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1999/2811

番外1225 北の亡国を目指して

「人の里で歓迎を受け……共に食事をして、それを穏やかに感じるのですから、我らも変われば変わるものですな」


 船に積み込んだ魔物素材や魔石を船倉等に運び込み、艦橋に戻ってきたところでオズグリーヴはそう言って目を細める。

 テスディロスやウィンベルグもその言葉に目を閉じて頷いたりしていた。オルディアはそうした雰囲気にも慣れているからか、そんな様子に微笑ましそうにしていたが。


「そう感じて貰えているなら、俺としても嬉しいかな」


 封印術を受けた状態でそういった気持ちを感じて、それを受け入れてもらえているというなら喜ばしいことだ。


 さて。では、このままベリオンドーラの南部を目指して進んでいくとしよう。

 とは言え今日は戦闘もあったし、速度を調整して明日到着するようにしていこうと思う。きちんと休息時間や睡眠時間を確保して進むというわけだな。


「エスナトゥーラさんはどうしますか? 転送魔法で何時でもフォレスタニアに戻れますが」


 俺が尋ねるとエスナトゥーラは顎に手をやって思案する様子を見せる。


「そう、ですね。戻るにしても、もう少し皆さんと一緒に過ごしてからとは思います。ルクレインとの時間も大切ですが、共に肩を並べて戦う仲間との時間も大切ですから」

『幸いお嬢様もエスナトゥーラ様の声が聞こえるからか、安心してお眠りになっていますからね』


 エスナトゥーラはそんな風に答え、フィオレットもモニター越しに教えてくれた。

 フィオレットの言葉通り、ルクレインは木魔法で作った揺り籠の中で、すやすやと眠っている様子だ。

 仲間達との時間も大切、というのは確かにそうだな。


「では、こっちで僕が休息の時間になるまでなら何時でも戻れるので言って下さい」

「分かりました。では、それまでにルクレインが目を覚ましてぐずるような事があれば、その時は向こうに戻りますね」


 エスナトゥーラはそう言って笑顔を見せた。何時でも戻れるからと言っても、ルクレインにこちらに来てもらうというわけにはいかないしな。


 カストルムも何やらからんころんと……鈴を転がすような、小気味の良い音を立てている。


「子守歌の代わりかな?」

「何だか、綺麗な音ですね」


 俺が少し笑って言うと、オルディアも微笑む。

 カストルム曰く、精霊達にも喜んで貰えた音、との事である。なるほどな。


『カストルムは演奏や歌にも興味があるのかしら』

『一緒に歌ったりするの、楽しそうだね!』


 イルムヒルトとセラフィナが言うと、カストルムも身体を傾けるようにして頷く。


「色んな音を合成できるみたいだからね。歌ったり演奏したりするのに興味があるなら、楽譜の読み方も教えようか?」


 そう伝えるとカストルムは目を明滅させ、こくこくと身体を動かして意志を伝えてくる。願ってもないといった反応だ。

 では――そうだな。ウィズの記憶している中に楽譜のデータもあるし、木魔法で即席の楽譜を形成して基本的な所を説明していこう。一先ずは五線譜の読み方で良いだろう。ヴェルドガルにおける今の主流であるし。タブラチュア譜といった別の形式の楽譜もあるけれど、そちらは追々で良いと思う。


 古代語だけでなく現代の文字も覚えれば、ペレスフォード学舎の音楽関係の教本に目を通したりもできるようになるな。そうすればその内、カストルムの作曲した音楽というものも出来てくるかも知れない。


 そんなわけで楽譜を渡して読み方を教えると、カストルムはすぐに読み方を覚えて、小気味の良い音で曲を奏でていた。リズムに合わせて目が明滅して、楽しそうにしているな。アルファとリンドブルムも揃ってリズムに合わせるように尻尾を動かして楽しそうな様子だな。


『ふふ。迷宮村の子守歌なのね』


 クラウディアがその音色に表情を綻ばせる。


「ルクレインも眠っているし、子守歌が良いかなって思ってね」


 カストルムも子守歌だと聞くと「村の子供達との交流が楽しかったので子守歌は嬉しい」と魔力文字を浮かべてそう伝えてくる。


 古代文字も翻訳してみんなにも内容を聞かせると、艦橋や通信室のみんなも頷いて微笑ましそうにしていた。


「ありがとうございます、カストルム」


 ルクレインに対しての子守歌でもあるからな。エスナトゥーラの笑顔にカストルムも頷いて。そんな調子で和やかな雰囲気のままシリウス号は進んでいくのであった。




 ベリオンドーラ南部に到着するのは朝になってからだ。誰かが眠ったり休んだりして、艦橋に誰か警戒のための担当を残すローテーションを組むのは今まで通りだな。

 まあ……ティアーズ達やアピラシアの働き蜂達が常時監視をしてくれているから、大抵の事態には対応できるけれど。


 改めて落ちついたところでエスナトゥーラの傷も診察したが……獅子に受けた傷は予後が良さそうだ。ポーションの効果もあってもう傷は塞がっているし、体内魔力の反応を見たところ魔力の流れは平常通りで、傷痕も残らなさそうである。魔人ならではの回復力の高さだな。


「直接接触であれば瘴気が減衰させた力を自身の力として取り込めるようで、回復能力は仲間内でも高い方なようなのです」

「なるほど……」


 エスナトゥーラの説明に頷く。最後の大技は接触してからの攻撃だったからな。相手の逃れる力や反撃する力を奪いつつ自分の回復力に転化できる、というわけだ。攻防一体の瘴気特性だと思う。

 瘴気を周囲に拡散させてから本体から干渉や操作可能な時間が長い、というのも周囲から奪った力を利用できるからかも知れないな。


 冷気は副次的な効果だ。本質を考えると利用方法が多くて色々できそうな瘴気特性ではあるが。

 ともあれ、エスナトゥーラの体調や傷の予後も良さそうなので、俺としても安心したというか。


 そんなわけで診察も終えて、艦橋で茶を飲みながらのんびりとさせてもらう。


 ウィンベルグは例によって先に休み、夜中からみんなが目覚めるまでの警備担当をしたい、と申し出てくれた。

 到着時刻に戦力を集中できるようにみんなに休んでもらう、というわけだな。


「幸い、眠ったり目覚めたりの調整は魔道具で補助できますからな。寝入る時も目覚める時も快調で有難い事です」


 と、ウィンベルグはそんな風に笑っていた。交代の時刻についてはティアーズや働き蜂が起こしてくれるので寝過ごす、という事もないな。

 まあ……あまり不規則な生活リズムを続けさせたくはないが……ベリオンドーラにモニュメントを設置すればフォレスタニアに帰れるからな。無理のないように生活リズムを戻してやりたいところだ。


「ベリオンドーラ、ですか。何があるのでしょうね」

「ふうむ。我らは詳しい事は分かりませんからな」


 ウィンベルグを見送った後にエスナトゥーラが言うと、オズグリーヴが目を閉じて言う。エスナトゥーラは盟主が敗れた後に眠りについたし、オズグリーヴも隠れ里に篭る事を選んだからな。この中でベリオンドーラを知っているのはテスディロスとウィンベルグという事になるが、そのテスディロスもかぶりを振る。


「すまないな。俺達も浮遊城に身を置いてはいたが、それ以外を知っているかと言われると、微妙なところだ」


 テスディロスが言った。


「氏族の会合場所であれば他の氏族に情報を与えないっていうのはあるだろうからね。ヴァルロスもその辺、納得していたからなるべく必要のないところは不干渉にしていたみたいだし」


 情報が少ないのは致し方ない。未知数な上にヴァルロスも廃都を拠点としていた。シルヴァトリア国内からもそれなりに距離があって何かあった時に救援や連係も難しい、と……危険度を高く見積もって最後に回す事になったが、さて。

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