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1987/2811

番外1213 砂漠から雪の森へと

 シリウス号はバハルザードの砂漠地帯からヴェルドガルへと。ヴェルドガル国内を縦断して、エインフェウス王国南西部へと直線で向かう航路を取る。

 到着は明け方なので食事を済ませたら早めに入浴し、そのまま眠りにつく事にさせてもらった。


「我らも交代で仮眠を取る事にしましょう」

「分かった。封印術がかかっている間は無理をしないようにね」


 オズグリーヴと言葉を交わす。そういう場合の時間稼ぎなら任せてほしいとアピラシアが申し出てくれているのでその辺は安心ではあるな。


 操船はアルファとカドケウスが交代で対応しつつバロールがフィールドを維持。周囲の監視はティアーズやアピラシアの働き蜂達が継続する。


 カストルムも早速ではあるが外部モニターの監視を担当してくれるとの事で、請け負う場所をティアーズや働き蜂達と分担して決めていた。


 まあ……迷彩フィールドも展開しているし、道中は問題なさそうだ。

 というわけで船室に移動させてもらう。グレイス達も俺に合わせるために今日は早めに眠るとの事で。


『普段とは少し違いますが、これはこれで何だか楽しいですね』

『ん。確かに』


 グレイスの言葉にシーラもこくんと頷く。マルレーンもにこにことした笑みを見せていた。


「中々の名案だったね」

『思い付きでしたが、そう言って頂けると嬉しいですね』


 船室の天井あたりに水晶板を設置して、寝台で横になりながらもみんなの顔を見る事ができる、というわけだ。俺が笑うと、みんなも頷き、アイデアを出したアシュレイもにっこりと笑う。


『とりあえず、今日の往診でも異常はなかったわ』

『各々、自覚している体調も問題ないわね』


 ステファニアとローズマリーもそんな風に教えてくれる。みんなの体調は良好、往診の結果も異常無しとの事である。


「それは……俺としても安心かな」

『ふふ。作戦にも集中できるかしら』


 イルムヒルトの言葉に笑って頷く。

 あまり長話をしていては早く寝床に入った意味がないからという事で、頃合いを見て寝室の明かりを消す。暗視の魔法で見ていては意味がないから、中継映像は見えないが――お互いの声はきちんと聞こえるな。


『それでは……おやすみなさい、テオドール様』

『おやすみなさい、テオドール』


 と、エレナとクラウディアの声が聞こえる。


「うん。おやすみ」


 と、眠りに落ちる前の挨拶を返せば、みんなの『おやすみ』という声も返ってきて。そうして穏やかな気持ちで目を閉じるのであった。




 翌朝の目覚めは――すっきりとしたものであった。まだ早い時間から目を覚ました形ではあるが、睡眠時間はきっちりと確保できている。

 懐中時計の時刻に合わせてネメアとカペラに起こしてもらったわけだ。獅子の肉球や山羊の顎で起こされるというのも、中々レアな目覚め方な気もするが。


「……ん。おはよう」


 まだ眠っているみんなを起こさないように、小声でネメアとカペラに起きた事を伝える。

 朝早いのでみんなは一緒に起きなくても大丈夫と伝えてあったから、まだ寝入っている様子だ。その分みんなの穏やかな寝顔を堪能する事ができたので、朝から眼福であると言えよう。


 そうして寝台から抜け出し、身支度を整えてから艦橋へと向かう。


「おお。おはようございます」

「ああ。おはよう」


 今の時間はウィンベルグが担当してくれていたようだ。解呪済みだから、その分俺が眠っている時間をウィンベルグが起きて、他の面々にはきちんと休息を取ってもらう、という方針で動いているわけだな。


 魔法生物組もマニピュレーターをこっちに向かって振ったり、リンドブルムが喉を鳴らしたりと、朝の挨拶をしてきてくれて、俺もそれに応じる。

 カストルムもみんなに倣って音を鳴らして朝の挨拶をしてくれているようだ。音の数が挨拶と同じ数だったりして、学習して合わせようとしてくれているのが分かるな。


「ん。カストルムもおはよう」


 そう言うと身体を傾ける様にしてこくんと頷くカストルムである。俺が目を覚まして程無くしてからテスディロス達も目を覚ましてきて、代わりに今度はウィンベルグが眠りにつくという事になった。


「それでは……後の事はお任せします」

「うん。ゆっくり休んでね」


 ウィンベルグを見送る。まあ……モニュメント設置に際して問題が出ればウィンベルグの事だから起き出してきてしまうような気もするが……。そうならないように慎重にいきたいところだな。


 そんなわけで操船席に着いて……食事の用意を進めつつ、現在位置等、現状の確認をしていく。


 設定された速度と航路通りの座標を計器は示しているな。概ね予定通りの進行状況だ。食事を済ませて少しすれば現地付近に到着し、地表の高さでも夜が明ける頃合いになるだろう。


 俺達は高空を移動しているので、その分日の出を見る時間が少し早くなるか。




 簡易ではあるが朝食を手早く済ませる。パン、スープに目玉焼き、ベーコンにサラダといった内容だな。

 食器はアピラシアの働き蜂達が片付けてくれた。お茶を飲みながら現地への到着を待っているとグレイス達も起き出てきたようで、通信室に中継している水晶板越しに顔を見せ挨拶をしてきてくれた。


『おはようございます』

「うん。おはよう」


 と、挨拶をし合う。艦橋の面々と通信室の面々も朝の挨拶を交わし合い……それからグレイス達も朝食をとる事にしたようだ。


 そうして朝の和やかな時間を過ごしている内にもシリウス号は進んでいき、やがてエインフェウスの会合場所を望める位置までやってくる。

 眼下には――白い雪を被った針葉樹林帯が広がっているな。がらっと景色も変わり、カルディアやルベレンシア、カストルムも興味津々といった様子だ。

 ヴェルドガル側の山岳地帯とエインフェウス側の魔力溜まりに囲まれているので本来ならエインフェウスの住民がいないエリアだ。


「生命反応はちらほら見えるけれど……これは反応からして、野生動物や魔物のものかな」

「一先ずモニターからの生命反応を見る限りでは問題無さそうに見えますね」


 俺の言葉にオルディアも頷く。


「……よし。それじゃ動いていこうか」


 俺がそう言うとオズグリーヴ達も頷いて立ち上がる。

 時間帯としても良い頃合いだ。隠蔽フィールドを纏って降下し、モニュメントを設置してくるとしよう。


 というわけで必要な品々を準備して甲板に向かい、同行する面々と共に甲板から飛び立つ。


 隠蔽フィールドを維持したまま眼下に広がる森の一角へと、緩やかに降下していく。


 森の中に……少しだけ開けた場所があるな。一面が雪を被っているので分かりにくいが、岩が配置されていて、それが会合場所の目印にもなっているようだ。


 飛行術を持つ魔人達は行動半径が大きい。会合場所で長時間過ごすというわけでもないので滞在するための設備があるというわけでもないようだ。


 魔人がここ最近訪れたような痕跡は――特には残っていないな。根雪の上に新雪が被った状態だが、足跡等もなく綺麗なものだ。会合の時期が違うというのもあるから予想していたものではあるが。


 周囲に警戒しつつ地表付近まで降下してきたが……生命反応、魔力反応共に気になるものはない。


「とりあえず問題はなさそうだ。雪を動かして、岩の質感に合わせて魔道具を敷設していくから、周囲の警戒をしていてもらえるかな」


 そう伝えるとみんなも頷く。魔力を打ち込み、雪とその下の構造を探っていく。まだ柔らかい新雪の層と固まった根雪の層があり、その下に岩と地面の反応を感じ取る事ができた。そのまま雪の層を円筒形のゴーレムと化して引き抜くように動かす。


 魔道具の色、質感を岩に合わせ、地面に埋め込めば一先ず完了だ。儀式の折はモニュメントが地上部分に展開するが、今の状態だと殆ど目立たないな。

 引き抜いたゴーレムをそのまま戻して、周囲に馴染ませる。


「よし――。これでいい」


 周囲の反応を継続して見ながら上昇し、シリウス号へと戻る。


「今度は……あっさり行きましたな」


 みんなで甲板に戻ってきたところでオズグリーヴが少し安堵したように言った。


「会合の時期ともずれているからね。この調子で進めたいところだけれど」


 時期が違う事も含めて、エインフェウスの会合場所は比較的安全度も高いと予想していたからこんなものだろうと言えばそうなのだが。それだけにカストルムとの出会いは予想外ではあったが。

 さて……。もう少し様子を見て、何事もなければ次の会合場所へと移動していこう。

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