番外1197 イスタニアとの会合に向けて
タームウィルズと王都を結ぶ転移門を構築し、契約魔法も結んで起動させたところでまずは試用ということでティアーズが向こうに移動してくれた。中継映像の向こうでこちらに向かってマニピュレーターを振ると、それからこちらへ戻ってくる。
「タームウィルズ間との転移門に関しては問題なさそうですね」
「いやあ、素晴らしい魔法技術ですね。お帰りなさい」
戻ってきたティアーズと握手するギデオン王である。
元倉庫ということだが縦長の大部屋なのでこれを半分に分け、それぞれタームウィルズと西の離島に移動するための転移門を設置していくわけだ。
警備がしやすいように壁と扉も構築して、部屋を二つに分ける。それぞれに結界を構築してやれば契約魔法も相まって強度も確保できるだろう。
王都側の転移門は出来上がったので、続いて離島への転移門を設置していく。先程と同様に細かな資材をピエトロの分身達とティアーズに運んで貰い、魔法陣や魔石を敷設してコルリスとアンバーに支えてもらった柱を固定する。
転移門の意匠については――やはり離島側の門が完成してからだな。イスタニア王都とタームウィルズに移動した折に意匠を完成させていく、というのが良いだろう。
そうして作業をしていると、転移港からお祖父さん達がやってくる。西の離島の転移門の起動を、イスタニア王都側で補助する為だな。
「これはギデオン陛下。こうして直接お目にかかれて光栄に存じます」
お祖父さん達七家の面々がギデオン王達に挨拶をする。
「こちらこそ。シルヴァトリアの賢者をお迎えできて嬉しく思います」
ギデオン王達もお祖父さん達に歓迎の言葉を口にする。モニター越しに顔を合わせて既に紹介しているし、転移門が出来上がったらタームウィルズへの訪問も控えているという事で、挨拶もそこそこに作業を続行していく。
「では――転送魔法陣で西の離島へ移動して仕上げてきます」
「ありがとうございます」
イスタニア王都における作業を一通り終えてから、西の離島へと転送魔法陣で移動する。転移の光が収まると、そこにはアランが俺の到着を待っていた。
「お待たせしました、アラン卿」
「いえいえ。転移門の工事という事でもっと大がかりな儀式等を想像していたのですが……あれよあれよと構築されて驚いているところです」
「転移門に関しては各国に設置しているので慣れていますからね。設備を一から造るという事もあったので、今回は早い方だと思います」
「なるほど」
アランと笑ってそんな会話を交わし、転送魔法陣のある場所から転移門を設置する区画へと移動していく。
西の離島にある城は実用性が強い造りだ。やはり奥まった場所へと案内された。
「城の内部では、この場所が適しているのではないかと陛下やウェズリー師匠と話をしておりました。いざとなれば島民を安全に避難させたりもできますから」
城に避難させてさえしまえば後は内部を通って順次王都に避難させられるというわけだ。転移門なので大規模な援軍を送るというような使い方には向かないが、非戦闘員を順次避難させたり、ある程度の支援物資を送ったりというのは可能だな。
というわけで先程と同じようにこちらでも転移門を設置していく。程無くして一通りの整備も終わり、柱を立てて門に意匠を刻むところまで工程を進める事ができた。
転移門の意匠は――やはり船が良いだろう。航行の安全を守るイメージで、手を振る船乗りとそれを見送るイスタニアの騎士達という構図にしてみた。
「なるほど。この島に沿った良い意匠ですね」
それを見て笑顔を見せるアランである。
「はい。文献にあたって意匠になりそうなものを調べてきました。嵐に見舞われて漂流した船を騎士達が探し出して救助した事件がある、と聞き及んでいます」
「ええ、そうです。船首の意匠も忠実に再現しているのですね」
と、嬉しそうなアランだ。アランはフィールドワーク的な趣味があるのでこうした事件についても調べたりしているのだろう。
この島はイスタニア王家の直轄地であり、その代官は島民や航行の安全を守る役割を担っている。アランにしてもこの意匠に刻んだ当時の代官にしても、立場としては王家直属の騎士という事になるわけだ。
離島だけに島民や島出身の武官、文官との信頼関係の醸成も重要という事で、転移門ができても代官の重要性は変わらず続くだろうというのがギデオン王やウェズリーの見解だ。確かに……故郷ともなれば防衛等の任務にしても士気が増すだろうしな。
そうして一通りの作業も進み王都側にいるお祖父さん達と連係し、転移門に関する作業一式を終えた。そうして転送魔法陣を使ってギデオン王がこちらに飛んでくる。王家直轄なので離島の転移門の契約魔法に関してもやはりギデオン王を交えて、という事になるからだ。
契約魔法を結んで転移門を起動させる。移動用に仮設置した転送魔法陣はこれで役割を終えたので魔石等々を回収したりといった作業を終えてからイスタニア王都に戻る。
後は残りの柱の意匠を整えたり、王都側の転送魔法陣を回収したりする必要があるな。このまま残りの作業を進めていくとしよう。
程無くして残った作業もそのほとんどが完了する。俺の言葉にギデオン王とアランも頷いた。
さてさて。これでイスタニア王国からタームウィルズ訪問の道筋はついたな。
「では、これで転移門に絡んだ作業は完了ですね。例のワーム対策魔道具の試作品についてもお渡ししておきます」
アルバートから預かっている魔道具を魔法の鞄から取出し、ギデオン王に手渡す。
「おお、もう出来上がったのですか」
「試作品なので実用性重視ではありますが問題なく使える仕上がりです。細かい使用方法や性能に関しては、書類にして纏めてあります」
そう言って封筒を渡す。探知の魔道具と忌避の魔道具だ。
ヴェルドガルとシルヴァトリアでも平行して魔道具を作っているから、これらはギデオン王達の訪問に合わせて渡す事ができるだろう。
実際に運用するのはアランという事もあって、アランは魔道具を受け取るとそれを起動してギデオン王と共に書類の内容に目を通して挙動を確かめている様子であった。
「魔道具が現在位置で……この光の半球が探知可能距離、ですね。実際見てみると分かりやすいものです」
「ありがとうございます。魔力消費も控えめなので帰港した時に魔力を充填すれば問題なく運用できるかなと思います」
そう言うと二人は頷く。
「消費量が少ないというのは便利ですね。魔術師を常駐させなくてもいい場面が増えます」
消費量が大きいとどうしても魔力補給の頻度が増えてしまうしな。
というわけで魔道具の試作品も渡して注意点も伝えていく。
イスタニア王国の面々がヴェルドガルを訪問してくるのは明日という事になっている。魔道具の仕様や今後の予定を確認しあってから、タームウィルズに帰る事となった。
「では――改めてタームウィルズにて、皆さんとお会いするのを楽しみにしています」
「はい。僕達も楽しみにしています。皆様にもよろしくお伝えください」
と、ギデオン王と会話を交わし、転移門を通ってタームウィルズへと戻る。最後の仕上げとして、イスタニア王都へ通じる転移門の意匠を整えてやれば――今日の仕事は完了だ。
ヴェルドガル、シルヴァトリアにグランティオス。イスタニアとレプラコーン族と、まあワーム対策に関わっている国々で顔を合わせる事になる。対策がきちんと機能するかも、今後きちんと注視していきたいところだ。