表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1934/2811

番外1160 イスタニア王国

 イスタニアに到着してからの事を話し合いつつシリウス号は進んでいく。


「イスタニアでは王都の学院に通っていました。ですから同期と恩師には多少の伝手があるのです」


 エリオットがイスタニアの人脈についてテスディロス達に説明をする。

 討魔騎士団が役割を終え、封爵された折にイスタニアには手紙を送っていたらしく、今回の事とは関係なく状況が落ち着いたら訪問するかも知れない、といった内容を伝えてあったそうな。


 だから今回のイスタニア訪問は、エリオットにとっても良い機会だったというわけだ。まあ、渡りに船だったというよりは、今回の出来事を見て力になれればと申し出てくれた、という方がニュアンスとしては近いけれど。


「では、現地に到着したらエリオット殿の学院の伝手を頼る、という事になりますか」


 オズグリーヴが尋ねてくる。


「そうですね。訪問にあたって諸注意等も聞きたいところですから。そこから話の仕方を調整して進めていこうかな、と考えています」

「貴族の子弟も通う学院の関係者ともなれば、顔が広そうではありますな」


 俺の言葉にウィンベルグも目を閉じて頷く。イスタニアの王族の性格や内情については詳しい情報を持っていないし、受け入れてもらいやすい話の切り出し方等々……情報が必要になるからな。エリオットの伝手がイスタニア国内……特に学院関係者にあるというのは有難い話だ。


 そうして話をしながら眼下に広がる海原を眺めつつシリウス号が進んでいく。

 やがて……水平線の彼方に陸地が見えてくる。かなりの高高度なのでまだ結構な距離があるが、あれがイスタニアだ。

 やはりというか、季節柄陸地は銀世界のようだ。ただ緯度相応に寒い地方ではあるが、年間を通して見た場合は気候も穏やかで、案外過ごしやすい場所という話である。


 イスタニアは島国で、国土は幾つかの島々で構成されているが、王都のある本島の面積は結構広い。イスタニアの王都に関して言うなら、ヴェルドガルとシルヴァトリア、どちらとも交流がしやすい北東の内陸部という位置にある。

 王都最寄りの港町は、くの字のような海岸線の一番奥まったところにある。立地的には王都と南北の岬――三方向から挟撃をしやすく迎撃に向いた場所に位置しているわけだな。


 空路を直線で進んできたから俺達に海路はあまり関係がないが、本来はイスタニア北東の王都から近い港町、シルヴァトリア南部とヴェルドガル北部――今のエリオットの領地――を経由する海路が確立されていたりする。

 ザディアスが襲撃を仕掛けたのはこの航路を行き来する船だ。そこにヴェルドガルに帰ろうとしていたエリオットが乗り合わせてしまった、というわけだな。


「このまま真っ直ぐ王都に向かう――というわけにはいかぬのであったな」


 と、ルベレンシアが尋ねてくる。


「ああ。一先ずの目的地としては――北東部の港町を目指す事になるかな。俺達の訪問については同盟としてのものになるって、シルヴァトリアからも事前に連絡をして貰っているけれど、それに対しては空路にしても港町を目指してきてほしいっていう解答を貰っている」


 イスタニアにとっては外国からの玄関口でもあるしな。空路という選択肢がこれから増えるにしても、そちらを経由してもらう方がコントロールしやすいし、竜籠で訪問してもそちらから、という慣例になっている。

 時間短縮のためにここまで直線航路をとっているが、これは空路故のものだ。少しばかり途中で迂回して緩やかな速度で進むというのが向こうの意向にも沿うものだろう。


 その後はまあ、シリウス号で内陸部を進んで良いかどうかを確かめつつ、街道沿いに王都を目指して進んでいけば良い。オズグリーヴの空飛ぶ絨毯もあるし、港に停泊させておいても移動その他の支障はあるまい。


 入港する際に備え、同盟旗やイスタニア旗を掲揚する準備もしてある。俺達がイスタニア王国を訪問する目的は魔人との和解、共存なので、これはヴェルドガル王国一国の意向ではなく、同盟の総意としての仕事という性格が強いものだからな。


 そうして速度、高度、航路の調整をしながら港町を目指して進んでいけば……やがて目印となる南側の岬も見えてくる。あの突端の岬を迂回して海岸線を奥へと進めば目的としている港町に至るが――。まあ、まずは岬にある砦には挨拶をしていくべきだろう。

 こうして他国を訪問する時の方式としては竜籠でのそれと大きくは変わらない。




「ヴェルドガル王国より境界公がいらっしゃるというお話は王都より聞き及んでおります。もしかしたら先に挨拶にいらっしゃるのではと、お待ちしておりました」


 高度、速度を緩やかなものにしつつ表敬の旗を掲げて砦に近付いていけば、兵士達も敬礼を以って俺達を迎えてくれた。俺達も甲板に姿を見せて挨拶をすれば、兵士達は話が通っているという事を伝えてくる。


 このまま港町から王都にシリウス号で進んで貰って構わないとの事だ。では、岬を回って目的地へと向かう事にしよう。


『シリウス号での移動許可を頂けるなら、王都で話をつけたらそのまま西の海に向かう事もできそうですね』


 グレイスがそう言うと、アルファがこくんと頷く。尻尾を振っているあたり、留守番の時間が減りそうで嬉しい、という事なのだろう。




 海面付近を緩やかな速度で滑るように飛行する。海岸線に沿って奥へと進んで行けば――やがて行く手の正面に港町が見えてくる。港町もエリオットから聞いていた通りの暖かみのある雰囲気だな。


 砦の兵士達からは案内役が港で待っているという話であったが――。


「ああ。案内役というのは私の知り合いだったようですね」


 近付いていくと港に礼服を纏った武官達と共に姿を現した人物がいて。水晶板モニターで拡大してその人物を確認すると、エリオットはどこか懐かしそうに笑みを浮かべた。


「エリオット様が同行する事を予期してイスタニア王国側も予定を組んでいたのでしょうか」

「そうかもね。ヴェルドガルとイスタニアの間で縁というか、繋がりのある人物だから案内役としては適任だと思う」


 オルディアの言葉に頷く。

 同行しているかどうか不確定でもエリオットが共通の知人である事には変わらないからな。共通する話題があれば使者とも円満な関係を築きやすい。


 シリウス号をそのまま前進させると兵士達が誘導をしてくれる。そのまま着水して船着き場にシリウス号を停泊させると、案内役の面々が桟橋までやってきた。


 早速みんなと共に俺も外に出る。


「ようこそ、イスタニアへ。皆様の訪問を歓迎いたします。ウェズリー=コーウェンと申します」


 そう言って一礼してくる初老の人物。立ち居に隙がなく、魔力も研ぎ澄まされた物で……恐らくは魔法剣士か魔術師か……。武術と魔法のどちらが主なのかは分からないが、いずれにせよ腕の立つ武人と予想される。


「お初にお目にかかります。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

「ご無沙汰しております。ウェズリー先生」


 俺やエリオットが挨拶をするとウェズリーは柔和な笑みを浮かべて改めてお辞儀をしてくる。先生という事は、彼がエリオットの恩師なのだろう。というわけで、お互い同行している面々も併せて挨拶を交わし合う。


「陛下より王都までの案内役を仰せつかって参りました。飛行船についても王都のある内陸部まで乗り入れて構わない、との事です」

「分かりました。では船内へどうぞ」

「昨今のイスタニア王国のお話も、差し支えのない事であれば教えて頂けたら幸いです」


 俺達がそう言うと、案内役の面々は穏やかに笑って頷く。一先ず友好的に迎えて貰えているようで何よりである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ