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番外1212 古代の魔法生物を乗せて

 カストルムは手足を完全に収納し、目の部分だけ覗かせたカプセル型でも浮遊しながら移動はできるようだ。流石に運動能力は下がるらしいが、日常はそれで問題がないとの事である。

 身体を少しコンパクトにできるという事もあり、艦橋の出入りも問題はない。台座を作ってやるといそいそとそこに身体を収め、嬉しそうに音を鳴らしていた。


『収納したカストルムさんは、私の呪法兵にも少し似ていて、親近感がわきます』


 と、エレナが微笑んで卵型呪法兵を膝の上に抱え、水晶板越しに挨拶させてみせる。

 カストルムは目を明滅させて、嬉しそうな音で挨拶を返していた。小気味よい音の時は機嫌が良いし、警告音等ならそれなりに緊張感のある音を合成するので分かりやすいな。


 翻訳の魔道具もあるので一先ず会話での意志疎通には困らないが……制御術式の調整を行う際に現代の文字、言語等の習得も進めていくか。カストルム自身の音も暗号化されているので、内容を知っていれば周囲に悟られずに意志疎通できそうではあるが。


 一先ずは……次の目的地に向けて移動していくとしよう。


「残るはエインフェウス南西部、グロウフォニカ北東部、ベシュメルクの南西部、ベリオンドーラ南部だね」

「想定している危険度の順番通りですね」

「ああ。予定通り、比較的安全そうなエインフェウスから向かう」


 オルディアの言葉に答える。次に向かう先がエインフェウスという事でオルディアとしても気合を入れ直しているようだ。


 エインフェウス南西部というのは……ヴェルドガルから見るとエリオット――オルトランド伯爵領から東に向かった場所に位置するという事になる。


 ヴェルドガル、シルヴァトリア、エインフェウスの三国の情勢を窺える位置でもあるから魔人達にとっても利便性の高い土地だったのではないだろうか。

 ただ、この位置を会合場所にしていた氏族はヴァルロスに合流してベリオンドーラに移動していたので、イシュトルムの裏切りで壊滅的な被害を受けているようだ。


 俺達としては氏族の生き残りがいるかも知れないと想定してモニュメントを設置しに行く、という事になるな。


 バハルザード国内からは若干距離があるので速度を調整しつつ移動していきたい。明け方ぐらいに到着するようにすれば、会合場所に監視の目があったとしても気が緩みやすい時間帯になるのではないだろうか。戦いなら朝駆けであるが。


 同時に移動しながら夕食の準備も進める、と。アピラシアも働き蜂で手伝ってくれるとの事なので、早速準備をしていこう。


 その辺の事をみんなに伝えつつ、カストルムにも今後の話をする。


「夕食が済んだら、カストルムの制御術式も見せてもらおうかな。きちんと解析した上で調整したいからね」


 俺の言葉にカストルムも納得してくれたようだ。では、諸々進めていくとしよう。




 艦橋ではカストルムを歓迎する、少し賑やかな雰囲気の中で夕食をとる。今日のメニューは――パンにビーフシチュー、サラダにヨーグルトといったものだが、温かなビーフシチューは中々みんなに好評だ。


 カストルム自身は通常の食事を必要としていないようだが、魔力補給は魔法生物であった頃の名残で意味があるらしいので、夕食後の解析の折にそちらも平行して進めるとしよう。


 魔法生物であった頃は襲ってくる魔物を討伐して、そこから魔石を抽出して補給したりと、そういったアルゴリズムを組んであったようだな。


 音でコミュニケーションを取るからか、音楽に対する感受性が高そうに見える。モニター越しにイルムヒルトがリュートを奏でたりセラフィナ、リヴェイラが歌声を響かせると、目を明滅させてリズムを取るようにして反応を示していた。


 モニター越しにコルリスやティール達にも挨拶されたりして、同じように片手を分離して軽く振ったりして、コミュニケーションの手段も色々と学習しているようだ。


 そうして、遺跡の外の世界は初めて見るものばかりで楽しい、というような事を伝えてくるカストルムである。


『それは――私達としても封印術や解呪を通して共感できる部分もある、かも知れませんね。第二世代以降の魔人達は特に、でしょうか』


 エスナトゥーラが言うと、カストルムは目を少し明滅させてからこくこくと頷いていた。そんな反応にマルレーンもにっこり笑い、みんなも表情を綻ばせる。


 カストルムも対魔人として造られた経緯があるからどうなるものかと思っていたが……魔人達とも良好な関係を築いていけそうで何よりである。




シリウス号は入力した座標に向かい、目的地を目指して進んでいく。迷彩フィールドは維持してあるので、操船時の細かな対応はアルファに任せて、俺はカストルムの解析を行っていく事にした。


 まずはカストルムに魔力補給だ。差し出してくる大きな手を取ってそこから魔力を送っていく。


 魔力が良質で心地が良いと、カストルムは伝えてくる。同行している魔法生物組にも同様に魔力補給をしていくと嬉しそうに音を鳴らし、尚の事楽しそうにしていた。


 さて。ではカストルムの制御術式の解析をしていこう。カルディアも魔法生物としては形式というか種類が違うが、同系統の技術比較対象がいれば調整も進みやすいだろうと協力を申し出てくれた。


 カルディアの場合は通常の生物に近い性質を備えている部分があるからな。ダメージを受けても身体を小さく再構築して逃げる事ができる他、力を蓄えながら脱皮を繰り返す事で元通りに再生を図る事ができる。


 合成獣と魔法生物の特性を兼ね備えたハイブリッド型、と言えば良いのか。自意識の強い魔法生物だが、制御術式も組み込まれていてカストルムと同じく七賢者の手によるものだからその辺の術式の組み方等が参考になるかも知れない、というわけだな。


 そんなわけでカストルムと向き合うように腰を落ち着け、まずは解析だけをしていく事を伝える。契約魔法でその言葉に嘘がない事を確認したのか、カストルムも頷いてマジックサークルを展開する。


 そこに手を翳すとカストルムを構成する術式の記述が表示される。偽装されていないマジックサークルの形式で表示されているので、後はそれをウィズに記憶してもらい、分析していけばいい。


 カストルムは付喪神化しているから俺に制御術式を見せてくれているが、本来は製作者である七賢者の誰かでないとこうして中身を晒すという事はできないようになっているそうだ。

 元々調整しやすいようにメンテナンス用の術式を組み込んでいたようで。ここから直接制御術式を組み替えたり追記したりする事もできるようだな。


「んー。そうだな。後で俺と交わしたように、調整相手が嘘を言うと分かるような契約魔法を、カストルムの手持ちの術に加えておこうか。必要になった時にカストルムの判断で調整を任せられる相手を決められるようにしておいた方が良いだろうからね」


 俺は既にカストルムとそうした契約魔法を交わしているから一先ずの調整役として問題はないが。

 そう提案するとカストルムは首を傾げて心配そうな目を向けてきた。


「念のためだよ。付喪神として独立した以上は、他者任せにしなきゃいけない部分は少ない方がいいだろうってことでね」


 と、付け加えるとカストルムも納得してくれたようだ。いずれにしてもカストルムの調整は全容を把握した上で計画的に進めたいから、今日は記録するだけではあるが。


 そうしてカストルムの制御術式をウィズに記録してもらいながら、シリウス号はエインフェウスを目指して飛んでいくのであった。

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