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番外1161 王と家臣達

「これが飛行船の内部……」


 と、案内役の面々は艦橋の内部を見回して感心したり驚きの表情を浮かべたりしていた。

 シリウス号でイスタニア国内を移動していく許可が下りたので、ウェズリー達をシリウス号内部に案内したわけだ。


 王都までシリウス号で移動するならば、当然というか一緒に乗せていった方が合理的だからな。こちらとしては見せられないものというと、星球儀ぐらいしかないわけだし。


 アピラシアやティアーズ、シーカー、ハイダーといった面々が揃って一礼すると案内役達もそれに釣られるようにお辞儀を返したりしていた。ウェズリー達も艦橋の座席に座る。

 シートベルトの使い方と理由を説明すると、納得して装着してくれていた。そこにティアーズや働き蜂達がお茶を運んでいく。


「お、おお……。ありがとうございます」

「ふっふ。中々に賑やかなものですな」


 と、案内役はやや戸惑っているが、ウェズリーは肝が据わっている印象で、笑みを浮かべてティアーズにお礼を言い、ティーカップを傾けていた。


「恐らくですが王都まではそれほど時間がかからないかなと。到着までの間ではありますが、寛いでいっていただけると幸いです」

「お気遣い感謝します」


 俺の言葉にウェズリー達が頷いた。それから――ゆっくりとシリウス号も動き出す。船着き場の海面を乱さないように、緩慢な速度で浮上していく。


 港で働いている面々も、それを見て驚いたような表情を浮かべた後で喝采をしたりと、笑顔になったりしていた。町並みの建物にぶつからない安全な高度に達したところで、シリウス号を前に進ませれば、家々の窓や沿道からも人がシリウス号を見上げて手を振ったり、物見遊山といった雰囲気だ。

 港だけでなく恐らくはヴェルドガルから飛行船がやってくるというような話を聞いていたのかも知れない。


「シリウス号については、イスタニアでも結構な噂になっているのですよ。白く美しい船と聞き及んでおりましたし、彫像や絵画……劇や吟遊詩人の題材にもなっておりますな」

「そうだったのですか」


 シリウス号は同盟各国で姿を見せているし、イスタニアは普通に国交のある国だからな。実際にシリウス号を目にした者も話を伝えていたりするだろうし、それならこうした歓迎ぶりも分かる気もする。


「懐かしいですね、この港町は。私が留学に来た時……帰国する時。何度か立ち寄っていますが、記憶とあまり変わっていないように思います」


 エリオットが町並みを見て言う。


「そうですな。王国の中枢はオルトランド伯爵の留学中から少々事情も変わりましたが、民の暮らしはそう大きくは変わっておらぬでしょう」


 ウェズリーがエリオットの言葉に答える。

 イスタニアについては少し前に先王が高齢で引退し、その孫に王位が引き継がれたという事らしい。本来ならば現イスタニア王の父が次の王となるところなのであろうが、その人物については現王がまだ幼い頃に亡くなってしまったそうだ。暗殺だとか魔人絡みだとか、そういう物騒な話ではないらしいが。


 イスタニアとしては現王が王としてはまだ若いという事もあって、王位が継承された後は国内の情勢の安定に注力していたらしい。そういった背景もあって近年のイスタニアにおける対外的な活動は控えめだったそうだ。まあ、そんな事情もあって外からではよく分からないのでエリオットの伝手を頼ろうとしていたところがあるのだが。


 高齢での引退と言っていたが、現王の年齢を考慮して引退を遅らせていたというのは想像に難くないな。


「とはいえ陛下は境界公も若い御仁と聞き及び、共感と言いますか親近感を覚えたと仰っていましたよ。オルトランド伯爵もイスタニアに留学経験があるという事で、訪問を楽しみにしておりました」


 ウェズリーがそう言うと案内役の面々も目を閉じてしみじみと頷いていた。

 なるほど。割と好印象を持って迎えて貰えている印象があるが、そういう事情があるわけだ。迎えに来てくれた面々も、イスタニア王と面識があるようだな。


「イスタニア王国の近年の事情には明るくないので、エリオット卿の伝手を頼って円満なお話ができれば、と思っていたのですが、そのあたりは杞憂だったようですね」

「でしたら僥倖というものです。陛下のお人柄や国内の事情等々、答えられる範囲内でしたら私達がお答えしましょう」


 ウェズリー達がそんな風に申し出てくれる。ウェズリーはイスタニアの学院関係者という事だが、まあ、そこから伝手を紹介してもらうまでもなく首脳陣と面識があるようで。


 今回の訪問の目的についても知っているのか尋ねてみれば、シルヴァトリアから貰った書状の内容についても教えてくれた。昨今の同盟の方針により魔人の呪いを解いて共存を図ろうとしている事と、その兼ね合いでイスタニアの協力を仰ぎたいと言うところまではウェズリーも聞いている、という事である。


「陛下は今回の訪問にせよ、その目的にせよ好意的ではありますが、イスタニアを挙げてとなると少しばかり事情が変わってきますな。この国には隣人もおります故」


 隣人……森に住まう種族だな。イスタニアの迷惑にならないよう話を通すためにここに来ているわけだし、そうなればイスタニアで暮らしている他の種族に話を通さないわけにもいかないか。


「しかし、恐らく我らから隣人に話を通すといったような形での協力は難しいでしょうな。彼らはイスタニアの臣民ではなく、あくまで隣人ですから、用向きを伝えたり紹介までは可能ですが……」

「彼の種族は誠実であることを重視しています。説得をするのなら当事者との直接の面会を望むというのは想像に難くない」


 と、ウェズリー達が教えてくれる。


「分かりました。森の隣人に関しては僕達が直接会いに行ってお話をしたいと思います」


 俺達の事情によるものだし、元より他人任せにできるところではないな。俺の返答にウェズリー達は笑って頷く。


 そうやって話をしながら港町の上空は少し迂回しておく。町の直上を飛ぶのは不安に思う住人もいるかも知れないしな。そうしてシリウス号は港町の脇を通り過ぎ王都を目指して内陸部へと進む。


 街道沿いに行けば王都に辿り着く、という事らしい。銀世界ではあるが、街道は除雪されているし、足跡や轍も残っている。街道から逸れないようにゆっくり進んで行けば迷う事もないだろう。


 街道を歩いている行商人や旅人。乗り合いのソリも時々見受けられるな。シリウス号を見て手を振ったりと、好意的な反応なのは変わらず、という印象だ。



 緯度は高めだが、森も針葉樹ばかりというわけでもなく、広葉樹も多く見受けられる。案外温暖という話だしな。


 そんなイスタニア王国の様子を眺めつつ、今のイスタニアの国内事情、王についての話、気を付けるべき事等を聞きつつ王都を目指していく。


「陛下は勤勉で慈悲深い御仁ですな。歳が若いのは否めませんが我ら家臣一同、陛下を支えて盛り立てていく所存でおります」


 ウェズリーが教えてくれる。エリオットから見てウェズリーは信用のできる人物なのか、穏やかな笑みで頷いて応じていた。

 家臣である事を差し引いて考えても、結構な人格者という事になるのか。少なくとも支えて盛り立てたいと言わせるだけの努力家であるのは間違いなさそうだ。


 俺の身の回りでは……ダリルを見て思う感情に近いところはあるかな。当人が努力をしているなら支えたい、力になりたいというのは分かる。

 民や町の様子を見ても一先ずイスタニアが平穏なのは間違いなさそうだ。とは言え、魔人絡みの話は選択を誤れば平穏の崩壊にも直結してくるし、そういう部分には甘えずにきちんと話をして理解を得たいところだ。

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