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番外1163 イスタニアの少年王

「シリウス号はそのまま、王城の近くまで進んで頂いて問題ありませんぞ。勿論、同行している方々も境界公と共にいらして下さい」


 改めて状況と方針を確認してきた、との事で。ウェズリーがその意向を俺達に伝えてくれる。


「分かりました。では――参りましょうか」


 改めてウェズリー達を艦橋に迎えて、ゆっくりとシリウス号を動かしていく。


「テスディロス殿の普段の行いは流石ですな」


 と、ウィンベルグが言うと、オズグリーヴやオルディアも少し笑って頷いていた。確かに、そうだな。ヴァルロスの理想に共感していただけあって、テスディロスは真面目で実直なのだ。


 それが期せずしてイスタニア訪問で信用を得られる事に繋がったというのは、喜ばしい事だと思う。テスディロス当人は普段するべき事をした、という感じであまり自覚がないようにも見えるが……まあ、だからこそなのだろう。計算した行動ではないから今の反応に繋がったのだと言える。


「ふむ、そういうものだろうか」

「親切にして貰ったから、印象が良かったっていう事だね。単純に言ってしまえば、だけれど」


 フォレストバードに対する印象のようなものだと伝えると、テスディロスは納得したように頷いていた。「竜達と違って人は助け合う生き物じゃからな」と、頷いているルベレンシアである。


 そうしてシリウス号をイスタニア王城の近くまで移動させる。小高い山というか丘の上に城があるので、シリウス号を停泊させておけるだけのスペースも十分にある。というわけで登山道近くにシリウス号を停泊させる。


「それじゃあ、留守はお願いして良いかな」


 と言うと、アルファとアピラシア、ティアーズ達は各々こくんと頷く。


「それじゃ、行ってくる。また後でね」

『はい。また後でお会いしましょう』


 通信室のグレイス達が笑顔で頷く。

 そうしてタラップを降りて少し移動すると、そこが正門だ。俺達の到着を待っていたというように門が開かれ、ウェズリー達に内部へと案内される。


 敷地内を通り大きな建物へ。建物に入ると広々としたホールとスロープ状の階段の向こうに大きな扉があるのが見えた。あの扉の向こうに謁見の間があるのだろう。


「遠路はるばるよくおいで下さいました」


 と、文官達が一礼し、そうしてファンファーレが響き渡ると正面の扉が開かれる。

 赤い絨毯の向こう――階段状の高くなっているスペースがあり、その上に玉座がある。左右に重鎮達が並び、俺達の到着を歓迎してくれているようだった。

 そのまま進んで良いとの事なので、謁見の間に進んでいく。左右に並んだ武官、文官の重鎮達が、俺達の歩みに合わせ敬礼を以って迎えてくれる。


 そうして、正面の階段の前までやってきたところで、文官の声が響く。


「イスタニア国王、ギデオン陛下のおなりです!」


 再度ファンファーレが響き渡り、俺達が作法に則って王の入場を迎える姿勢を整えると、玉座の更に向こうに設けられた通路から、1人の少年が姿を見せた。


「遠路はるばるよく参られました。顔を上げ、楽にしてください」


 落ち着いた、穏やかな印象の声。俺も返事をしてから少し間を置いて、顔を上げる。

 柔和な雰囲気の少年がそこにいた。歳の頃は俺と同じか、やや下、ぐらいだろうか。

 魔力もきちんと鍛えているようで、清浄で落ち着いた魔力の資質が、元々の雰囲気を底上げしているように思う。


「お初にお目にかかります。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

「エリオット=ロディアス=シルン=オルトランドと申します」


 と、俺達も順番に自己紹介をしていく。それが終わるとギデオン王は頷き、そうして言った。


「こうして迎えられたことを嬉しく思っていますよ。我が国はヴェルドガル王国、シルヴァトリア王国との付き合いも長い。今後とも良い関係を続けていきたいものですね」

「はい。ギデオン陛下。温かく迎えて頂き、嬉しく思っております」


 そう答えるとギデオン王は軽く笑って応じる。


「話したい事、聞きたい事は色々とありますが……ここでは込み入った話をするには少々向きませんね。どうでしょうか。この後、お茶でも飲みながらお話をというのは」

「ありがとうございます。それは――楽しそうですね」


 というわけで話も纏まり、場所を移動する事になった。

 ギデオン王とウェズリー。宰相と数名の武官達といった面々と共に、少し中庭を見てからサロンへと移動する。


「冬でなければ庭園の東屋でお茶会というのも悪くはなかったのですが」


 と、ギデオン王が言う。


「確かに、綺麗な庭園でした。花が咲けばさぞかし見ものでしょう」

「そうですね。春先は見事なものですよ」


 そんなやり取りをしつつ、サロンに腰を落ち着ける。


「まずは、改めてお礼を言わねばなりますまい。テスディロス殿には娘夫婦と孫がお世話になりました」


 と、そう言ってきたのはイスタニアの宰相だった。なるほど。宰相の娘夫婦とその孫、か。

 夫に関しては下級貴族だったそうで、身分差もあって当初、宰相は結婚に反対したが……紆余曲折やギデオン王からの取り成しもあって現在では和解しているとの事だ。


 フォレスタニア観光旅行での話を宰相が把握しているという事は、今はまあ、そうした話も聞けるぐらいに関係が良好という事でもあるのだろう。


 その話を裏付けるように、宰相は孫をかなり可愛がっているのだとギデオン王が教えてくれる。宰相は少し咳払いをしていた。やや冷徹で有能そうな第一印象を受ける宰相だが、そんな話をしている時は穏やかそうな表情も覗かせていた。


「というわけで、そんな話を聞いていましたので、エベルバート王からの書状を頂いた折に、お会いできるのを楽しみにしていたのです。私自身境界公に勇気づけられた事もありますが、オルトランド伯爵や魔人の方々も同行してくるかなと、期待していたのですよ」


 ギデオン王はそう言って、にっこりとした満足げな笑みを見せた。なるほど……。では、今回同行した面々はギデオン王の期待通りであったという事か。


「境界公は魔人としての力を封じる事が出来る、魔人化を解いたという話も聞き及んでいます。その上で和解や共存を目指している、とも」

「その通りです。まずは――そうですね。魔人に関する相談の前に、現状について詳しく説明し、実際に見てもらう方が先決かも知れません。経緯も含めてとなると、少し長い話になりますが」


 そう答えると、ギデオン王は表情を真剣なものにして頷く。


「問題ありません。時間は十分に作ってありますから」


 では――魔人達とのあれこれについて説明していくとしよう。魔人達との経緯について話すならば、俺自身の話にもなる。死睡の王との戦いを始まりとし……タームウィルズに向かってからの事。諸々、順を追って時系列順に話をしていく。

 明かせる部分、明かせない部分はあるが、その辺は同盟各国の都合という事で、やや曖昧にぼかした言葉に置き換える。

 そうした日々の中で知った魔人達の性質についても伝えていく必要があるだろう。


 特に封印術や解呪による影響は、五感にも影響がある、という事はきちんと理解してもらう必要がある。

 ギデオン王や宰相、ウェズリーや護衛の武官達も、その話に真剣に耳を傾けていた。


「ですから――後天的に魔人となった場合と違い、魔人として生まれついた者は様々な物を見ても無味乾燥である事に疑問を抱かないようなのです」

「封印術を受け入れる事で魔人としての力を抑えましたが、随分と驚いたものです」


 俺の言葉を補足するようにウィンベルグが言ってテスディロス達も頷くと、ギデオン王は目を閉じる。


「なるほど。だから魔人は呪いであり、そこから解き放つ事は解呪……という位置付けになるわけですか」

「娘夫婦のテスディロス殿の話も得心が行きますな」


 ギデオン王の言葉を受けて宰相が言うと、ウェズリー達も頷く。

 俺達も魔人化の解除の方法を探して、その答えとして解呪に行きついたわけだしな。

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