番外1198 少年王の来訪
今回の集まりは、ワーム対策そのものは魔道具作りとその配備で一段落しているので、何事もなければイスタニアの同盟加入とエスナトゥーラの氏族の面々が解呪された事を祝う、という側面が強い。
イスタニア王国との転移門を構築してから一夜が明け――そうして会合の日がやってきたのであった。
みんなと共に転移門に移動し、来訪する面々の到着を待つ。
転移港に造られた庭園は……冬でも寒さに強い花を植えたりして、年間を通して楽しめるように造園されているようだ。それらをみんなと共に見ながら待つ。
みんなの体調は、循環錬気で見てみても母子共に健康且つ順調だ。
エスナトゥーラ達もグレイス達を応援してくれているというか感情移入するものがあるようで「この時期にこうして解呪して母子でフォレスタニアに来られたことは運命的なものを感じます」と、そんな風に言っていた。
「今日は良い天気になりましたね」
「晴れると気温は下がるけれど、花も映えるし悪くはないわね」
グレイスの言葉に、満足げに頷くローズマリー。
「転移港の庭園も、王城の庭師が整備してくれたからね」
「確かにセオレムの庭師も腕がいいわね。わたくしとしては……フォレスタニアの庭園を気に入っているけれど」
「なら良かった」
そんな風に答えるとローズマリーは羽扇の向こうで目を閉じる。
思えばローズマリーと面識ができたのもセオレム上層の庭園だったしな。薬草やキノコ等に限らず植物全般が好きなローズマリーである。
「ふふ。ハーベスタは冬でも元気が良いですね。加護の影響でしょうか」
俺達の話を聞いていたのか、ハーベスタが浮遊していき花に魔力を送ったりして。その様子を見てアシュレイが微笑む。ハーベスタはその言葉に答える様に、力瘤を作る仕草を真似る様に葉を少し曲げて頷いたりして、それを見たみんなが笑顔になっていた。
と、そこに転移門を通って誰かが転移してくる。シルヴァトリアからの転移で――光が収まるとそこにはエベルバート王とアドリアーナ姫、それに護衛として顔見知りの魔法騎士……エギール、グスタフ、フォルカといった面々が転移してくる。
アドリアーナ姫が迎えに行っていたようで。
「おお、テオドール公。元気そうで何よりだ」
「これはエベルバート陛下。陛下もお元気そうで嬉しく思います」
「ふっふ。最近では身体の調子もすこぶる良くてな。盟主の一件も関係しているのかも知れぬな」
エベルバート王が笑う。盟主の一件、か。エベルバート王は儀式によって封印されたベリスティオから放たれる呪詛の一部を引き受けていたからな。その辺は俺達がシルヴァトリアを訪問した時に一度浄化しているが、ベリスティオが冥府に渡って呪いから解き放たれた事で、一度はその身に呪詛を受けていたエベルバート王にも、転じて祝福のような効果が出たとしても不思議ではない。
「確かに、その可能性も考えられますね」
「ふふ。そのあたりの真偽は分からないけれど喜ばしい事です」
そう言って微笑むアドリアーナ姫である。そうして再会の挨拶をしたりしていると、エリオットとカミラも姿を見せて……エベルバート王やエギール達との再会を喜び合う。
「領主としても評判が良いという話を耳にしている。余としても誇らしい話だ」
「勿体ないお言葉です」
エベルバート王の言葉に敬礼で応じるエリオットである。
エギール達とも談笑し、是非ウェズリーやアラン達を紹介したい、という話になっていた。二人はエリオットにとっての師と兄弟弟子という事で、エギール達としても興味津々といった様子だ。
「離島の守護であり代官ともなれば中々面識を得る機会もあるまい。優れた武人と交流できるというのは有難いな」
と、グスタフもうんうんと頷いていた。
そうしているとグランティオスからも転移門を通ってエルドレーネ女王やウェルテス、エッケルスといった面々が姿を見せて、転移港が賑やかな雰囲気になってくる。
城からもメルヴィン王とジョサイア王子が迎えとして姿を見せて、エベルバート王やエルドレーネ女王を交えて挨拶をしていた。
「ふふ、よく晴れて祝いに相応しい日になったものだ」
「うむ。同盟加入と解呪の祝いが重なっているからな。めでたい事だ」
と、笑顔で挨拶をし合うメルヴィン王達である。
エスナトゥーラ達はまあ、身重な者もいるという事でこの場には氏族を代表してエスナトゥーラとルクレイン、フィオレットが来ている。他の面々とも後で顔を合わせる事になるかな。
というわけで転移港にやってきた面々にエスナトゥーラも挨拶をして回る。ヴェルドガルに受け入れて貰えた事や、グランティオスから洞窟探索に武官を派遣してくれた事。魔道具への協力について等々、エスナトゥーラが感謝の言葉を口にして一礼すると、王達も笑って応じる。
「うむ。エスナトゥーラ殿もテオドール公の力になってくれるという事で喜ばしく思っている」
「これから先の世代のためにも平和の礎を築いて行って欲しい。私もその為に力を尽くしていきたいと思っている」
「はい。ありがとうございます」
エルドレーネ女王やジョサイア王子の言葉に、エスナトゥーラも穏やかな表情で応じた。
そうして、そこに……今回の主賓であるギデオン王とイスタニア王国の主だった者達、それにレプラコーン族の面々が転移門を通って姿を見せた。
「おお……。これは何と言いますか……錚々たる顔触れですね」
ギデオン王が転移港で待っていた顔触れに驚きと喜びの混じった表情を浮かべる。
「これはギデオン陛下。レプラコーン族の皆様もようこそヴェルドガル王国へ。歓迎いたします」
と、ジョサイア王子が挨拶をして、初めて顔を合わせる面々同士で紹介や挨拶もしていく。
「エリオットからお話を伺っています」
「お会いできて光栄です」
「こちらこそ。オルトランド伯爵から修業時代のお話を伺っております」
と、エギール達もアランと顔を合わせて笑顔で挨拶をしていた。
「この子はリヴェイラちゃんっていうの」
「よろしくね……!」
「こちらこそ!」
セラフィナがリヴェイラを紹介して、レプラコーン族と握手を交わす。妖精に近しい種族という事でやはり相性が良いというか、お互い会えるのを楽しみにしていたようなところがあるな。この分なら花妖精達とも仲良くなれそうな感じがする。
さてさて。まずはヴェルドガル王国及び同盟としてイスタニア王国とレプラコーン族の歓迎を行うという事になっている。
というわけでこのまま馬車に乗り込んで街を通り、セオレムへと向かう。ギデオン王は嬉しそうにセオレムを見上げたりして、その様子にメルヴィン王やエベルバート王といった面々は表情を綻ばせていた。
街のみんなもギデオン王達が来訪する事は聞いており、沿道からイスタニアや同盟を称賛する声と共に手を振ったりしている。
ギデオン王も笑顔でそれに応じたりして。
「おお。少年王と聞いていたが、本当に若いな」
「家臣達と力を合わせていて、よく耳を傾ける名君だと聞くわね」
「境界公もそうだが……年齢では判断できないところがあるな」
「魔法の才をお持ちだと聞くが……やはりギデオン陛下も凄まじい魔力を誇っていたりするのだろうか」
と、冒険者や住民達はギデオン王についてそんな噂話をしているようだ。まあ何というか俺を例として年齢で侮られにくくなる下地になっているのなら、ギデオン王にとっては追い風であったりするのかも知れないな。
そうして俺達を乗せた馬車の車列はゆっくりと進み、王城セオレムへと到着するのであった。
騎士団と魔術師隊も歓迎の準備を整えていて、賓客の来訪を歓迎するように号令一下敬礼を以って応じるのであった。