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1998/2811

番外1224 開拓村での交流

 俺が仕留めた魔物の種類や数はウィズが記憶していてくれたので、そこから算出してラングハイン伯爵に素材を引き渡す。魔物が多かったので、質も量も、それなりのものになったのではないだろうか。


 そうやって魔物の素材を吟味して引き渡している間にも、カストルムを見に村の子供が集まってきたりしていた。即席でないゴーレムを見るのは初めてだからか、興味津々といった様子だ。

 カストルムの制御術式を見せてもらったが、もし人間の……子供を始めとした非戦闘員と接触した場合は怪我をさせないよう扱うようにと七賢者から組み込まれているようだ。対応については心配いらない、と言っていたし、実際そうなのだろう。


 俺と相対した時は――魔力や所作等から判断して非戦闘員という扱いにはならなかったらしいが、それでも警告から入ったからな。


 元が魔人達の拠点とは言え、日差しを遮る廃墟もあるし、砂に埋もれてしまったが水場もあった。七賢者としては人が迷い込んでくる事等、色々な事態を想定していたわけだ。


「すごい……かっこいい」

「ゴーレムなんて初めて見た……」

「強そう……!」


 と、子供達から憧れの眼差しを向けられて、目を瞬かせるように点滅させて音を鳴らしているカストルムである。

 機嫌は悪くなさそうだが、戸惑っているというか照れているというか。

 人との接触はこれまでなかったわけだし、こういうのも初めての感覚なのだろう。


 俺からもカストルムの気持ち等を通訳してやると、大人達も安心した様子であった。その内、お互いに慣れてきたのか、子供達もカストルムに抱き付いたりして。

 それを受けてカストルムは子供達を掌に乗せて少し浮かせてやったり、肩に登らせたり……割とサービス精神旺盛なところが見受けられるな。


 いずれにしてもエスナトゥーラ共々、良い傾向なのではないかと思う。


「エスナトゥーラは……傷は大丈夫?」

「開拓村までの移動中は術を解いていましたから。ポーションの効果もあってもう痛みなども引いていますし体調も良いようですね」


 尋ねると笑って応じるエスナトゥーラである。循環錬気で傷を受けた部分も診せてもらったが……生命反応や魔力の流れ等も、確かに問題無さそうだ。これなら恐らくではあるが、傷痕も残るまい。そう言った所見を伝えるとフィオレットも嬉しそうに頷いていた。


 それから……開拓村を根城に活動していた冒険者達もやってくる。


「実は昨日、大きな猪を狩って村に運び込んでいたんだ。キュレオ達を助けてくれたお礼をしたいし、旅の邪魔にならなければ猪肉を受け取ってはくれないか」


 と、そんな風に申し出てくれる冒険者である。


「ああ。それは有難いですね」

「であれば、私がその猪を買い上げて、マティウス殿にお渡ししたいと思うのだがどうかな? 私からもお礼をしたいし、諸君らに損をさせるわけにはいかないからね」


 その申し出に頷くとラングハイン伯爵が楽しそうに冒険者達に提案する。


「それは――良いんですかい?」

「勿論。魔物の素材に良質な魔石まで受け取ってしまって、戦いにならなかったお陰で兵達の損耗もない。私ばかりが得をしてしまっているような状況でね。マティウス殿はまだ旅の目的があるとの事だし、あまり長くは引き留められないというのもある。正式な感謝の礼はまた改めて、と考えているが」


 なるほど。そういう事なら、俺からも何か状況に合わせたお返しをしたいところだ。


「では僕もこの場所で、みんなで食べられる猪料理を作って、腹ごしらえをしてから出発したいと思うのですが、どうでしょうか? みんなが無事だったお祝いという事で」

「おお……。それは良いですな」


 では――猪肉以外の食材や調味料はこちらで用意させてもらおう。




 大鍋や竈、調理台といった設備を土魔法で形成し、村の広場で料理を進めていく。開拓村の女性陣も食材の下拵え等を手伝ってくれた。

 猪と言ってもかなり大きな猪の魔物で、俺達や冒険者、村人や騎士、森の入口で魔物の処理をしている兵士達も含めて、腹を満たすには十分な量の食材がある。

 シリウス号に積んできた食材や調味料もあるので、それらや森の魔物の食材を使って色々と進めていこう。


 作業を終えた兵士達も戻ってきて暖まれる料理が望ましい。白米や味噌等は――変装しているので今回は無しだ。


 というわけで大体の人数と腹いっぱい食えるだけの量を計算し、ポークシチューを大鍋で煮込んでたっぷりと作っていく事にした。


 肉以外の材料としては……キノコにトマト、人参、玉ねぎ、じゃがいもセロリ他、香草や香辛料の入ったシチューだな。トマトベースで色合いも綺麗なものだ。食材もたっぷりふんだんに使っているので、ボリュームもあって食べればかなり温まるだろう。


 作業中の兵士達には料理が出来上がり次第、交代で村に戻って食事をとるようにとラングハイン伯爵も通達を出していた。


『ん。美味しそう』

「帰ったら同じ料理を作ろうか?」

『ふふ。良いわね』

『楽しみにしています』


 シーラの言葉に応じると、クラウディアやグレイスも笑みを見せていた。

 猪肉はまだこれでも余るしな。では、帰ったらみんなにもポークシチューを作るという事で。


 そんなわけで料理も出来上がり、みんなで食事の時間となる。魔法も使って、肉が柔らかくなるように圧力もかけていたからな。肉は口の中に入れた途端に解けるような仕上がりだ。じゃがいもが煮崩れし過ぎないように投入の順番も考えてあるので……まあ中々良い出来栄えではないかと思う。


 トマトベースのスープは少し酸味があり、香辛料も入ってはいるがスパイシーさは控えめだ。食べている内に身体が温まるというのはあるな。肉や野菜の旨味ととろけるような食感、程よい酸味が相まって、食が進む味なのではないだろうか。


「これは――美味しいですね」

「香辛料も入っているのですな。兵士達の冷えた身体も温まるでしょう」


 エスナトゥーラが料理を口にして笑顔で頷くと、ラングハイン伯爵も明るい表情を見せる。


「――こりゃ……美味いな」

「冷えた身体に沁みる……」


 と、騎士や兵士達にも好評だ。村人達もシチューを口に運ぶと笑顔になっていた。子供達の「美味しい!」という素直な反応も微笑ましいもので、猪料理は随分と喜んで貰えたようだ。




 そうして開拓村で腹いっぱいになるだけポークシチューを食べてから、笛の演奏を聴かせて貰ったり、冒険者や村人と食後に交流もする。お土産に猪肉もたっぷりもらって、ラングハイン伯爵達に見送られて出発する事になったのであった。


「では、お気をつけて。マティウス殿の旅が無事に終わることを祈っています」

「ありがとうございます」


 ゴンドラのような乗り物を構築し、それにみんなで乗り込む。カストルムに吊るしてもらって、レビテーションも利用して運んでもらう事で、竜籠のように空を移動するというわけだ。

 後は程よいところでシリウス号に乗り込んでベリオンドーラ南方に向けて移動していけば良い。


 ラングハイン伯爵や武官達。冒険者や村人達も……大きく手を振って見送ってくれた。こちらも眼下の面々に手を振って――。そうしてゆっくりと遠ざかっていく。天気も良く、カストルムは歌うように音を鳴らしていた。実際に機嫌が良くて歌を歌っているのだろう。先程冒険者が聴かせてくれた笛の音色と同じだったから。


『ラングハイン伯爵には後で私達からも書状を送っておきます。テオドール公に協力してくれた事に感謝を伝えておきましょう』


 クェンティンがモニター越しに言う。

 では――その時には俺からの書状も一緒に渡してもらうように手筈を整えておくか。

 そうしてやがて開拓村の様子も見えなくなり、姿を隠したまま近くを飛んでいたシリウス号へと乗り込んだのであった。

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