表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1964/2811

番外1190 宴会と魔人達

 食材の鮮度が保たれるように術式でフィールドを展開しつつ、色々と考えていく。


 料理方法としては……大まかにではあるが焼く、煮る、炒める、揚げる、蒸す、それに刺身といったところか。

 実際の料理をする時は城の厨房。試食用は簡易に作った厨房で見てもらってからという事で、少しずつ色々と試していく。見物しやすいところで料理した方が、みんなもどんな料理が饗されるのか、分かりやすいしな。


 まずはそうだな……。寄生虫もいない、毒もないとなれば少し刺身を試してみたい。


「イスタニア王国では、魚介類の生食といった文化はあるのでしょうか?」


 と、刺身についてはどう思うか聞いてみる。


「イスタニアでも新鮮なら生牡蠣などを食する事がありますよ。私も……新鮮ならそれほど抵抗がないですね」


 笑顔のギデオン王から、そんな返答も貰えた。なるほど。流石海洋国家だ。


 というわけで切り身を醤油とわさびで一口試してみる。

 中骨付近の身だ。ホウライエソは白身魚だが、マグロで言えば中心の赤身といったところだな。

 綺麗な白身魚の刺身はフグや鯛を連想するところがあるが。


「それじゃあ、まずは一口」


 ……ふむ。ああ。やや小気味よい適度な弾力があった。肉質が繊維質というのか。これは刺身にするなら薄めに切った方が良い気もするな。これが下身のトロ等だとまた食感も変わってくるのだろうが……刺身としても結構良い感じに思える。


 咀嚼と共に口の中に広がる魚独特の旨味と醤油とわさびの風味。舌に触れる滑らかな食感。深海魚なのでにおいに懸念があったがその辺は淡泊だが、それとは裏腹に、弾力のある身は噛めば噛むほど旨味が広がる。これは――美味い、な?


 続いて腹側の脂の乗った部分。ここは……ああ。

 口の中に入れた途端にとろけるような柔らかさが旨味と共に広がる。繊維質の身も良いが、こちらもまた別種の味わいがあって何とも言えない。部位が違っても旨味の豊富さはそのままと言うべきか。


「これは……美味しいと思います。どの部位も刺身でもいけそうですね」


 反応を待っている面々にそう答えると「おお」という歓声が起こった。シーラは喜びを示すようにぐっと拳を握ったりしている。耳と尻尾も反応していて、喜びもひとしおといったところだろうか。ティールもいけると聞いて嬉しそうに声を上げているな。うむ。


 巨大ホウライエソだけで何人前だろうか。まあ食材としては城で宴会しても十分な量と考えていい。


 では――この調子で色々試していこう。解析も終わって実食もしてみたが、体調にも体内魔力にも異常はないし、食材として問題がなさそうだ。

 俺ばかり試食していると、宴会前に腹いっぱいになってしまいそうだし……見物している面々にも少しずつ協力してもらおうかな。




 そうして諸々料理を考えて、反響の良かった料理法を宴会で出す、という事になった。

 刺身は俺が試食済みだ。部位の柔らかさに合わせて厚さを変えたりすればより食べやすくなるだろう。


 城の料理人達も調理を手伝ってくれて、諸々準備も進み……そして日が暮れる頃合いで、城の広間にて宴会が始まる。


「作戦が首尾よく運び、エスナトゥーラさんとその氏族がフォレスタニアに迎えられる事、イスタニアを預かる王として誠に喜ばしく思っています。また、今後は隣国や同盟各国ともより一層好ましい関係を深めていく事ができるだろうと期待しています。今宵の宴もきっと互いの絆を深めてくれる事でしょう」


 ギデオン王がそう言って宴会前の口上を述べる。そこまで言ってから、俺を見て頷いてきた。


「ありがとうございます。海底洞窟からみんなで無事に戻ってくる事ができて、嬉しく思っています。今回の作戦に際し協力していただき、新たな知己や友人との絆を得ることができた事も、大変喜ばしいことです。皆の力を合わせた作戦の成功、そして今後の展望とこれからの友好と歓迎の前途を祝し、洞窟由来の食材で料理も用意しましたので楽しんでいって頂けたら幸いに存じます」


 俺からも口上を返し、皆で祝杯を掲げあう。


「これからの前途に!」


 と、ギデオン王が言うと皆も同じように唱和して、乾杯を行った。

 料理に関しては既に運び込まれていて……刺身、かば焼き、唐揚げ、あら汁に炊き込みご飯と……色々ホウライエソ料理を用意してある。

 それぞれのテーブルに料理が運ばれているので、このまま食べていく事ができる。


「ん……これは美味」


 シーラはあら汁を一口飲んでうんうんと頷いていた。あら汁にはホウライエソのつみれも入っていて、食べ応えはばっちりだ。これまた……旨味が非常に濃厚だな。


「鳥肉みたいな食感で、唐揚げも美味しいわね」


 と、唐揚げを口にして笑顔を見せるステファニアである。

 そうだな。繊維質の豊富な部位は弾力があって、唐揚げにすると普通の魚とはまた一風違った食感がある。揚げたてなので油の匂いも香ばしい。


 かば焼きは皮付近を適度な薄さ、大きさに切り分けて串を打ち、照り焼きにしてみた。皮下層の身がふっくらしていて、皮も固くなり過ぎないように程よい焼き目を付けてパリッとした仕上がりを目指した。ウィズに分析してもらいながら理想の焼き加減を目指した甲斐もあって、こちらも良い仕上がりだ。


「皮の食感も良いわね。結構好きだわ」


 と、ローズマリーが笑顔を見せ、その言葉に同意するように声を上げて嬉しそうに切り身を飲み込むティールもご満悦である。

 そんな調子でホウライエソ料理は中々に好評なようだ。エスナトゥーラ達に関しても喜んでくれているようで。特に炊き込みご飯をお代わりしている姿が目立つな。


「ハルバロニス出身であれば久しぶりの米料理という事になりますからな」


 と、その光景を見て少し楽しそうに言うオズグリーヴである。確かにそうだな。ホウライエソ料理は初めてでも米であれば彼女達にとっては故郷の味ということになるのか。

 ましてや俺達が栽培しているのはハルバロニスから譲ってもらった品種だしな。懐かしく感じるというのも分かる。


 コルリスやアンバー、それに獏のホルンも鉱石を食べるという話を聞いて、イスタニアやレプラコーン族の面々も鉱石を食べているコルリス達を見て盛り上がったりもしていた。ギデオン王やアランやドナも手ずから鉱石を渡したりして楽しそうにしているな。


 まあ、一先ずは巨大ホウライエソも食材としてきちんと使える事が分かって良かった。


 イルムヒルト、ドミニク、ユスティアもそれぞれ楽器を持ち出したり歌を歌ったりして。イスタニアの面々やレプラコーン族。エスナトゥーラと氏族達もそれぞれに目を閉じて耳を傾けたりして。


 子供達も一緒に会場にいるので、賑やかな雰囲気というよりは和やかな方向で盛り上がっている印象だな。酒は控えめで料理と音楽を楽しむ宴会といった感じだ。


「エスナトゥーラさん達も楽しんでいるようで良かったです」


 と、グレイスが明るい笑顔で言う。エスナトゥーラの子供達も、イルムヒルト達の演奏が物珍しいのか静かに聞き入ったり、心地良さからそのまま眠ってしまっている様子があるな。外界からの刺激としては初めてのものだろうし。


「ふふ、そうですね。氏族長を引き継いだ身としては、こうして歓迎の宴まで催してもらい、安心できました。奥方様達が出産を控えている事も……私達を迎えにあの神殿まで来て下さった理由として、納得できるものでしたし」

「それならば良かったです。今後の話は宴会が終わってからと思っていますが、なるべく過ごしやすくお互いに納得できるよう相談をしたいところですね」


 と、俺が応じるとエスナトゥーラ達も頷いていた。というわけで宴会が終わったらフォレスタニアに向かい、今後についての話もしていく事になるな。

 封印術と解呪に関する選択のいずれの場合でも衣食住には過不足がないようにしたいところだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ