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番外1202 古き剣は

「いや、実に面白かったです……! 王として学べる部分が多い事もさることながら、物語や演出としても楽しく、かなり感情移入してしまいました……!」


 アンゼルフ王の三部作を鑑賞したギデオン王は少しテンションが高めになっていた。思慮深く落ち着いている印象のギデオン王だが、幻影劇の感想を聞かせてくれるその姿は少年らしく目を輝かせるもので、時々年相応の表情を覗かせる事があるようだ。


「楽しんで頂けて何よりです。幻影劇を作るにあたっては、資料を元に拘った部分も多いのでそう仰っていただけると嬉しいものです」

「はいっ」


 明るい笑顔で頷くギデオン王である。内政に関しては堅実な方針で動いているという話だしな。火精温泉でウェズリーとも少し話をしたが、ギデオン王は家臣達の言う事を鵜呑みにするのではなく、疑問があれば質問してきたり、意見を交換する事もあるそうで。

 先々が楽しみだとそんな風にウェズリーは語っていた。家臣達が支える理由も分かるというものである。


「幻術で演劇というのは驚きでした。楽しかったというのも有りましたが……人々の暮らしや冒険者達の事についても分かって、勉強になりましたね」

「王様が格好良かったです……!」


 エスナトゥーラがそう言って、ドナも嬉しそうに言う。氏族の面々にも笑顔が見られる。幻影劇はエスナトゥーラ達やレプラコーン族にも楽しんで貰えたようで。

 エスナトゥーラ氏族の面々は人々の暮らしにも理解があるからな。時間的な断絶があるがそこを埋める一助や、肩の力を抜く事等に繋がったのであれば何よりだ。


 レプラコーン族としては、アンゼルフ王への好感度が大分上がった印象だな。イスタニア王国の人々共々……今後とも良い関係を続けていけたら俺としても嬉しいところだ。




 そうして、イスタニアの面々はレプラコーン族と共に数日間フォレスタニアに滞在する事となったのであった。他の幻影劇や境界劇場の公演も楽しんだり、少し迷宮に足を運んでみたり……湖底の施設や画廊等々、かなり満喫して貰えたようで。


 迷宮に関してはエスナトゥーラやフィオレットも基本的な事は知っておきたいという事で、ギデオン王、アランを冒険者ギルドに案内し、ベリーネとヘザーを交えて講習を受けたりもした。転界石による物資の転送であるとか、警戒すべきポイントであるとかそういった知識面での話だ。


 ギデオン王は流石に迷宮に潜るという事はしないものの講習には参加した。

 アランは約束したようにエリオット、エギール達と共に迷宮に潜っていたが。浅い階層で迷宮を体験するという事だが、アランも含めて魔法騎士達の集まりであるため、心配の必要がないぐらいの戦力ではある。念のためというよりは状況を見たいので改造ティアーズとバロールも同行させることにしたが……まあ、中継以外の出番はなく、危なげなく迷宮探索をしていたのは流石と言えよう。


 エスナトゥーラ達はまだ迷宮には潜らず、新しい生活や封印術、解呪による変化に慣れる訓練から始めるとの事である。テスディロス達も協力しているので、そちらも交流が進んでいってくれれば氏族の面々も馴染みやすくなるから喜ばしい事である。


 やがて……イスタニア王国とレプラコーン族の面々が帰る日がやってくる。

 そんなわけでメルヴィン王、ジョサイア王子と共にギデオン王達を見送りに、転移港へと向かったのであった。

 出来上がったワーム対策の魔道具も必要な数が揃い、引き渡しが完了している。早速西の離島や海に面した街等に配備していく、との事である。

 中継もできるようにしてあるので、何かあれば俺達もすぐに動けるであろう。


「テオドール公には滞在中、大変お世話になりました。残りの作戦が上手く行く事を祈っています」

「ありがとうございます、ギデオン陛下。何かありましたら何時でもご連絡ください」


 ギデオン王は笑顔で片手を差し出してきて。俺も笑ってその手を取り、そのまま互いに両手で握手をする。

 メルヴィン王達とも挨拶を交わし、その傍らでエリオットとアラン、ウェズリー。セラフィナ、リヴェイラとドナといった顔触れも別れを惜しむ。


 まあ、転移門があるのでまた訪問や遊びにといった機会もあるだろう。

 そうしてギデオン王達はイスタニア王国へと、光に包まれて帰って行ったのであった。


「イスタニア王国とも、今後も良い関係が続けられそうで何よりね」

「ん、そうだね。後は、ワーム関係で問題が起こらなければ最高なんだけど」


 クラウディアの言葉に応じると、みんなもその言葉に頷いていた。




 エリオットとカミラもここ数日アランやエギールといった面々と交流し、休暇を満喫したとの事だ。そうしてギデオン王が帰って行った少し後でオルトランド伯爵領へと帰って行った。

 循環錬気や往診等があるのでエリオットとカミラとは遠からずまた会う事にはなるけれど。カミラの体調も最近では落ち着いていて、こちらも母子共に健康だ。


 シルヴァトリアやグランティオスの面々もイスタニア王国の面々が帰ってから国元に戻っていった。それぞれ転移港で見送りを行ったが、また折を見て集まったり遊びに行ったりしようという事で話をしている。


 同盟各国の賓客が帰ると日常が戻ってくるわけであるが……魔人に関する作戦は継続中だ。ネシュフェルの隠れ家、ワーム対策といったその後の状況を見ながら続いての作戦――各地の会合場所へのモニュメント設置に向けて動いていく事になる。


 そんな折、エルハーム姫からも連絡が入って、俺達は工房へと向かったのであった。


「いやあ、お待たせしました。出来上がりましたので早速見て頂きたくて」


 と、俺達が到着すると、エルハーム姫が笑顔で迎えてくれた。

 ハルバロニスの隠し鍛練場から見つかった、ベリスティオの剣の修復が終わったという、エルハーム姫からの連絡があったのだ。


「いえ。流石と言いますか、仕事が早くて助かります」

「そう言って頂けると嬉しく思います」


 俺の返答にエルハーム姫が一礼する。というわけで早速修復された剣を見せてもらう事になった。


 工房の一室に向かうと、そこには修復された剣が置かれていて……間に合わせという事で簡易の鞘に刀身が収められていて、宝物を扱うように柔らかい布に敷かれた机の上に置かれていた。


「拵えだけでも立派な剣なのが分かるね」

「ハルバロニスの名士と言うか……求心力のある武官だったようだからね」


 アルバートの言葉にそう答えつつ、鞘から抜いて剣を見ても良いか尋ねてみるとエルハーム姫は「勿論です」と答えてくれる。


 鞘から刀身をゆっくりと抜き放てば――朽ちていた刀身が見事に蘇っていた。この辺はエルハーム姫の技量だろう。研ぎ澄まされた鋭い刃はかなり切れ味も良さそうだ。

 銀色の輝きを放つ刀身は魔力を秘めていて、鍔元の意匠がそれらを増幅する。

 魔法の発動体としても機能するが剣としてもしっかりとしていて、軽く魔力を流して見てみれば、かなりの業物である事が窺えた。


「どうでしょうか?」

「素晴らしい仕上がりだと思います」

「綺麗な剣ね」


 俺やローズマリーの言葉にみんなも同意して。そうした反応にエルハーム姫は安堵したような表情になる。


「ああ。良かったです」

「実用性の高い品ですが、見た目も綺麗なので儀式用の祭剣、宝剣としても問題ないかなと」

「鞘は間に合わせですが……これから剣の意匠に合うようにしっかりとしたものを仕上げたいと思っています」


 と、エルハーム姫と言葉を交わす。そうだな。鞘については現場に残っていなかったのである程度想像や儀式に合わせた寓意を込めたデザインにするしかない。この辺についてはハルバロニスに保管されていた古い時代の剣を見せてもらったから、それも参考資料にはなるだろう。


 ともあれ、剣も仕上がってきた。後は……儀式に向けて魔人達の会合場所を巡り、モニュメントを設置していかなければなるまい。

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