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番外1181 封印の中枢へ

「この巨大怪魚はどうするのですか?」


 と、巨大ホウライエソを見やり、ウィンベルグが尋ねてくる。ああ。ワーム達からは剥ぎ取りをしたからな。


「んー。転移魔法で送ってしまおうか。ウィズの分析だと毒はないようだし、凍らせておけばすぐに腐ったりしないと思うから、片がついたらみんなで食べたりできるかも知れない」


 味は不明だが成分上は問題ないというのを確認している。


『ん。楽しみにしてる』

『保存に関しては任せておいてください』


 と、シーラが耳と尻尾を反応させながら言って、アシュレイが微笑んで言う。ティールも嬉しそうに声を上げていた。

 というわけで巨大ホウライエソに関してはフォレスタニアに転送してしまうという事で良いだろう。

 食用として良さそうならみんなで宴会もできるしな。


『この頭の大きさなのに、洞窟内で活動しているというのも不思議なものね、不便ではないのかしら』

「ああ。成分を調べる時に少し魔力を流して骨格や筋肉の構造も見てみたけれど、骨を動かして頭を細長くできるみたいだね」


 興味深そうなローズマリーに答えると、感心したように頷いていた。ワーム達よりも太いが、まあ、狭い場所に入っていかなければ十分に活動可能だろう。

 そんなわけで木魔法と土魔法で簡易の保存用水槽を作り、腐りにくいように氷を浮かべた状態で、まとめてフォレスタニアに転送する。

 マジックサークルを展開。魔法陣の中で光に包まれ――フォレスタニア城の一角に飛ばされていった。


 味が良ければウォルドムの一件が片付いた後で、みんなで宴会の料理にする、というのも良いだろう。疑似餌の部分はかなりの魔力を秘めていたようなので、素材としても気になるものではあったから、時間ができれば調べてみたいところだ。




 そうして、巨大ホウライエソを転送し、その背後に隠されていた穴を、更に奥へと進んでいく。

 魔力も段々と強くなっていき……やがてそこに辿り着いた。


『これが……外郭ですか?』

「海王ウォルドムが残した、封印の一部ですね」


 ロヴィーサの言葉に答える。

 俺達の目の前には……真珠貝の内側のような光沢を持った壁が――洞窟の穴を塞ぐように存在していた。

 周辺の穴から別ルートで中枢に向かう経路を探してみたが同様に真珠壁で穴が埋まっている。立体図から細かく見れば分かるが……封印の中心部から一定の距離に外郭が構築されているようだ。全体像を俯瞰して見てみれば、球体状に外郭が展開しているのが分かる。範囲が広いので穴を塞いでいる限りでは壁に感じるが。


 外角の内側がどうなっているのかも気になるところだ。

 早速、ウォルドムから教えてもらった術式を使い、外郭の封印を解いていくとしよう。


「みんな、少し後ろに離れて……いや、脇道の穴に逸れていて貰えるかな。外郭の封印を解くことで、内側に篭っている力の噴出もあるかも知れない」


 寧ろここまでくる道中で得た情報では、その可能性の方が高い。中心部から外に漏れだしてくる魔力は、封印そのものか、対象である魔人が影響していると見られる。


「分かりました」


 エリオットが頷き、横穴に移動。ドナとオズグリーヴを中心に皆で密集隊形を取る。通路入口をディフェンスフィールドと煙のシェルターで凌ごうというわけだ。横穴に退避する前に……改造ティアーズが保持している水晶板モニターを通してグレイス達が「お気をつけて」と言ってくれた。


 俺も――そういった力の噴出を想定した術式を並列で組みながらマジックサークルを展開する。


「それじゃあ、始めるか」


 マジックサークルを展開したまま、外郭に――触れる。そこから水面に波紋が広がるように、黒い穴が空いた。ゆっくりと穴が広がり、通路を塞いでいた真珠の壁が消失する。


 同時に、濃密な魔力が内側から流れ出してきた。危惧していたような爆発的な奔流……と言うほどではない。ただ、洞窟の足下を埋め尽くすように後から後から流れ出してくる。

 重たい魔力。封印されているから瘴気ではないのか。ただ、清浄な魔力かと言われるとそれも違う。邪悪さを感じるわけではないが印象を言うなら……冷たく、重苦しいもので。

 ウォルドムが封印を決断した理由にも繋がっている、のだろうか。


「多分もう、大丈夫だと思う」


 暫く様子を見てから伝えると、横穴からみんなが顔を出す。


「ウォルドム達の心情故に、この魔力……という事でしょうか」


 オズグリーヴが目を閉じる。


「そう、かも知れませんね」


 俺も同意を示し……それから口を空けた外郭の内部へと侵入する。魔法の明かりで内部を照らせば……。


「これは……すごい場所ですね」


 内部に踏み込むと、エリオットが声を上げた。

 流れ出してきた重苦しい魔力とは裏腹に、外郭内部は真珠貝の内側のような光沢で洞窟の表面をコーティングしたようになっていた。真珠の光彩を放つ洞窟……といった風情だ。

 外郭を構築した時に術式の効果が及ぶ範囲内を変質させたのだろう。

 術式が一定の範囲まで広がり、埋めて外と内を遮断するように穴の部分に真珠壁が形成される、と。こちらが術式であけた穴も一部分のようだ。これなら穴を塞ぐ事で外部環境の急激な変化も一先ず防げるか。


 穴の部分に結界を構築して、更に奥へと進んでいく。


「中心部まではまだ少し距離があるようです」


 と、目を閉じて手を翳しながらドナが言う。中心部は少し上の方向に向かう必要があるようだ。


「外郭の大きさを計算すると、結構大きな球体になっているみたいだからね」


 とはいえ、洞窟内部をコーティングしたり変質させたものならば、構造そのものは変わらない。探索する上での注意はこれまでと変わらないだろう。

 迂闊に穴を開けてロッドを差すと封印に影響が出るかも知れない。当然目的地に直行するための穴開けもする事はできないが……。


「水の流れがないから安定性のいい台座があれば問題ないかな?」


 土魔法で作った台座に照明の魔石を配置しつつ、ドナの示す方向と魔力を頼りにルートを選び、奥へ奥へと進んでいく。


 緩やかに上の方向を目指していたが、急に開けた場所に出た。

 広々としたドーム状の空間が広がっている。中央に大きな……台地のような構造物があるな。自然の洞窟とは違い、明らかに人の手が加わっているのが見て取れる。ウォルドムの手によるものだろう。


「上方には空気が残っているようですね」


 と、ウェルテスが言う。


「自然に残った空気ではなさそうですね」


 術式で空気を残したのだと思われる。ウォルドムは水中特化の魔人だから良いが、封印が解けた時にウォルドムがいないと水中に放り出される事になるからな。


「中心は――あの高くなっている部分、だと思います」


 ドナが手を翳して言う。


「そうですね。全体像を見てもあの位置が中心部のようです」


 ウィズの形成した立体図を見ればそれが分かる。ドームの中心に台座のような地形を作り、上方に空気を残した、と。この辺の環境整備技術は……月の民の系譜というか、ハルバロニス出身の魔人ならでは、という印象があるな。


 真珠の光沢を放つドームを上に登っていく。そうして水面から顔を出せば――。そこには神殿のような構造物があった。何もかもが真珠の質感に変質してしまっているが……そうやって変質させる事自体が封印になっているのか。


 生命反応は無し。魔力は……神殿の内部から漏れ出すように流れてきているのが分かる。静寂に包まれていて、大きな変化が起こることはなさそうだが、さて。


「行ってみようか」


 そう言うと、みんなも真剣な表情で頷く。封印の中枢部、か。

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