番外1238 シリウス号との合流
封印術の維持に関しては全員応じてくれた。外の景色や物の見え方等に感動しているようで、まだ見ていたいとの事だ。それに関しては安心できる話でもあるかな。
ザンドリウス達と少し話し合い、シリウス号が近くに控えている事や転移魔法の抱えるリスクについても説明すると、まずはルドヴィアをシリウス号内部まで運んでしまおうという事になった。
ザンドリウス達が退避させてここまで運んできた事から分かる通り、場所を移す分には水晶槍の妨害発動条件に抵触しないようだからな。
ただ運搬中に……砕けるような事だけはないように注意をしていきたい。そのために運搬用の容器を構築していきたいところだ。
箱型の容器に刻印術式を刻んでレビテーションを維持。ゴーレムメダル複数枚でエアゴーレムのクッションを構築。護符で身代わりを配置する、といった感じで色んな状況に対応できるようにしておくわけだ。
自重による負荷がどこかに集中して砕けたりしないようにエアゴーレムの制御に関しては慎重に検証しておきたい。
「一つ一つ、抵触しないか検証していこう。魔力の動きを見れば反応するかどうか、ある程度分かるからね」
運搬容器について説明しつつ隣の部屋に戻り、一つ一つの要素を検証していく。レビテーションは――問題ない。空気のクッションもだ。護符に関しては相手が動いたら動くという、対症療法的な処置なので組み込んでも反応しない、と。まあ、腹部の水晶に関してはこちらが想定した通りの挙動ではあるな。
循環錬気や治癒術等、魔力や魔法的な干渉に反応する事は確認しているが、触れる程度では問題ない。レビテーションも問題ない、と。
「一先ず、運搬の方法に関する検証はこんなところかな。問題無さそうだからそのまま構築していこう」
土魔法で容器を構築し刻印術式を魔石粉で埋めて固め、構造強化を行う。レビテーションとメダルゴーレムも組み込んでゴーレムによる空気のクッションを構築。エアゴーレムが状況に合わせて面で支えるようにして対応してくれるので、内部にあるものは自重による負荷もなく、容器にぶつかる事もなく空気の中に浮かぶ、といった仕上がりになっている。魔石を組み込んで稼働時間を上げてやれば一先ず完成だ。
人が入っても問題はなく、どんな感じで支えられるかを確かめられると伝えると、ザンドリウスは「ではルドヴィアを運ぶのなら」と言って、自分で内部に入って確かめていた。
「なるほど。確かに浮いているし……どの方向に体重を預けても万遍なく支えられている感じがするが……何だろうな。少し、楽しい……? ような気もする」
と、運搬容器の中でそんな風に言って頷くザンドリウスである。それを見て気になっている様子の子供達であるが。
「安全性の確認や納得も兼ねて一人一人に確かめてもらうのも良いかもね」
そう伝えると子供達も頷き、順番に中に入って確認していた。安全性の確認については理由付けではあるが、実際確かめてもらいたいところもあったので建前というわけでもない。子供達も空気のクッションの感覚等を確かめ、色んな姿勢をとったりして笑顔になっていた。
ゴーレムがある程度状況を見ながら判断してくれるので、内部に入っても呼吸などは普通にできる。
『ふふ。封印術を施したから、表情も色々見せてくれるようになりましたね』
と、グレイスが子供達を見て嬉しそうに微笑み、通信室のみんなも嬉しそうに笑う。そうだな。それは確かに。
そうして子供達にも確認してもらった後でルドヴィアを容器に収める。
内部の状況を確認できるように容器の蓋を木魔法で作った透明の樹脂で構築。ルドヴィアを内部に運び込むと、水に浮かぶように容器の中に浮いた。腹部から水晶槍等が飛び出しているしルドヴィア本人も姿勢が直立ではないので少し大きめに構築してあるが……一先ずは問題なさそうだな。
蓋を閉じても空気穴は開いているし、衝撃や負荷からの保護に特化しているが、それ以外のところには干渉していない。もし水晶化が解除されても呼吸等々に問題はない。
「後はこれをシリウス号の艦橋に持ち込んで固定する、と」
そう言うと子供達は真剣な表情で頷いた。エアゴーレム達が形を変えて容器を運搬してくれるのでその辺、人手は掛からない。レビテーションもかかっているので移動や固定も簡単なものだ。
子供達は運ぶつもりでいたようだが、まあ、封印術を受けたばかりで感覚の違いもあるだろうし。ゴーレムに運んで貰えば封印術を解いたりしなくてもいいしな。その代わり色々生活の中で蓄えたものなどがあるだろうから、それらも私物としてシリウス号に運び込めばいい。
そう伝えるとザンドリウス達は納得したのか、どこからか集めてきた本を持ったり、加工中の毛皮を取ってきたりと移動の準備をしていた。
「その本は、ベリオンドーラ王国時代の廃墟から持ってきたものなのかな?」
「ああ。ここから少し移動すると、廃墟の街があって……そこを探索して持ってきたものだ」
なるほどな。まあ、その辺は予想していた通りではあるか。そこから知識を得たりしていたようだし、本に関しては継続してそこから学んで貰って問題はない、と思う。
「それじゃあ、シリウス号に乗り込んで行こうか」
というわけでシリウス号を監視施設の屋上に横付けしてもらい、そこにタラップを降ろす。みんなと共に移動して屋上に出ると、フィールド内部に入って見えるようになったシリウス号にザンドリウス達は驚きの表情を浮かべていた。
「こんな大きな物が姿を消していたのか」
「正確には、まだ姿を消している状態だね。俺達が隠蔽の効果範囲内に入ったから見えるようになったわけだ」
襲撃者の事もあるし、シリウス号の姿は隠したままの方が良いだろうという判断だ。
子供達はシリウス号の姿を見て感動しているようで、少しの間驚きの表情で見上げていたが、やがて頷きみんなでタラップを登る。
甲板には留守を預かっていたアルファやリンドブルム達も待っていて、ザンドリウス達を歓迎するように喉を鳴らす等、各々挨拶をして迎える。
俺からもシリウス号の留守を預かっていた面々をザンドリウス達に紹介していく。飛竜や魔法生物やら、色々いるので少し戸惑っていたようだが、翻訳の魔道具で意思は伝わるので、ザンドリウス達も落ち着きを取り戻すと律儀に挨拶と自己紹介を返していた。
そうしてルドヴィアを艦橋に運び込み、椅子等を利用して目の届く位置に固定する。何かあった時にすぐ対応できるよう、ティアーズが常時監視についてくれた。
後は――そうだな。塔の内部に潜入していたカドケウスとシーカーにも戻ってもらう。会合場所はまだ念のために監視しておくとして、崖の廃棄場所に配置した監視役のハイダーにはもう戻ってもらって良いだろう。転送術式でこちらに呼び出し、移動の準備を整える。
「さて。それじゃあ襲撃者についての話をしようか」
諸々準備が整ったところで、艦橋の机の上にベリオンドーラの地図を広げて状況を確認していく。
今いる場所は地図には載っていないが、これも目印を置いておこう。地図の読み方を簡単に説明しながら話をしていくと、ザンドリウスは「会合場所の位置から言うと……俺達が探索して本を持ち帰ってきた廃墟はこの場所だろう」と、廃墟のある位置を説明してくれた。
その場所に関しては地図にも残っているな。それから――ザンドリウスは地図を北の方向へ辿っていく。
「例の襲撃者と遭遇したのは……この位置、か?」
「だろうね。戦場の位置については記録にも残っている」
位置関係的にはザンドリウス達はこの場所で襲撃を受け……敗走する過程で廃墟の街か会合場所のある方向に落ち延びたという事になるのかな。