番外1200 小人達と温泉と
石碑を起動した際の光に包まれ……それが収まるとフォレスタニアに到着していた。空気と明るさが少し変わり、初めて来訪した面々が目を開くと同時に歓声を漏らす。
レプラコーン族はやや背が小さくて景色が見にくいという事で、ティールが自分の背中に乗ってもいいと声を上げると、コルリスとアンバーも頷いて腹ばいになる。各々がレプラコーン族を背中に乗せて更にレプラコーン族の子供達を親が肩車する。と……遅れて歓声が巻き起こったりしていた。
「迷宮内部の都市と聞いて想像する光景とは大分違うものであるからな」
「そうですね。私達も最初に訪れた時は驚いたものです」
そうした反応にエベルバート王が言うと、ジョサイア王子が笑みを見せる。その言葉にジョサイア王子の婚約者であるフラヴィアも頷いていた。
「水晶板越しに見せていただいたフォレスタニアは室内でしたから、都市と聞いても想像できないところがありましたが……いきなりの解放感と綺麗な景色で驚きです」
「湖が鏡みたい……。綺麗だなぁ」
ギデオン王とドナが嬉しそうに言う。レプラコーン族もうんうんと頷いた。
「空や遠くの景色は内側の壁面に映し出しているものではありますが」
「幻術のようなものですか」
「系統としてはそうなりますね」
アランの質問に答えつつ、頃合いを見ながらみんなで浮石エレベーターに乗る。
これについても結構驚かれる対象ではあるな。
レプラコーンの子供達のテンションは上がっているが、コルリス、アンバー、ティールといった面々が背中に乗せてくれているしな。
浮石は危険な乗り方を感知すると術式に組み込まれた安全策が作動するので動かないと伝えると、子供達はコルリス達と共に浮石の真ん中あたりに陣取って、期待を込めた眼差しを俺に向けてくる。うむ。
「では、行きましょうか」
そう言って浮石エレベーターを起動させる。浮石が動き出すと歓声が上がっていたが、飛びだしたりするような事もなく普通に下まで移動する事ができた。まあレプラコーン族の子供達は楽しそうにしていて何よりだ。
シリウス号の艦橋でそうしたように、後でメダルゴーレムによる即席の乗り物を作ってそれを使ってもらうというのも悪くないだろう。馬車で移動している時は良いとして、ずっとコルリス達がおぶっているというのも大変だろうしな。
というわけで浮石が下に到着したところで、改めて馬車に乗り込み、フォレスタニアを見ていく。
劇場や運動公園等もフォレスタニアの観光スポットではあるが、今回は慰霊神殿に関して興味を示す面々が多かった。解呪の儀式の直後でもあるしな。一連のエスナトゥーラ氏族に絡んだ一件はイスタニアも協力しているので、思い入れもあるのだろう。
そんなわけで慰霊神殿に立ち寄り、みんなで黙祷を捧げていく。
「このように祝いの宴まで設けていただきました。私達はこれから先、子供達の未来を守るために力を尽くしていきたいと思います」
エスナトゥーラは真剣な表情で祈りを捧げ、墓前に報告するように言葉に出していた。きっとウォルドムにその想いは届くし、冥府のレイス達にとっての力にもなるだろう。
俺達やギデオン王、レプラコーン族も真剣な表情で祈りを捧げ、それから改めて城へと移動していく。レプラコーン族の子供達の種族的な特性もあるが、馬車に乗っての移動なので動く歩道については軽い説明に留めつつ、後から運動公園で楽しんでもらうとしよう。
そうして。イスタニアの面々をフォレスタニア城に案内し、客室へと案内した。荷物等々を部屋に預け、少しサロンでのんびりしてからまた街に繰り出すというわけだ。
レプラコーン族の子供達はと言えば、カーバンクルやマギアペンギンの雛達と仲良くなって中庭で遊ぶ事にしたようで。アピラシアが1人ずつ担当の働き蜂をつけて安全や迷子に配慮してくれているので諸々安心ではあるかな。
俺も後で移動するのに備えて、メダルゴーレムを複数枚用意して、乗り物を構築した。前と同じでは飽きてしまうかも知れないので、風魔法やレビテーションをメダルに組み込んで、即席ではあるが、ホバークラフトのように機能するゴーレムを構築しておく。まあ、低速だし風よりもレビテーションが主なのでホバークラフト風ではあるが、いざとなればゴーレムが姿勢を保持したりもできるし安全性は高いだろう。
「ん。楽しそう」
「確かに。後でしっかりした魔道具として造るのも良いかもね」
風と共に浮かび上がるゴーレムを見てシーラが言うと、アルバートもそんな風に言って笑みを見せていた。
観光する場所も色々あるが……城で少し身体を休めてから運動公園に向かうという事になった。運動公園で汗を流してから火精温泉に向かい、会合と夕食を、というわけだ。
国王達が会合している間に風呂とプールも楽しめるし、植物園も近いので花妖精達も自由に遊びに来られる。
運動公園ではギデオン王も武官達やレプラコーン族と共に楽しそうに滑って回っていた。
「子供達がもう少し大きくなった時に来たら楽しそうですね」
というのはエスナトゥーラ氏族の母親達の意見だ。幼い子供がいたり身重だったりするので運動公園での彼女達は基本的には見る側だったが、それでもレプラコーン族達の様子を見て、色々と将来に思いを馳せつつ楽しんでいるようで、腕に抱いた小さな子と共に滑走リンクやアスレチック施設で遊んでいる子供達と手を振り合ったりしていた。
「確かに……子供達が生まれて少し大きくなったら、一緒に運動公園で遊ぶのは楽しそうよね」
「そうだね。一緒に遊びに来よう」
ステファニアにそう答えると、みんなと一緒に笑みを浮かべて頷き返してくる。
そうして暫く運動公園で遊んだ後で、俺達は火精温泉へと向かったのであった。
「いやあ、あれは良いですね。魔力と体力を同時に鍛えられる。楽しいのに良い訓練になります」
――火精温泉にて、湯に浸かりながらギデオン王はそんな風に笑う。運動してからの温泉は心地が良いのか、ギデオン王は上機嫌だ。
「元々シルヴァトリアの賢者の学連において、塔内部の昇降を補助するために使われていた技術ですが……僕もそう思って運動公園という形で取り込んでみました」
「七家が魔力制御に優れるのも、幼い頃からああした施設に慣れているからというのも有るかも知れませんな」
と、俺の言葉にお祖父さんも同意する。実際は七家の長老達は子供の頃にみんな結構派手に滑走して遊んだ経験があったりするようだが。まあ誰しもが通る道なのかも知れない。
因みに各種施設は例によって日程に合わせて貸切だ。
湯船が深すぎないようにと木魔法ですのこのような台を作って、湯船の半分程に浅いエリアを作ってあるので、レプラコーン族も安心である。念のために水中呼吸の魔法も用いてあるし、火精温泉滞在中に溺れる事はあるまい。
そんなわけで、湯船に浸かって心地良さそうにしているレプラコーン族である。
バロールとの五感リンクで遊泳場を見てみれば――花妖精達も遊びにきていて。一緒にウォータスライダーで滑っていたりと何とも楽しそうな様子が見て取れる。
エリオットとアラン、エギール達が流れるプールで泳いだり、ウェルテスとエッケルスが子供達を背中に乗せて泳いだりといった光景も見えて、まあ各々満喫しているようで何よりだ。
この後はギデオン王も会合が控えているが、それが終わってしまえば本当にのんびり滞在ができる。劇場や画廊等々、色々と見て回れるところはあるのでイスタニアの面々とエスナトゥーラ氏族には楽しんでもらいたいところだな。