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番外1216 深魔の森

 ヴェルドガル側から山脈を斜めに抜けていけば、そこはもうベシュメルクの国内だ。山岳地帯は雪が被るなどしていたが、標高が下がってくると南の方という事もあり、雪の融けている部分も目立っていた。


 山脈地帯の東西でヴェルドガルとベシュメルクを分けられているから……まあ山々の稜線が国境扱いでもあるな。

 山脈を越えればベシュメルク南西部に広がる深い森の一帯に至る。


 この森の中心部が魔力溜まりの中心となる。ベシュメルクでは……この森の事を深魔の森、などと呼んで昔から恐れてきたらしい。実際魔力溜まりとしても大きなもので、中心部となる噴出点がヴェルドガル側、ベシュメルク側に跨っていくつか存在する。


 魔界の形成で魔力溜まりが影響を受けたり、逆にあちら側に生きる魔物の祖になったものも森に混じっている……かも知れないな。

 上空から深魔の森を見やれば大きな生命反応もそこかしこにあって、結構な危険地帯だというのが窺える。


「オズグリーヴ殿の作った隠れ里は山脈の向こう側、だったか」

「そうですな。同族に対しても没交渉を貫いていた事やこの地の魔力溜まりが広範囲という事もあり、会合場所とは互いに情報共有をしてはいませんでしたが……。まあ、皆考える事は同じ、という事になりますか」


 テスディロスの言葉に答えるオズグリーヴである。

 オズグリーヴの隠れ里はヴェルドガル側の山々の裾野。会合場所になっているのはベシュメルク側で、山脈地帯と深魔の森の中心部の間、と言う事になる。緯度もズレていて結構距離も離れているあたり、ここの魔力溜まりの大きさが分かるというものだ。ベシュメルクが閉鎖的な国だったというのも魔人達が利用しやすかった背景にもなっているか。


 いずれにしてもヴェルドガル側は切り立った険しい山脈が聳え、ベシュメルク側からは魔力溜まりの点在する深い森の中心部を越えたその奥地という事で……会合場所は人が立ち入る事自体があまりにも難しい場所だ。


「元はと言えば、バハルザードにおける拠点の選定の仕方がそういった方向でしたからな。各地に散った氏族は拠点の選定方法を踏襲しつつ、結界術へも対抗する意味合いがあったのでしょう」


 会合場所の傾向について、オズグリーヴがそんな風に推察を述べる。


「魔物の負の感情を糧とする事もできますが……会合場所が集落にはならなかったのは、やはり結界術があるから、でしょうか」

「結界術があれば集まっていても分断する事ができるからね。その点、分散していれば一網打尽にされる事もないし、会合場所そのものを拠点にしないっていうのは有効だと思う」


 オルディアの疑問に答えると、オズグリーヴも目を閉じて頷いていた。

 魔人達は集まらずに個々人で生きる事が可能なだけのスペックも持っている。第二世代以降の魔人の傾向もあるだろうが。

 魔力溜まりが近いというのもな。仮に会合のタイミングで攻撃を仕掛けるにしても、大軍を以って攻めるというのが難しく、大がかりに人員を動かしたとしても魔人達としても察知しやすくなる、というわけだ。


 その点オズグリーヴとしては隠れ里という拠点を定めていた。外から隔絶していたし没交渉を貫いていたが、やはり結界術は隠れ里の長として懸念ではあったのだろう。


 さて……。眼下に広がる森の反応を眺めつつ進んで行けば――やがて会合場所が視界に入ってくる。

 鬱蒼とした森なので目印が必要だろうと思っていたが……会合場所から近くに沼と巨木が見えるな。そうした沼や巨木……或いは山の稜線等を目印に辿って行けば会合場所の大体の位置も分かるという寸法だ。


「空から見れば分かるようになっていますな」

「そうだね。会合場所も少し開けてる」


 だが……今回は会合場所に魔物も普通に入り込んでいるな。グロウフォニカのように島々で領域が明確に分かれているわけではないし、その辺は仕方がないか。


 高度と速度を調整しながら程よい距離で停泊させる。迷彩フィールドを展開してモニュメントを設置してくるのはこれまで通りではあるが……会合場所やその周辺も含めて、これまで以上に生命反応が多い。


 魔人がいないかを、しっかりと確認をしてから降下した方が良いだろう。


 ライフディテクションの精度を上げて、魔人らしき反応がないか、一つ一つ見ていく。魔物にしてもグリフォンや象程の大きさのあるカマキリであるとか、かなりの大物がぽつぽつと見受けられる。植物系の魔物も群生していたりするようだな。


 会合場所は魔力溜まり中心部からある程度離れていると聞いていたが、クェンティンに聞いたベシュメルク側の事情も影響している可能性はある。中堅どころの魔物を狩っていたがそれが停止した、という状況だ。ベシュメルク側の対応が変わったことでバランスが変わるというのは有り得る。……それが大規模な渡り等に繋がらなければ良いのだが。


 モニターに映る範囲の生命反応を一つ一つ確認。ウィズが記憶していき、諸々の生命反応を確認する。


「一先ず見える範囲に魔人らしき反応は、ないかな。結構な大物もいるけれど、ある程度は無視して設置しに行く必要がありそうだ」

「設置後に嗅覚等から辿られたりといった事は?」

「それは……護符で注意を向けさせないようにしているから大丈夫かな。念のために浄化してから、周辺の土も表面にまぶしておこうか」


 テスディロスの言葉に答え、魔道具の表面に浄化の魔法を念入りに用いておく。護符も多めに仕込んでおこう。


 あまり様子見をしていてもこの状況だと埒が空かない部分がある。ある程度は覚悟を決めて降下する必要があるだろう。


 というわけで臨戦態勢のまま隠蔽フィールドを纏い、甲板から降下する。テスディロスも言っていたが、空中にも臭いを残さないように風魔法で周囲を覆っている。

 地表まで降下したところで、木魔法、土魔法を使って植物に影響を与えないように一部分の土を除ける。少し離れたところでは……狩りをしてきたのか、別の魔物をむさぼっているような光景が広がっていたりするが、こちらに気付いた様子はない。


 言葉に出さずに頷くと、同行している面々も俺を見て頷き返す。

 偽装魔道具表面の質感を変えつつ、表面に土を塗りたくり、草の生えている表層を被せるようにして偽装を行う。

 元々そこにあった表層を薄く削ってそのまま被せたような形だ。護符も仕込んでいるし、嗅覚でも発見するのは難しくなるだろう。


 元通りに見えるように必要なものやハイダーを埋めて、フィールドを維持したままシリウス号に戻る。


 甲板まで戻ってきたところでフィールドを解除すると、みんなも少し安堵したように息をついた。


「フィールドで覆われているとは分かっていましたが、どうしても呼吸も小さく最低限にしてしまいたくなります」

「気持ちは分かるよ」


 苦笑するオルディアにそんな風に笑って応じる。


「この後は……様子見をしてからベリオンドーラか」


 と、テスディロスが言った。


「……いや。少しベシュメルク側に足を延ばしておこうか。深魔の森に隣接する領地や開拓地付近の様子を調べておくぐらいしても良いと思う」


 大物が多かったというのもあるが、それぐらいしておいても時間的ロスは然程ない。そもそも期限に追われている、という状況でもないしな。


「ふむ。魔力溜まりの状況を把握しておく事は、会合場所の抱える危険性を把握する事にも繋がりますかな」


 というオズグリーヴの言葉に、みんなも納得したような表情になっていた。では……このまま暫く様子見をして、何事もなければ深魔の森の中心部とその向こう――ベシュメルク側の拠点を確認だな。それが済んだらベリオンドーラ南部へと向かうとしよう。


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