番外1203 各国の会合場所は
エルハーム姫の剣の修復に伴い、祭具、触媒が揃った。
会合場所へのモニュメント設置に動いていく事になるが……これについても――既にきっちりと必要な数だけ仕上がっている。
自然石に見せかけているが、必要になった時に展開して内部から碑が出てくる、というわけだ。
「偽装部分も問題無さそうかな?」
「そうだね。これなら大丈夫だと思う」
一つ一つ確認していくが、どれも大丈夫そうだ。
自然石に見せかけて中に何かを収納する、というのは魔界に行った時にも使用した技術で、それを流用した形ではあるが、まあアルバートがしっかりと魔道具化してくれているからな。シーカー、ハイダーの同化技術や各種隠蔽技術と併せることで、かなり隠密性を高くできるだろう。
偽装部分の表面の質感などは現地に行った時にそれぞれの場所の環境に合わせてやればいい。同時にハイダーを配置して各地の会合場所の中継映像も見られるようにしておく、と、こんなところか。
作業も一段落したので工房の一室に集まり、地図を広げて状況を確認しつつ作戦会議を行う。
「というわけで目印のついている場所……。会合場所は幾つかに分かれて複数の国に跨っているけれど、シリウス号で現地に向かう許可はそれぞれの国から貰えている」
「エインフェウス南西部、ベリオンドーラの南部、グロウフォニカ北東部の島。ベシュメルクの南西……それにバハルザード国内、ね」
目印のついている場所を一つ一つ確認していくステファニア。
氏族の統合に伴い放棄された会合場所も混ざっているが……まあ縁のある地にモニュメントを設置して儀式の力が届きやすくするというものであるので、それらの場所への設置も無駄にはなるまい。
盟主の広げた版図に沿っていたり……盟主が敗れた後に落ち延びた場所であったり。ベリオンドーラを攻め落とした際に合わせて拠点を移したりというものもあるか。
会合場所の選定にはそれぞれの氏族に応じた事情があるようだが、総じて魔力溜まりが近い辺境とされる場所であったり、国境付近から少し外れたところにあって警戒の目が逆に行き届きにくい場所を選んでいるようだ。
国力の高いヴェルドガルや……それにシルヴァトリアも。魔法技術を警戒して避けながらも手の届く位置取りをしているように見える。或いはそれらの国々から落ち延びた場所を根城としたか。
色んな思惑や事情があるようにも推測できるが……。
「地理的に近い場所から、よりは安全な場所からという方が良さそうね」
ローズマリーが真剣な表情で思案しながら言う。
「確かに。安全そうな場所から回っていった方が楽そうだね」
バハルザード国内の会合場所は古い分、放棄されている場所も多い。バハルザード国内と言っても砂漠に跨って広がっていたりするが……人里から離れているというのはどの会合場所でも同じか。
「ベシュメルクに関しては――魔力溜まりが少し近いですね」
「南西の山岳地帯か。あれも人の寄り付かない辺境よな」
エレナが言うとパルテニアラが頷く。
大公領のあるヴェルドガル南部とベシュメルクを隔てる山岳地帯だな。ここは魔力溜まりがあって、人は滅多な事では踏み入らない場所だ。
「魔人達にとっては……逆に会合場所として良い環境なのかもね」
「我らにとってはそうでしたな。隠れ里もそれなりに長い時間居住する事ができましたから、魔力溜まりはそこまで問題になりますまい」
俺の言葉にオズグリーヴが同意する。そうだな。ともあれ、ヴァルロスに合流していた魔人達はイシュトルムの裏切りによって壊滅的な被害を受けた氏族も多い。
アルヴェリンデの氏族は戦闘能力に優れない者を後方に残しているらしいが、それでも第二世代以降の魔人達である。
いきなり話をしに行って簡単に受け入れてもらえるとも思えないし、和解と共存をめざすならば不測の事態を避ける意味でも戦いそのものが起こらないようにしたい。儀式によるワンクッションを挟んでから改めて話をしたいと思う。
魔人達から得た情報を元に危険度を判断し、それが高い場所程後回しにする、と。まあ、そういう方向で動いていけば良いだろう。
というわけで、関係各国にもその事を連絡しておく。
『まずはバハルザード各地に残った会合場所から、か』
少ししてから返信もあり、ファリード王が中継映像に顔を出して言った。
「過去に放棄されていると思われる場所が多いですからね。僕達が行おうとしている儀式魔法は氏族と縁のある場所から効果を届けようというものなので、放棄された会合場所であっても意味はある、と見込んでいます」
『氏族としての形を成さなくなった流浪の魔人にも儀式の効果を届けよう、というわけだな』
「はい。そうした目的と狙いがあってのものです」
ファリード王の言葉に答える。
『国内での移動や行動が簡単になるように、俺から直接の書状を認めておこう。何かあればそれを見せて動けばいい』
「それは――助かります」
魔人達に見つからないように隠密行動が基本となるので、そういったファリード王からの申し出は有難い。
各国の王達も連絡を受けて話し合いに参加してきて、それに倣うように書状を認めてくれると、そんな風に請け負ってくれた。
「では――書状が届き次第動いていきたいと思います」
『承知した。早速これから取りかかろう』
『同じく。夕方頃までには届けられると思う』
と、イグナード王やデメトリオ王も頷く。
『ベシュメルクの場合は人里から離れているようですが……そうですね。念のために複数人の連名で書状に署名をしておきましょう』
クェンティンも賛同してくれた。
それから……かつてのベリオンドーラ南部は――まあ今は特定の国の支配域ではないな。強いて言うならシルヴァトリアが影響力の強い場所ではあるが、魔人に滅ぼされたという事で人々が恐れて忌避してしまった。
元々気候の厳しい土地であった為に移住には魔法技術の恩恵を必要としていたから、再度の移住等がなされる事もなかった、というわけだ。
「ベリオンドーラは無人ではありますが……問題がなければ、私から父上の名代として書状を認めておきます」
『うむ。ではそれらに関してはそなたに任せよう』
工房に顔を出していたアドリアーナ姫の言葉に、エベルバート王も頷いたのであった。
それぞれ執務等々はあるものの、書状を認めて届けるぐらいは手間ではないとの事だ。そんなわけで暫く工房にて過ごしてから、転移港に向かって書状を受け取ってくる、という事になった。
時間を合わせてこちらに訪問してくるとの事で。転移港で暫く待っていると転移門が光を放ち、イグナード王本人が姿を見せた。
「これはイグナード陛下」
「ふっふ。まあ、こちらに関しては今日の仕事は一通り終わっていたのでな」
顔を合わせて一礼すると、イグナード王は楽しそうに笑う。
続いてグロウフォニカとベシュメルクの転移門がそれぞれ光を放ち、グロウフォニカからバルフォア侯爵、ベシュメルクからはガブリエラとスティーヴン達が姿を見せる。
「お元気そうで何よりです」
バルフォア侯爵とガブリエラ達も挨拶をすると笑みを返してくる。
「ローズマリーに挨拶をと思ったのでね」
と、バルフォア侯爵が応じるとガブリエラもこくんと頷く。
「私も同じく。エレナ様やパルテニアラ様のお顔が見たくなりました」
そんな二人の反応にイグナード王やスティーヴンも頷いていたから、オルディアやレギーナ、カルセドネ、シトリアと顔を合わせたかったというのはあるのだろう。
「では――お時間があるのでしたら一緒にお茶でも如何でしょうか」
そう提案すると転移港に姿を見せた面々は嬉しそうに頷くのであった。