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190 悪魔と巨人

 準ガーディアン級などと言われているが……下層でボスのように配置されているだけあって、本来のガーディアンであるソードボアやキャプテンノーチラスよりもフレイムデーモンは格上の相手になるだろう。遠近両方をこなし、隙がないという正統派だ。倒すには地力が問われる相手ではある。


 だが様子見の必要はない。真っ直ぐフレイムデーモンに向かって突っ込む。

 それを迎え撃つように炎の大剣が下から振り上げられた。シールドを展開。防御しながら大剣の勢いに乗るようにして跳躍する。フレイムデーモンの頭上を飛び越え、奴が振り向くより早く空中を蹴って直線軌道を描く。


 ウロボロスの打撃が空中に青白い輝きを残す。それを――フレイムデーモンはすんでのところで身を屈めて避けた。デーモンが左手を下から振り上げると、大きな火柱が上がって俺を焼こうとする。


 ファイアーラットの外套を着ているとはいえ隙間はある。そのまま炎に巻かれればダメージを食らうのは避けられない。

 だから、ゼヴィオンの時と同じく――空気の層を作り出し、熱を遮断する。火柱の中を突破してフレイムデーモンに突っ込むと、奴は俺の一撃を大剣で受けた。竜杖と大剣とが火花を散らす。


 咆哮と熱風。背中から広がるは燃え盛る炎の翼。鍔迫り合いのまま舞い上がる。

 脇から丸太のような何かが迫ってきた。フレイムデーモンの尾だ。外套の隙間からネメアの腕が飛び出し迎え撃つ。

 互いに弾き飛ばされる。即座に反転して空中で炎と魔力の輝きを残しながら、幾度となく交差。その度に衝撃が走り、スパーク光が弾ける。

 打撃と斬撃の応酬。尾と爪。爆風と衝撃。広がる火炎のブレスを、フレイムアブソーブで曲げて打ち掛かる。


 反射速度が並ではない。精神構造がどうなっているのかは知らないが、動揺も見せない。カペラとネメアを使った変則的挙動と増加した手数も、あるがままに受け入れて対応してくる。

 ミラージュボディを発動。大剣と尾を掻い潜って脇腹に竜杖による一撃を叩き込むが、応えた様子もなく即座に大剣を大上段から打ち下ろしてくる。竜杖で流しながら横回転して上昇。顔面真正面から竜杖を叩き付けるが、角を振り回すように首を巡らせて弾くことで対応してきた。


 タフネスも戦意も十二分。戦闘技術と反応速度、共に良好。なかなか――面白くなってきたじゃないか。




 ディフェンスフィールドと氷壁で陣を作ったということは、ヘビーアーマー達も包囲も制圧もしにくくなる。フィールドに踏み込めば動きを阻害されるからだ。

 故に、一方向から隊列を組んで鎧の重量に任せて押し潰すという選択をしたらしい。

 それに押し留めて対応するのはラヴィーネの背に跨るアシュレイ。デュラハンと己の周囲にソーサーを滞空させるマルレーン。それから、後衛より矢で仕留める役がイルムヒルトとセラフィナだ。


 繰り出される槍が、ディフェンスフィールドで勢いを殺され、地面から生えてきた氷樹に穂先を飲み込まれて強制的に動きを停止させられる。

 そこを薙ぎ払うのは氷塊を纏ったロングメイスの一撃。レビテーションの併用でヘビーアーマーを軽々と吹き飛ばし、後列に叩き付ける。隊列が崩れたところをデュラハンが蹂躙。大剣を振るってヘビーアーマー達を打ち上げていく。反撃は届かない。高速回転するソーサーが槍も剣も矢も弾き散らすからだ。


 高空に打ち上げられたヘビーアーマーが次々光の矢に射抜かれる。完全武装で盾を持っていたとしても、デュラハンに吹っ飛ばされているという状況では何の役にも立たない。


「シーラ!」


 シーラの役割はオフェンス。前面の槍兵が崩れたところで、イルムヒルトの言葉と共にシーラが飛ぶ。粘着糸を地面に放って、接着した場所を支点に大きく弧を描くと、悠々と囲みを突破して包囲するヘビーアーマー達の遥か後方を取った。

 目標は――兜に羽根飾りをつけたヘビーアーマー。所謂指揮官だ。他より戦闘能力が高く、ここいら一帯のリビングアーマー及びヘビーアーマーを統率している。逆に言えば――指揮官を仕留めてしまえば連中の連携や動きに乱れが出るということでもある。


「行く」


 何度かあらぬ方向に飛んでから、シーラが切りかかる。指揮官はそれに対応してみせた。闘気を纏う真珠剣を銀の直剣で受けると、左手に持つ盾をぶつけるように踏み込んでくる。

 それに、乗る。盾の勢いに逆らわずに跳躍。重さを感じさせない動きを見せながら空中で反転すると、直線的に跳ね返る。

 剣と盾と。ぶつかり合う甲高い音が響き渡る。


 邪魔は――入らない。氷壁がシーラとアシュレイ達の戦場を分断しているから。

 サークレットによる水魔法の増強により、アシュレイの空間制圧能力は今や相当なものだ。氷自体もより強固なものとなっている。


 立体的な挙動で指揮官に迫り双剣を自在に振るう。舞い踊るかのように斬撃が乱舞する。避けと攻撃とが一致した攻防一体の動き。指揮官は盾を持つ有利を押し付けようと躍起になるが、シーラ相手では自ら死角を増やしているだけだ。

 数度、切り結ぶ。真珠剣での攻撃はやや効果が薄いが――シーラの狙いは力押しではない。


 指揮官のシールドバッシュ。しかしそこにシーラはいない。炎熱系の攻撃を仕掛けてくる相手が近くにいないのを良いことに、ファイアーラットの外套を抜け殻のようにその場に残し、姿を消したシーラがその下から飛び出している。


 当然あるべき手応えの無さに、指揮官がたたらを踏む。その時には向き直ったシーラが既に背後からアラクネアリングで狙いを付けていた。

 



 飛来する鉄球を、真正面から迎え撃つ。

 巨人の鉄球とグレイスの斧と。双方闘気を纏っている。ぶつかり合って凄まじい音を立てた。射程においては巨人のほうに分がある。鉄球を打ち払いながらグレイスが前に進めば、巨人は引き戻した鉄球に繋がる鎖で、今度は薙ぎ払うような動きを見せた。鎖にも闘気が纏わりついている。


 飛んで逃げても変化して捕捉するのだろうが――グレイスは巨人を相手取り臆する様子も全く見せずに、そのまま真っ直ぐに前に出る。

 鞭のような一撃は打点さえ外してしまえば威力は激減。あろうことか鎖を引っ掴んでそのまま真っ直ぐ前に踏み込む。


 苛立たしげに咆哮を上げた巨人が、迎え撃つべく蹴りを放った。鉄の具足は闘気を纏い、破滅的な破壊力を秘めていることが窺える。

 そこで――グレイスが止まる。前面にシールドを展開。急停止。暴風を伴い蹴りが通り過ぎた瞬間、鎖を握ったまま横に飛ぶ。空中にシールドで体を固定。鎖を握る巨人の身体が引っ張られて、泳ぐ。体勢が崩れる。


「受けなさい」


 紫色の煌めきを放つ闘気斧が投げつけられた。狙いは首。上体を反らして回避。馬鹿げた筋密度を持つ巨人であろうがお構いなしに肩口の一部を抉り飛ばす。跳躍。砲弾のような勢いでの接近。

 激痛に咆哮しながら巨人はそれを迎え撃った。近接ならば鉄球ではなく、素手でねじ伏せてみせるとばかりに。己の拳に闘気を纏って打ち込む。手甲を身に着けている。充分過ぎる凶器であった。

 グレイスのすることは変わらない。斧による迎撃。但し、斧だけでなく全身に闘気を纏っている。体格で遥かに劣るはずのグレイスの斧と巨人の拳が激突。巨人は前に出る。グレイスも弾かれても即座に反転。突貫。

 退かない。退かない。拳と斧が激突。いや、衝突。炸裂するような音を立てながら、闘気と闘気。力と力による真っ向勝負。質量の不利を感じさせない、グレイスの膂力。


 全身に闘気を纏って飛ばしているグレイスと、攻撃と防御のためだけに闘気を使っている巨人と。継戦能力で言えば巨人に軍配が上がるだろう。長期戦になれば巨人に有利が傾いていく。


 はずだった。

 それは前までのグレイスならの話。夜の力をドレスから供給されるグレイスは薄く笑みさえ浮かべると、一層研ぎ澄まされた闘気を迸らせて斧を振るう。


 そうなれば勝敗を分けるは装備の質。闘気を用いているとはいえ、巨人の装備はただの鉄だ。度重なる激突の負荷にとうとう耐えきれなくなったか、巨人の手甲が砕け散り、その拳を斧が深々と断ち割る。

 苦悶の声を上げて拳を引く。グレイスは目と鼻の先まで踏み込んだ。無傷の腕で掴みかかる。掌に斧を叩き込み、グレイスが転身。身体の陰に隠れた攻撃は完全に巨人からは死角になっていた。加えて、幻影の斧を発動して軌道を読ませない。


 巨人の鉄兜のバイザーごと――その顔面を――両眼を真一文字に切り払っていた。闘気による斬撃の投射が、完全に視力を奪う。


「グレイス!」


 シーラが呼ぶ。粘着網で指揮官を捕えたシーラの姿。アシュレイの制御する氷がレールのように指揮官から巨人までの道を作る。グレイスは意図を察して、シールドを蹴って地面に降り立つ。

 顔面を押さえて悶える巨人の、がら空きになった踵に斧を叩き込む。巨木を切り倒すように、巨人の身体が揺らぐ。ラヴィーネと共に走り込んできたアシュレイが指揮官にレビテーションをかける。シーラは遠心力をつけて粘着網を振り回し、氷のレールに指揮官を滑らせ――。


「はああっ!」


 グレイスは巨人の足を両手で掴み――裂帛の気合と共にそのまま一本背負いの要領で放り投げた。滑ってくる指揮官の上へと。




 炎を纏う大剣。放射される熱波。しかしゼヴィオンの時とは違う。火炎に対する対策は充分にしてあるのだ。だから――息のかかるような距離での切り合いこそが互いの武器を相照らせば俺の有利に働く。奴が十二分に己の得物の性質を活かせる間合いの、その内側こそが俺の距離。水魔法で氷の鎧を纏ったネメアが、その爪でフレイムデーモンの尾をがっちりと捕えて、離れることを許さない。


 それでもフレイムデーモンは食い下がる。杖と大剣を幾度となく打ち合わせ、牙を剥き鋭い爪を突き込んでくる。頬を掠める熱風。甲高い音を響かせ、空中を踊るように切り結ぶ。


 天地を入れ替え攻守を入れ替え。城壁の上に配置された弓兵達をついでに薙ぎ倒しながら舞踏する。


 柄頭によるかち上げ。同時に上段に意識を逸らしての膝蹴り。上段をシールドで、下段をカペラによる頭突きで迎撃。シールドで攻撃を受け止めると同時に衝撃打法を放つ。


 フレイムデーモンは大剣を引くが、大口を開けてブレスをぶっ放してきた。炎のブレスの効力は薄い。それは奴も承知していてブレスと土魔法を組み合わせて焼けた石の散弾を飛ばしてきている。

 とはいえ炎で視界を塞いでの目晦ましの狙いがあるのも変わりない。


 シールドを全方位展開して索敵。斜め下から脇腹を狙って突き込まれる、鋭い爪。身体を捩じって避けて、振り返りもせずに後方に向かってウロボロスで突きを放つ。


 衝撃打法を食らって頭部を弾かれながらも大剣を振り払ってきた。崩れた体勢から放った斬撃。斜めにシールドを展開して大きく流す。

 大した戦意だがそれも時と場合だろう。再度転身して腹部に手を添えて衝撃打法を打ち込み、続けざま、ウロボロスで張り飛ばす。


「ゴオオアッ!」


 フレイムデーモンはそれでも退かない。ダメージをお構いなしに翼をはばたかせて、俺を押し出すように急上昇した。逃さないようにと尾を自らネメアに絡ませ、両腕でシールドごと左右から押さえつけて、防御を捨てての捨て身の構え。

 狙いは――結界に俺をぶつけることか――。


 マジックサークル展開。その規模にフレイムデーモンが目を見開く。それでも上昇を止めない。この距離ならば魔法の種類によっては自分の魔法に巻き込めるからと。大魔法であるなら、確かにそうだ。その見立ては正しくもあるし、間違ってもいる。俺も奴も、笑った。


「だが、それも無駄だ」


 結界に叩き込まれるより早く俺の術式が完成する。同時に、衝撃が来る。背中から城壁に激突する寸前にシールドで背面防御。風魔法で激突の衝撃を和らげる。

 転移によりフレイムデーモンごと飛んだのだ。今度こそ理解ができないと、大きく開けたフレイムデーモンの口の中に竜杖を突き込む。ウロボロスが、笑うように唸る。


「貫け!」


 水魔法第5階級アイシクルブレイド。鋭利な氷の大剣を作り出す魔法。

 ウロボロスの先端から展開した氷の剣がフレイムデーモンの頭部を貫通する。力の抜けたフレイムデーモンの戒めから抜け出し、縦に回転しながら薙ぎ払う。氷の大剣が白銀の弧を描き、俺の背後で頭部を縦に二つに断ち切られたフレイムデーモンが、そのまま落下していった。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

誤字、脱字の報告、感想、ブクマ、評価、PV等々、執筆の上でいつも大変励みになっております。

お陰様で200話に到達することができました。この場にてお礼申し上げます。


活動報告にて101から150までの登場人物の簡易紹介記事を掲載しました。

例によってネタバレ防止の意味合いで最低限の情報ではありますが、ご活用いただければと思います。

また、以前感想で登場人物の容姿が知りたいというものがあったので、

そちらも簡易ではありますが、まずはパーティーメンバーと

王室周りの一部の登場人物からということで掲載しております。

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