだ。
 アシュレイの領地は穀倉地帯だ。俺とアシュレイが婚約者であることも加味して考えると、イビルウィードを利用した農法が確立したら、恐らくは真っ先に導入という形になるだろう。

 今回の試験規模としては家庭菜園みたいなものだが、将来的にはもう少し大規模に行いたい。そのためには、イビルウィードと共に育てた作物の味や性質なども一応チェックしておく必要がある。



 ということで、明くる日。物置きの脇に畑を作るということになった。
 作物といっても植える時期というものがあるのだが、農作業に関しては迷宮村の住人に一日の長があるのでアドバイスは聞き放題である。

「今の時期だと……えっと。カボチャの植え付けはどうでしょうか?」
「うん。苗が少し余るんだよね」

 アルケニーのクレアと、ケンタウロスのシリルの2人は顔を見合わせてそんなふうに答えてくれた。というわけでカボチャに決定である。今から植えれば秋には収穫できるだろう。

 農作業。特に一から畑を作るなどと言うと何かと大変という印象もあるが……俺の場合は畑にする場所の石を取り除いたり、土を耕したりといった作業はゴーレムを用いることが可能だ。そんなわけでゴーレム達に手分けさせて手早く作業をさせてしまう。セラフィナは作業するゴーレムの頭に乗っかって楽しそうにしていた。

 イビルウィードが育てた花々を柵の中に移し替えて、花壇の体裁を整える。
 一方で畑のほうは丸く畝を立てて、その間にイビルウィード達を移し替え、後は苗を植えれば一応の完成というところだ。俺の知識から石灰を蒔くという手も考えたが、イビルウィードの効果を見たいということで、今回は無しの畑と有りの畑、両方を作って試すのが良いだろう。

 苗は折角だし、みんなの手作業で植えていくということになった。ゴーレムで楽をしている俺が言うのも何だが、一応菜園の醍醐味的なところがあるので。

「私は、こういうの好きよ」

 クラウディアは楽しそうに苗を植え付けている。何となく手慣れた印象があるのだが、もしかすると、迷宮村でこういう作業にも慣れているのかも知れない。

「クラウディアはやっぱり迷宮村で?」
「ええ。私には力仕事なんてさせられないって、あまり手伝わせて貰えないんだけれど」
「姫様にはそういうのより、もっと優雅にしていて欲しいですもの」
「ねー」

 クレアとシリルは笑顔で頷き合って、クラウディアは小さく苦笑した。
 ラヴィーネが前足で穴を掘り、そこにマルレーンが苗を植えてセラフィナが土を被せたりと終始和やかに農作業は進んだ。なかなか微笑ましい光景に女性陣の笑顔もひとしおというところである。

「苗に水はたっぷりあげてありますので。後は様子を見ながら整えたりですね。カボチャは花が咲いたら受粉させる必要があります」

 クレアが色々説明してくれる。整枝に人工授粉といった工程が残っているようだ。
 うーん。整枝はともかくとして、イビルウィードは人工授粉などもやってくれるのだろうか?
 期待し過ぎかなとも思いつつも、もしかしたらとも思う部分もある。周囲の植物を育成していると思しき連中である。

「よろしくお願いしますね」

 イビルウィード達はアシュレイに頭を撫でられたりしている。畝の間に鎮座する連中はされるがままで大人しいものだ。

 ふむ。要するにその光景を確認できれば良いわけだからして。開花のタイミングを見逃さなければイビルウィードの反応も観察可能なのではないだろうか。
 まあ菜園のほうは生育の状況も少し気になるから、こまめに様子を見ながらだな。
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