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2003/2811

番外1229 足跡を追って

 山の西側も、それほど東側と風景は変わらない。寒い場所なので山は森林限界が早い。真っ白な山体で、雪と氷の山といった風情だ。

 裾野は針葉樹の森が広がっていて些か見通しは悪いが、そこにいる生き物は生命反応で追えている。ある程度のところは光のシルエットでも分かるというか。

 狼の魔物の群れが……同じく鹿の魔物の群れの匂いを追って追跡している場面も見て取る事ができた。


 この辺の魔物は、魔力溜まりからの魔力の供給だけでは足りないから普通の狩りや食事も行うわけだ。色々と興味深い光景ではあるが……今は別に目的があるので、そういったものに気を取られているわけにもいかない。


『子供だとすれば……やはり大人達が戻って来ない事で困っていたり、という感じでしょうか』


 グレイスが少し心配そうに言う。

 場所が場所だけに浮遊城側に出払っていたという事も有り得るな。イシュトルムは……魔人達も憎んでいたから。一目置いていたヴァルロスが敗れた時点で戦場から城に撤退してきた魔人や、防衛のために残っていた魔人……それに身を寄せていた魔人の氏族達も含めて全滅させてしまっている。

 本来あるべき連絡が来ないために時期ではないと知りつつ会合場所を確認にいく、というのは有り得る話だ。


「それも可能性としてはあるね。氏族としても非戦闘員を保護するための戦闘員を念のために残したりはすると思うけれど……そっちで何か問題があれば、こういう事態になっても不思議はないし」


 その問題については何とも言えないな。食糧となる負の感情を確保しようとして人や魔物に返り討ちにあったのではとか……推測はできても現時点では根拠がないので想像の域を出ないが……まあ、こういう場合ならどうすると、事前に想定を重ねておくのは無駄にはならないだろう。


 そうした話をすると艦橋と通信室の面々は色々と思案している様子であったが、こんな可能性もあるのでは、こういう場合はどうするべきか等々相談を重ねてくれる。

 そうやって話をしながらも、みんなで手分けして周囲の状況を見ながらシリウス号はゆっくりと進んでいく。


 ティアーズがそれを発見したのは、暫くしてからの事だ。マニピュレーターを振ってから、魔力文字を出して何かがあると伝えてくる。

 生命反応の光はそこにはなかったが……確かに、調べてみる必要のある光景がそこにはあった。


「姿を隠して降下してみよう」


 そう言うとテスディロス達も頷く。

 座標を記録しつつ少しだけルートを外れて谷間に向かってみる。

 山から続く裾野は緩やかな斜面になっていて、眼下には森が広がっているが崖や雪渓、谷が形成されていたりと、結構高低差にも富んだ地形だ。


 ティアーズが示したのはそういった地形の……切れ込んだような崖の部分だな。シリウス号で直上を取り、降下してみる。


「上から投げ込まれた、といった雰囲気ですな」


 オズグリーヴが淡々と言う。

 そこにあったのは……様々な魔物の遺骸だ。凍って雪を被っていたりするので、腐敗は進んでいない。ここに来るまでの森で見た、魔力溜まりの魔物ばかりではあるが。もう少し詳しく見ていく。


「瘴気浸食の痕跡、かな、これは」


 崖に放り込まれている魔物の死因は恐らく瘴気弾によるものだ。他の魔物に食い荒らされた後も見える、が……それは死後、ここに放棄されてからのものではないだろうか。

 毛皮の剥ぎ取りをした痕跡等も見られるが、全体的に処理が少し雑なように見える。食用に適した魔物から肉を取っていないところをみると……通常の食事を必要としていない魔人達なら辻褄が合う。


「廃棄場に定めたのでしょうが……色々と雑ですな。これは」


 と、オズグリーヴが言う。


「隠れ里ではどうしていたのですか?」

「無計画に廃棄すると、このような有様になってしまいます。そこから集落の存在が発覚する危険性もある。魔物を狩り、その過程で食事をするというのは我らも行っておりましたが……狩った場合はなるべく無駄や痕跡が出ないようにしていましたな。毛皮は勿論、肉なども干して加工すれば保存も効く。行商を装えば、売り払ったりする事も可能ですし」


 首を傾げるオルディアに、オズグリーヴが答える。


「つまり、この廃棄の仕方は……そうしている者達があまり他種族の目を意識していない、という事か。魔物を相手にしている分には他者の目を気にする必要もなく、食事にも苦労しないが……これでは意味がないな」

「そうですな」


 テスディロスの言葉に、目を閉じて首肯するオズグリーヴ。


『周囲に人がいないから油断しているというのもあるかも知れないけれど……共同体や生活を営む上での経験や知識に乏しいからこうなってしまうと考えても、辻褄は合ってくるかしら』

『敢えて魔物の遺骸を目立つ場所に捨てる事で、魔物を呼び込む餌にしている可能性もあるけれど……どちらにしても瘴気浸食の痕跡を隠してもいないから、他種族の目は意識していないわね』

「どっちもありそうな話だ」


 ステファニアとローズマリーの言葉に、目を閉じて頷く。これまでの情報に照らし合わせるならそういう事になるな。


「崖の上あたりに監視の目を残してから、周辺に足跡が残っていないか探してみようか。ここからの手掛かりになるかも知れない」


 そう言うとテスディロス達が頷く。

 そうして調査をしていくと、崖上に幾つかの足跡を見つけた。

 複数人の足跡があるな。いずれも子供らしき、小さな足跡だ。


「大人らしき足跡はやはり無し、と」

「彼らの廃棄場所であり集団の中に経験豊富な者が少ない、というのは間違いなさそうですね」


 オルディアが眉根を寄せる。


「餌にして呼び寄せるというのも、集落が発覚する危険性を無視すれば魔人らしい合理性でもありますな」


 オズグリーヴが顎に手をやって言う。そうだな。結界術による各個撃破の対策として正体を隠す事や会合場所を秘する事を魔人は……集団として学習している。少なくとも氏族に属する者達はそれを知識として共有している。

 だがこの魔人達は……その辺の知識をまだ伝達されていないか、人がいないから必要性を感じていない。或いは優先順位を低くせざるを得ない程に余裕がないのか。


「やっぱり捨て置けない、かな。子供であるという事もそうだけど、そういう知識や余裕がないのなら尚の事だ」


 そう言うとオズグリーヴやエスナトゥーラが頷く。

 負の感情については人の方が大きいらしいからな。魔人達の食事としての観点で言うなら、魔物より人間の方が優れているという事だ。互いにとって、不幸な事に。


 それに人は学習と伝達をするから、当然魔人達についても語り継ぐ。二つ名を持つような魔人は悪名によって恐怖と共に語られるからこそ、定期的に食事をする必要がなくなる。


 ともあれ……この子供の魔人達が人里に接触すれば、結界術等の知識に乏しいからこそ、悲劇が起きると予想される。そうした事態は回避しなければなるまい。


「まずは――この場にある足跡の分析かな。飛んできた方向と帰った方向がここから分かれば、会合場所の足跡と併せる事で、居場所が割り出せるんじゃないかなって思っている」


 会合場所の足跡と廃棄場所の足跡。ここから伸ばした二つの線が交差する。その近辺に潜伏している……と考えられる。


『確かに。偽装を意識していないものね』

『飛行できる分、特別な理由がなければ直線で移動する事になりますからね』


 クラウディアが言うと、アシュレイも同意する。

 後は居場所を割り出し、情報収集をして説得なりなんなりをしていくという事になるな。

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