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番外1169 イスタニアの邂逅

「すごいね、ドナねーちゃん! 王都が遠くに……小さく見えてたのが近付いてくる!」

「森もあんなに小っちゃい!」


 と、レプラコーンの子供達の声が艦橋に響く。


「ふふ。すごいね。私もこんな高いところ初めて……!」


 子供達から言われたドナはそんな風に言ってモニターを見てにこにこと笑う。そんな様子を見て静かに頷いているテスディロスや、表情を綻ばせているオルディア、モニターの向こうのみんな、といった光景である。


 イスタニア王都までの道中は賑やかなものだった。レプラコーンの子供達は大人達より更に体格が小さく、本当に小人といった印象だが妖精族の常なのかみんな明るい印象だ。


「子供の時分はより妖精に近しいせいか、やや好奇心旺盛なところがあってのう。儂らも普段から注意はしておるのじゃが、こればかりは種族特性で如何ともしがたいところでの。特に飛行船に乗ると、気分が高揚しすぎてしまうやも知れぬ」

「儂らはもしかすると……妖精であった頃から羽根を失ったのやも知れんな。高所に行くとそうなりやすい子供が多い」


 と、レプラコーン族みんなも含めてシリウス号に乗って宴に向かう事が決まった際、トライスやセバスターはやや申し訳なさそうにそんな風に伝えてきてくれた。

 子供達は……より先祖としての妖精に近いわけだ。それはそれで中々面白い話だとは思うが、まあ確かに……注意の必要な話だろう。空に行けばテンションが上がってしまう、と。


 確かに……レプラコーンの子供達に関しては、伝声管に入ってしまえそうな大きさだ。もしそうなってしまってもカドケウスがいれば救助自体は容易だが……それ以外にも計器類を触ったりとか、色々考えられるだろう。

 アピラシアも働き蜂を出動させてそういう危険性のある場所に入ったりしないか見る、と、俺に伝えてくると艦橋内の見回りを担当してくれた。


 他にも触っても構わないもの。触ってはいけないものというのも艦橋にはあるが、その多くは操船席付近に集中している。まず約束事を一つだけ明快にするという事で、艦橋後方――操船席付近のものには触れないようにと言い含めてから移動する事になった。


 親達だけでなく、ドナも引率役を買って出てくれていて、上手くモニターの向こうに興味を向けてくれているという印象がある。


 俺からも土魔法と木魔法、メダルゴーレムを駆使してレプラコーン用の専用シートを即席で作ったりしているので、その辺も良い方向に作用したようだ。

 ゴーレムの動作は割と単純というか簡単なものだ。参考にしたのは絶叫マシーンのシートで、幾つかの座席が連なっており、コの字型のバーを降ろす事で、一時的にロックがかかるという仕様だ。


 好奇心旺盛との言葉通り、専用シートの物珍しさも手伝って、みんな我先に着席してくれた。特に子供達用のシートは足がついていてあちこちのモニターを自由に見に行ける。かなり楽しそうにしてくれているので、この辺は工夫した甲斐があったようだ。


「すごいものですね。即席であんなにも子供達の興味を惹く物を作ってしまうとは」

「確かにのう」


 ギデオン王とトライスはそんな風に言って頷き合っていた。


「必要なら私の煙で何か出し物を、とも考えていたのですが。まあ、それは送り届ける時まで取っておきましょうか」


 オズグリーヴがそう言って笑みを浮かべる。


「それは――俺も気になるな」

「うむ。確かに面白そうじゃな」


 俺の言葉にルベレンシアが頷く。


「テオドール公の幻術と比べたら大した事はないとは思いますが」

「んー。他人の余興を見るのは、それはそれで楽しみかな」


 俺がそう返答すると、頷いて少し笑うオズグリーヴである。

 俺としてはオズグリーヴとの交流も深まっているように感じられるというか。以前より柔らかい表情を浮かべるようになった印象がある。魔人特性の封印が良い方向に影響しているように感じられて嬉しいというのもある。


 モニターの前を通る際にコルリスとアンバーが子供達に手を振ったりして。レプラコーンの子供達はそれにも目を輝かせたりして、賑やかながらも和やかな雰囲気の中、シリウス号はイスタニアの王都に到着したのであった。




 シリウス号を城に停泊させて、まずは客室に案内してもらう。手荷物を置いて、暫く待っていれば、宴の時間になるはずだ。グランティオス王国の面々も飛行船でこちらに向かっているそうで、宴が始まる前に合流できそうである。


 レプラコーン族の面々もシリウス号から降りたらそれぞれ親子連れとして、客室に案内されていく。列を成して王城の廻廊を進んでいくレプラコーン達の姿は何というか、微笑ましさがある。


 子供達もシリウス号に乗っていた時は大分テンションが上がっていたが、王都に到着したら王城の静謐な空気故か、多少は落ち着いたようだ。

 王都滞在中は子供達それぞれの両親が引率する形だが、アピラシアが子供達一人につき一体の働き蜂を配置して、迷子になったりしないように予防策を講じてくれているので諸々安心だ。


「魔力消費が結構大きくなりそうだから、補給もきちんとしておこうか」


 そう言うとアピラシアはこくんと頷く。客室のテーブルに座り、俺の伸ばした手を取って魔力補給を行っていく。明日から色々と作戦行動をしていくので、バロールやカドケウスにもしっかりと魔力補給をしていこう。


『協力して貰えて安心しました』

『イスタニアの皆さんも、レプラコーン族の方々も良い人達ですね』


 そうやって魔力補給をしていると、グレイスやアシュレイが微笑んで言って、みんなも笑顔で頷いていた。


「そうだね。それだけに……安全確保はしっかりしておかないとな」

『転移が必要になった場合は、フォレスタニアで問題なく過ごせるように、受け入れ態勢を整えておくわ』

「ああ。こっちでも転移先の説明はしておくよ」


 クラウディアの言葉に頷く。ガルディニスの隠れ家の方で問題が起こった時に対応するために、フォレスタニア城の一角に転移補助のための魔法陣を描いてある。緊急時の転移先となるので、それらについてはパニックを起こさないためにもしっかり伝えておこう。




 グランティオスの飛行船がイスタニアの王都に到着したのはそれから少ししての事だ。エルドレーネ女王に関しては今回は国を空けられなかったが、ロヴィーサを名代とし、ウェルテスとエッケルスを中心に海王の元眷属達で部隊を編成して応援に来てくれた、というわけだ。

 ウェルテスに関しては元々グランティオスの武官の魚人族ではあるが、ロヴィーサ同様、俺達と面識があってエッケルス達とも仲が良いからこその人選ではあるだろう。


 まず公的な訪問という事で謁見の間で顔を合わせてから、場所を宴会場へと移す。


「こうしてテオドール殿のお手伝いをできる事、嬉しく思います……!」


 と、俺達に挨拶をしたり握手を求めに海王の元眷属の氏族達がやってくる。

 元眷属はガタイの良い面々が多いのだが、ウォルドムの影響下から外れたからか、前より表情からも険が取れているように思う。握手をするために大きな体躯を小さくしたりして嬉しそうに挨拶をしてくる。ロヴィーサ、ウェルテス、エッケルスもそんな元眷属達の様子に破顔していた。


 そうしてそれから、ギデオン王やトライス達に、グランティオスの面々を紹介していく。


「ギデオン=イスタニアと言います。グランティオスでのお話や、同盟としての活躍もお聞きしていますよ。よろしくお願いしますね」

「人魚に魚人族……海の民と知己を得るのは初めてじゃな」

「ふふ。改めてよろしくお願いします、ギデオン陛下、トライス殿」


 と、ギデオン王とトライスが挨拶をするとロヴィーサも柔らかく笑って応じる。


「よろしくお願いしますね、エッケルスさん!」

「こちらこそよろしく頼みます、ドナ殿」


 ドナとエッケルスもそんなやり取りを交わす。エッケルスは膝をついて背伸びをするドナと笑顔で握手をしていた。一先ず、協力者同士の初対面も円満なものになったようで何よりだな。

 そうこうしている内に段々と料理の良い香りが広間に漂い始め、宴会の始まりが近付いてくるのであった。

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