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番外1194 母子達の決断は

 調整した魔力を拡散させると……シミュレーションの上では、ワームが漁場からでも離れていくのが確認できた。


 居心地が悪いとか、嫌な予感がするとか、忌避効果の魔力というのはそういうもののようだ。人で言うならアンデッドの発生地帯に身を置いた時であるとか邪精霊が力を持つ場所にいる時とか……それに敵意を持った魔人が瘴気を纏っているというような場面でもそうだろう。魔力の動きに敏い者ならただならぬ気配であるとか危険を感じる、というわけだ。


 言うまでもなく、ワーム達は魔力の感知能力が高い。本能的な動きをする種族でもあるから、食欲や攻撃本能を超える不快感や危機感といったものを覚えさせてやれば、その場からは離れる、というわけだ。


 その結果が明るい印象の魔力になったのは少し予想外ではあったかな。そうした魔力波長だけを発信する術式を組めばいい。


『中々良さそうだ』

「有効な対策が出来上がりそうで何よりね。少し応用が利きにくそうではあるけれど、他でも活用できる場面もあるかも知れないわ」


 原理と共に大体の仕上がりを説明すると、ローズマリーは羽扇で口元を隠しつつ言う。


『同じような特徴を備えた種族には有効だろうね。解析やそれぞれに合わせた調整が必要になるから準備も必要だけど……土地と状況によっては、かな』


 とは言え……ゴブリン、オーク、オーガにトロール。こうした種族は魔力感知能力が低くてあまり効果がない。ゴブリンやオークは独自の文化のようなものがあって、連中を理性的と形容していいのかどうかは分からないが、状況を総合的に判断するから、単なる虫除けのようなものは学習される事で効果が薄れてしまうだろう。


 だが……そうだな。例えば昆虫系の魔物には効果が期待できそうだ。逆位相の波長で悪影響が出なさそうならの話、だが。


 とりあえずパラライズワーム対策の場合は、人や精霊、魔物に魚、漁場等々への影響も薄そうなので渡りを乗り切る間の対策としては十分に採用できるな。

 これを魔道具化し、港に配置したり船に積めば諸々対応できるだろう。


『イスタニアも魔法技術が高い国だし、工房で試作品を作ったらイスタニア側で増産してもらっても良いかも知れないな』

「魔道具としては用途が限定されているから、売り物にはしにくいというのはあるね」


 と、アルバートが同意する。


『活用できる状況と解析する環境がないと、他の魔物に対応する魔道具も作りにくいからね』


 何とも汎用性のない術式になってしまった感はあるが……専用の対策としては有効だな。

 探知の魔道具と併せての運用も問題無さそうだし、一先ずはこれで良いだろう。


 毒を持っているので、実際の対応に当たる武官にクリアブラッドの魔道具を配備する等しておけば交戦する事になってしまった場合も対応しやすくなってより安心感があるか。

 クリアブラッドの魔道具に関しては汎用性が高いので、渡りが終わっても腐らないだろう。イスタニアでも自前での用意があるとは思うが。


 出来上がった術式を早速迷宮核にプリントアウトしてもらう。そうして――迷宮核の内部空間から意識が肉体に戻ってきた。

 ……よし。ではフォレスタニアに戻って、アルバートにこれで魔道具化を頼んでおこう。




「ただいま」

「おかえりなさい、テオ」

「ふふ。おかえり、テオドール君」


 フォレスタニア城に戻るとみんなが笑顔で迎えてくれた。エスナトゥーラ達を交えつつ、サロンでのんびりとしながらお茶を飲んでいたようで。


「それが術式かな?」

「そうだね。邪魔にならなければ預けておくよ」

「ん。問題ないよ。こっちで預かっておくね」


 と言いつつ、俺から術式を書きつけた紙を受け取り、それに目を通すアルバートである。


「なるほど。一定間隔で魔力を発信する方式なんだね」

「常時発信だと魔力消費が大きいからね。この方式なら時々魔力を補給する形で事足りる」


 その辺の方式も含めて魔道具化できるように術式を組んできている。

 船底に装着させたり、特定の海域にブイのように浮かべておく、といった運用方法を考えている。探知魔道具は魔道具の位置を中心として光のフレームで半球を構築し、ワームのいる座標に光点を表示するといったものだ。

 天井から吊るすか、台座と棒の先端に魔道具を取り付ければ使いやすい、だろうか。


 表示可能な距離は2キロぐらいになるか。500メートル以内に接近された場合に、自動的に起動して警報が鳴るように術式を組んでいる。いくつかの術式が複合された内容になるが処理自体は軽いので構築も簡単だし、消費魔力も大した事はない。ワームから得られた魔石は探知用として活用するという事で。


 素材から作れそうな数を伝えると、水晶板の向こうでギデオン王とウェズリー、アランといった面々は少し思案を巡らせて意見を交わしていたようだったが、やがて明るい表情になる。


『これなら十分に配備が行き渡りそうですね』


 アランが言う。航行する船や、漁船。渡りの際の警備、港。こういった場所に魔道具を配備していってもきちんと行き渡る、というわけだ。


「転移門を設置しに行く際に術式と素材もお渡しします」


 渡りが行われるまでに必要な分用意する必要があるので、工房だけでなくイスタニア側でも魔道具を作っていく、と。スピードを重視するなら更にヴェルドガルやシルヴァトリアといった国々の魔法技師に依頼を出しても良いだろう。


 その辺の事も水晶板を通して少し話し合う。メルヴィン王とエベルバート王も了承してくれて、少しずつ割り当てが決まる。


 これならまあ、比較的スムーズに準備が進みそうだ。転移門の設置までに色々と進めておこう。


『後は――会合場所への儀式用魔道具の設置であったか』

「そうですね。祭具が揃えばそちらについても進めていく予定です」


 メルヴィン王の言葉に頷く。

 恐らく順番としては会合場所へのモニュメントの設置と儀式を終えてからガルディニスの隠れ家からの回収……という事になる。


 その前に転移門を設置し、ギデオン王達をタームウィルズやフォレスタニアで歓迎という方が早いか。転移門についてはあちこちに設置しているので、ノウハウが出来上がっているからな。

 いずれにしてもガルディニスの隠れ家回りの状況に注意しつつ動いていく事になるだろう。




 そうして……エスナトゥーラ達をフォレスタニアに迎えて1日、2日が過ぎる。

 エスナトゥーラ達に関してはまあ、暫くの間は慣れる事が肝心と思いのんびり過ごしてもらっていたのだが、執務やら1日の仕事が終わった頃合いを見計らって、解呪と封印術の選択に関しての見解を伝えてきてくれた。

 真剣な話という事で、城の一室で腰を落ち着けて話を聞く。


「ほとんどの者は母子共に解呪を望んでいます。ただ……身重な者達は解呪による影響を考え、出生時の新生児の身体が頑強になる事を考えて、出産までは封印術を維持するというのが良いのではないかと、そんな風に話し合っていました」


 と、エスナトゥーラが全員を代表して言う。


「私も、護衛役の任は解かれていますが、テオドール公や奥方様達、エスナトゥーラ様達をお守りしたいと思っています。解呪をしてもらい常に護衛役として動けるように鍛え直したいのです」


 というわけで、フィオレットも解呪希望という事だ。


「分かりました。それらの希望は尊重したいと思います。エスナトゥーラさんは……どうなさいますか?」


 そう尋ねると、エスナトゥーラは俺を真っ向から見据えて言う。


「ルクレインは解呪して平穏に過ごしてもらえればと思っています。私に関しては……そうですね。覚醒魔人であり氏族長である以上、もう少し解呪を遅らせたいのですが。今ならば……魔人となったこの身であっても平穏な未来に、希望を持てるのです」


 そこまで言うと、エスナトゥーラは一旦言葉を切り、柔らかい笑みを浮かべて言葉を続ける。


「それに……封印術があればルクレインの母親である事も、両立ができますから」


 そう、か。テスディロス、オズグリーヴ、オルディアと、覚醒魔人達は和解と共存のために力を残しているからな。その在り方に倣ったというか敬意を示してというのもあるのだろう。

 それに……封印術があれば母親である事も両立できる、か。そう感じてもらえるのなら、母さんから術式を受け継いだ俺としても嬉しいものがあるかな。

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