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2001/2811

番外1227 雪上の痕跡

 湖は所謂氷河湖というもので、高峰の谷間から流れ込んだ氷河がそのまま湖になったものだ。

 氷河湖は氷河が融けて湖になったものなので、夏場でも非常に水温が低いのが特徴らしい。ましてや冬場であれば、そこは白と青の氷の世界といった風情だ。湖に流れ込んだであろう氷山ごと凍り付いていて、少し他では見られない光景が広がっている。

 ラヴィーネやティールとしては心惹かれる光景なのか、モニター越しにそれを見て声を上げていた。


「夏場だったら湖の氷も融けて、また違った光景だっただろうね」


 アドリアーナ姫から貰った資料によるとベリオンドーラ王国が健在であった頃、夏に湖近辺を訪れた冒険者がいてその手記が遺されているそうだ。曰く、湖面が鏡のように光を反射して絶景だった、と記してあるらしい。

 魔力溜まりが近いので湖も油断できない場所ではあるが、さぞかし見応えのある光景なのだろう。


 そうして進んでいき、やがて俺達の目的としている座標が見えてくる。特徴的な場所を会合場所として決めた、という話らしいが――。


「ああ、あった」

「確かに、分かりやすいですな」


 モニターを見ながら頷くオズグリーヴである。

 針葉樹の森の中に……ぽつんと大きな白い塊があるのが見えた。大きな岩だという事で、目印としては分かりやすい。

 岩では植物も生えようがないだろうし、雪が融けていればもっとわかりやすかったのだろうが。


 他の会合場所に比べても分かりやすいものだが……ベリオンドーラも陥落しているから、冒険者が訪れるような事もなく……ある程度目立つ場所でも大丈夫、という判断かも知れない。確かに利便性がある。

 その岩山の根本が会合場所として選ばれている、という話だが、さて。


「それじゃあ、周囲の状況を確認しつつ、問題がなければ設置しに行こうか」

「降下の準備はできている」


 頷くテスディロスである。そうだな。周辺の生命反応を確認しつつ、問題がなければ隠蔽フィールドを纏って降下していこう。


 周辺の生命反応に、気になるものはない、かな。野生動物と魔物らしき反応は見られるが。

 湖の氷の下にも魔物の生命反応があるが……まあ、会合場所までは距離があるし、魔道具は勿論、俺達自身も察知されにくいようにしているからな。

 ちょっかいを出してくるような事はないだろうから、一先ずは大丈夫そうだ。


 というわけで周辺の状況を確認したところで、テスディロス達と共に甲板に出て降下していく。

 乾燥した冷えた風が頬を撫でる。精霊達は些か荒々しい雰囲気があるな。環境が厳しいから精霊達の性格にも反映されているのだろうとは思う。

 人馴れした精霊はもっと親しみやすい雰囲気があるが……そうした場所は住環境として良い場所だから精霊達の性格も相応に穏やかだったりするものだ。

 ともあれ、隠蔽フィールドを纏っているので精霊達からも認識はされていないようで。


 そのまま周囲の動きに気を配りつつ、ゆっくりと降下する。会合場所は岩の上ではなく根本という事なので、そこに魔道具を仕込んで行けばいいだろう。岩自体が目印になっているから、わざわざ目立つ場所に仕込む必要はない。


 雪を除け、周囲と同化させて魔道具を埋め込み、改めて雪を元通りに被せる、と。よし。これで良い。


「これで全ての場所に魔道具を埋めた、という事になりますね」

「そうだね。一先ず目的としては一段落、かな」


 少し安心したような笑顔を見せるオルディアに頷く。


「……テオドール。あれを」


 と、木々の間を指差すテスディロス。そちらに目を向ければ……。


「これは――」


 雪の上に人の足跡らしきものが残っているのが見て取れた。

 まずは周囲の生命反応を地上とシリウス号の視点の双方で確認。それらしき反応は……周囲にはないな。


 俺達自身は痕跡を残さず、周囲から悟られないようにフィールドを纏ったまま近くまで移動。足跡を調べてみる。


 降雪量自体はそれほど多くないようで、雪は時間が経って凍り付いたものだ。これが新雪であれば新しいものと判断がついたのだが、この場合は……足跡が何時頃ついたものなのかは判別しにくい。あまり新しいものではない、ように見えるが。


「靴の痕跡、ですな。獣のものではない」

「……他の場所から続いてきた足跡ではありませんね」


 オズグリーヴが眉根を寄せ、オルディアも表情を曇らせる。そうだ。足跡にしても色々あるが、これは動物のものではなく靴によるものだと推定される。オルディアの言うとおり、雪の上にぽつんと足跡が残っていて、どこから歩いてきたのか判別ができない。足跡の主が、どこに歩いて行ったのかも。


「会合場所だし、ほぼ間違いなく魔人によるものと考えて良さそうだね。それにこれは……足跡が随分小柄に見えるな」


 凍った雪を周囲ごと踏み砕いた足跡なのでやや分かりにくいが……靴のサイズが小さく、比較的体重も軽いのではないだろうか。


「んー」


 少し迷ったが、雪の上に俺も足跡を付けてみる。ウィズに比較分析をしてもらう事で、足跡の主の概ねの身体的データを割り出そうというわけだ。足跡が付けられた時と雪の状態が全く同じというわけではないだろうから、あくまで参考値ではあるが。


 そう説明すると、みんなも納得したように頷いていた。


「空を飛んで誰かがやってきて……そうだな。会合場所の様子を見に来たとするなら、あっちの方向から飛んできて着地したっていう事になるのかな?」


 靴跡の状態も見て、どの方向からどんな着地をしたのか、飛び立つ時はどうしたのか。その辺にも気を付けて分析していきたい。雪面の状態をしっかりと記憶していく。

 俺自身も同様に、飛び立つような動きをする事で比較分析ができるようにしておこう。念のために水魔法で俺の付けた足跡をできるだけ元通りに直す。


「もう少し周囲を見て、足跡が他に残っていないかも見ておこうか」


 そう言うと同行している面々も頷いた。周囲の警戒はシリウス号にもして貰っているので、生命反応を見て警戒してもらっておこう。空を飛んでくる可能性が高いので、その辺にも注意が必要だ。




 そうして……暫く岩の周辺で調査を行った。足跡は他にも2ヶ所程に残されていたが、同じ靴跡のようだ。魔力を流して正確な型をウィズに記憶してもらったから、後はこれを持ち帰って分析するだけだな。一先ずこの場で行うべき事は完了だろうと思われる。


 他の場所でもそうだが、モニュメントを設置してから少し留まって変化が起こらないか様子を見てから移動している。今回もそれを踏襲するつもりだが、その間に分析を進めていくのが良いだろう。


 そんなわけでみんなと共にシリウス号へと戻った。


「この場所を会合場所にしている魔人、というところまでは間違いないかとは思います」

『靴跡が比較的小さいのが気になるところですね。子供の魔人、でしょうか』


 少し心配そうにエスナトゥーラが言う。そうだな。分析はまだだが、子供という可能性は高い。

 魔人達が様子を見に来ているとしても、それは氏族それぞれで事情があるだろうし、会合場所なのでこちらとしてはその行動に干渉する理由が今はない。魔人達の事情にあまり左右されないように秘密裡に行動しているわけだからな。


 けれど……それが子供の魔人となるとな。何かしら背景を考えてしまうというか。特に、イシュトルムがヴァルロスを裏切った後であるし。第二世代の魔人の子供の特性を聞いていると気になるところだ。


「監視の目も残しているから、転送魔法陣も残しておく必要があるかも知れないね」

「改めて必要に応じてこの場所に戻って来られるように、というわけですか」

「うん。捜索して発見したり、事情が分かるとも限らないからね」


 オズグリーヴの言葉に答える。次にいつ来るか分からないのにずっとこの場に留まっている、というわけにもいかないしな。その点転送魔法陣を残しておけば……必要に応じて細やかな対応ができる。

いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます!

お陰様で2000話突破しました!


こうして長く作品を続けてこられたのも、ひとえに読者の皆様の応援のお陰です!


今後も更新頑張っていく所存ですので、どうぞよろしくお願い致します!

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