番外1196 解呪と祝福
解呪された母親達と子供達に関しては――そうだな。ライフディテクションと循環錬気を併用して体調を見ているが……基本的な反応は健康体そのものといった感じで、問題がなさそうだ。
寧ろ子供達は儀式の魔力によって気分がいいのか、みんな上機嫌そうだったり、安心したのか眠そうにしてたりという反応で、それを見て母親達も笑顔になっていた。
「どうやら、無事に解呪もできたようですね」
「良かったです」
「喜ばしいことね」
俺がそう言うと、エレナが胸を撫でおろし、ローズマリーも頷く。列席している面々や中継映像を見て一緒に祈りを捧げてくれた面々も祝福の言葉を口にしたり、拍手を送ってくれて、神殿の中はお祝いムードだ。
「感謝します、テオドール公。それに皆様も」
エスナトゥーラは、楽しそうに笑うルクレインを腕に抱きながら微笑んで一礼する。それから顔を上げ、真剣な表情で居住まいを正して口を開く。
「この子のこんな顔を見る事が出来て……それを嬉しいと感じる事ができる。こんな日が来る事を望んでいました。私も覚醒魔人の端くれとして、そしてこの子の母親として……テオドール公の目指す未来のためにお力添えしたく存じます」
そう、か。氏族長、覚醒魔人としての責任というのもあるし、母親としてという部分はルクレインの為に未来を良いものにしたい、という意味も込めているのだろう。
「分かりました。今しばらくの間、お力を貸して下さい。ただ、解呪に関しては何時でも応じる事ができます」
「はい」
エスナトゥーラが頷くと……そこに母親達が前に出てきて、真剣な表情で言ってくる。
「エスナトゥーラ様やフィオレット様がもし、何かしらの作戦等に協力なさる場合は……その間のルクレイン様のお世話は我々にお任せください」
「私達も支援したく存じます……!」
そんな母親達の言葉にエスナトゥーラは感じ入る様に目を閉じる。
「貴方達……ええ。ありがとう」
そう言って、エスナトゥーラと母親達は微笑み合う。
「私も、解呪された状態に慣れるために訓練しなければならないな……」
手の中に魔力の輝きを宿して、フィオレットが言う。
「それでしたら、多少は相談に乗れるかと思います」
「迷宮で訓練するなら、私も手伝えるかな」
ウィンベルグが言い、ユイも笑顔を見せていた。ウィンベルグは実戦経験が豊富だし解呪を経て今に至っているからな。立場的にも近く、その見解はフィオレットの参考になるだろう。
「魔人化が解除される事で瞬間的な出力の低下や、瘴気特性が無くなるというのはあるが……性質は残るようだからな。」
テスディロスが頷く。
「そうだね。その辺は覚醒魔人でも恐らくは、とは思うけれど」
レイスの面々を見ると覚醒能力は色濃く残っているしな。能力と魔人化――呪いが直結していたベリスティオに関しては、そこから解放されて結構大きく変わっているようだが、魂に干渉する力を持っている点は同じであるし。
まあテスディロス達はいずれ解呪もと思っているようだから、魔人達との共存、和解を実現してその日が早められるようにしていきたいところだな。
「皆さんの解呪も無事に済みましたし、改めてお祝いしたいですね」
「それなら転移門の設置も控えているし、イスタニアの方々を迎えて一緒に、というのが良いのではないかしら」
アシュレイが言うと、ステファニアも笑顔を見せる。
そうだな。タームウィルズとフォレスタニアの案内と共に各所の観光もすると思うし、ギデオン王やウェズリー、アラン。ドナを始めとしたレプラコーン族を迎えて、エスナトゥーラ達も交えてあれこれと見ていきたいところだ。
さてさて。解呪も無事に終わり、母子共に体調も良いという状態だ。ガルディニスの隠れ家に関しても動きは見られない。偽の隠れ家についてもネシュフェルの兵達が警備しているが状況は落ち着いているようだ。
転移門の資材も集まり、イスタニア側の設置場所も決まって……お祖父さん達と実際の転移門の建造をしていく事となった。
「では、まずそちらに必要な資材をお送りします」
『分かりました。届いた資材は転移門施設の予定地に運びましょう』
モニターの向こうでウェズリーが頷く。
中継映像でイスタニア側と連係しながら、転送魔法陣で資材を送っていくわけだ。
使った資材については同盟各国と同じように、イスタニア側が補充してくれる、との事だ。タームウィルズの転移港側とイスタニア王都。王都から西の離島への双方向移動の転移門を設置していく事になる。
というわけで、転移港分の資材を残して転送魔法陣で順次資材を送っていく。
マジックサークルを展開して転送魔法陣で資材を送ると、光に包まれてこちらに用意された資材が消えて行く。中継映像側にも同時に光の柱が立ち昇り、転送した資材がきちんと届いているのが見て取れた。
『転送魔法自体貴重なものではありますが、送っているところ、送られてきたところが同時に見られるのは興味深いというか、面白いものですね』
ギデオン王はモニターと転送魔法陣を見比べて笑顔になっていたりするな。
「ふむ。門の意匠についてはある程度決まっているのかの」
「そうですね。港側の転移門はイスタニアの門を構築して戻ってきたら進めていきたいと思います」
そう言うとお祖父さん達も頷く。というわけでまずは港側に仮設置という事で、お祖父さん達と手分けして魔石等々を敷設して柱を立て、港側の転移門を構築してしまう。柱の意匠は戻ってきてから同じように揃えていけば良い、と。
「では、そちらに向かいますね」
『お待ちしています』
ギデオン王が笑顔を見せる。転送魔法陣で俺達も向こうに飛ぶ、と。向こうに到着してからの資材の運搬などは今回、ピエトロやティアーズ、それにコルリスとアンバーも手伝ってくれる。
移動する面々と共に転送魔法陣に乗って、マジックサークルを展開。光が収まると、そこはイスタニア王城の一角だ。
「お待たせしました」
「いえいえ。歓迎しますよ」
一礼するとにこにことした温和な笑みを見せるギデオン王である。同行しているピエトロ、コルリスやアンバーとティアーズがそれぞれお辞儀をすると、ギデオン王は笑顔でその挨拶にも応じる。
「続いては、西の離島に資材を送ってしまいたいと思います」
『よろしくお願いします』
アランが俺の言葉にモニター越しに言う。転送魔法陣で先程と同様に西の離島に送る。
「王都の転移門が出来上がったらそちらに伺いますね」
『はい。こちらでも準備を進めておきます』
アランとそんなやり取りを交わしてから、王都の転移門設置に移る。転移門設備というか、設置場所についてはやはりイスタニア王城の内部だ。少し奥まった場所だな。第二保管庫と呼ばれる物置代わりの場所であったらしいが、それらを片付けたそうな。
「元は魔道具等、比較的新しいものを保管する予備の宝物庫のような場所でしたが……それだけに堅牢で、奥まっているので外部からは侵入しにくく、何かあっても警備を厚く出来る場所なのです」
騎士団長が説明をしてくれる。保管されていた魔道具類については宝物庫に移した、とのことだ。確かに……それならば結構安心ではあるな。
早速結界を構築したり魔法陣を描き、魔石を敷設したりといった作業に移っていく。細々としたものはピエトロの分身やティアーズ達がアシスタントとして手元に運んできてくれる。柱はコルリスやアンバーが支えてくれるのでそれを固定していく。
「ん。ありがとう」
「お安いご用です」
礼を言うとピエトロと共に、コルリスとアンバー、ティアーズ達も片手を上げて応じてくれる。
イスタニア王国の意匠は――そうだな。やはりイスタニアの祖先とレプラコーン族が共に力を合わせているところが良いだろう。
イスタニア建国の頃の伝承に合わせ、草原と森の間で混じり合い、笑顔で勝鬨をあげる人々とレプラコーン族といった意匠を刻む。
「おお。これはレプラコーン族と約定を結ぶ前の場面ですね」
「そうですね。伝承に合わせてみましたが、見て伝わるのであれば良かったです」
転移門の意匠を見て笑顔になるギデオン王達である。後は契約魔法を結び、転移門を起動させれば転移港とイスタニア王都を結ぶ転移門は出来上がりだ。
こちらが完成して転移できる事も確認できたら、イスタニア王都と西の離島を結ぶ転移門も設置していくとしよう。
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