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番外1159 北方の海に

 エリオットが見せてくれたイスタニアの王都は何というか、綺麗で落ち着いた街並みという印象がある。石を積んで作られた古民家が並ぶ街並みはどこか暖かみを感じさせるものかも知れない。


 スレートと呼ばれる板状の石を重ねて壁面としてあり、家々の壁面自体が石垣のような味わいがある。


「古い民家は茅葺屋根でしょうか。何というか暖かみがあって味わい深い街並みですね」


 と、そんな風に感想を述べるとエリオットも静かに笑って頷く。


「寒い場所だからか家々も密集しているのです。人々も助け合って暮らしている印象があったので、暖かみを感じるというのは確かにそうかも知れませんね」


 冬は雪化粧だが、夏は草原に霧がかかって――如何にも涼しげだ。また、人間の王を頂く王国ではあるが、森林地帯に他の種族も暮らしていて友好的に共存している、との事である。


「ん。その辺はエインフェウスと少し似てる」

「そのあたりは確かに似ていますね。エインフェウスは獣王の下に同じ国の民として纏まっていましたが、こちらは良き隣人、という違いがあるでしょうか」


 シーラが言うと、エリオットが補足してくれる。

 なるほどな。ドラフデニアにおけるロベリアや東国の妖怪達が近い、かも知れない。妖精の女王であるから、暮らす場所は少し違うしな。タームウィルズは他種族と良い関係を築いているが、同じところで暮らしている。その辺も含めてイスタニアは色々と気になるところだな。


 シルヴァトリアからも地理的に近いし、昔から交流や人材の行き来があったからか、魔法技術も発展しているそうだ。ヴェルドガルも含めて技術体系が似ているというのはあるな。

 そうしてエリオットから色々情報を聞きながら茶を飲み、のんびりとした時間が過ぎていくのであった。




 エリオットとカミラにとっては出発前の滞在は久しぶりの休暇のようなものかも知れない。一緒にシグリッタの画廊を見て回ったり、中庭で寄り添って談笑したり……マギアペンギンの雛達と触れ合ったりと、ゆっくりと羽根を伸ばしてもらえたようだ。


 俺達も俺達でみんなと過ごさせてもらった。また出かける予定ではあるのだが……だからこそというか、一緒に過ごす時間を大切にしてくれているように思う。

 一緒に歌って子供達に聴かせたり、名前を考えたりといった穏やかな時間を過ごす。


「ふふ。これなら男の子でも女の子でも大丈夫ですね」


 と、名前の案をあれこれと話し合って考えていると、グレイスが微笑んで言った。

 男の子の場合、女の子の場合。どちらでも対応できるように色々考えているのだ。


「星も良いけれど、花の名前も素敵ね。語感だけでも色々迷ってしまうわ」


 ステファニアが頷く。地球側の星や花の名前だとか、そういうものも名前の案としては良いのではないかと言われたので、色々と挙げて元の語感を確かめたり、ルーンガルド側の言葉に再翻訳したりしているのだ。まあ、これまでにもシリウス号等々、地球側由来の名前も付けているしな。


「選択肢があっちの言語まで増えてるからね。まあ……まだ少し時間もあるし、ゆっくり考えていこう。実際に顔を見たら、これっていう名前にしっくりと来るものがあるかも知れないし」

「それも確かに――あるかも知れないわね。準備万端にしておいてもその場の閃きが勝る事もあるでしょうし」


 ローズマリーが少し想像を巡らせてから同意する。そんな話をしながら子供達用にセーターを編んだり循環錬気をしたりして……穏やかな時間は過ぎていくのであった。




 そうして数日の休息と充填の期間とも呼べる時間を過ごした後で、俺達はイスタニア王国へと向かう事になったのであった。


 今回の同行者は前回に引き続いての顔触れに、エリオットを加えてのものとなる。

 そんなわけで造船所でのイスタニアへの出発の見送りにもグレイス達と一緒にカミラもやってきている。


「怪我をしないように気を付けて」

「ああ。カミラ。行ってくるよ」


 と、エリオットとカミラも言葉を交わしてそっと抱擁し合い、別れを惜しんでいる。

 俺達もそれは同様で、1人1人と抱擁を交わして、出発前に触れ合う時間を過ごさせてもらった。


「テオドール様も、お気を付けて。説得が目的となると、普段とは違う事態も予測されますから」

「そうだね。みんなと一緒に、無事帰って来られるように気合を入れていってくる」


 真剣な表情で言うエレナにそう答えれば、みんなも俺を応援している、というように俺を見て頷いてくる。そうしてしばらくの間みんなと抱擁し合ったり、触れ合ったりしたその後で、見送りに来てくれた面々とも挨拶をして回る。


 タームウィルズやフォレスタニアのあちこちから知り合いが見送りに来てくれて、ありがたいことである。ティエーラ達も一緒なので精霊達も俺達に手を振ってくれたりと、ただでさえ動物組や魔法生物組もいるのに、片眼鏡を通しての視覚的には随分賑やかな事になっていたりする。


「まあ、出かけている間のフォレスタニアの警備巡回は俺達に任せてくれ」

「ああ。後ろの心配をせずに思い切りやれる」


 と、ロビンの言葉にテスディロス達も頷いたりして。そうしてオルディアとイグナード王、レギーナ、オズグリーヴと隠れ里の面々、ルベレンシアとヴィンクル、カルディアと……各々見送りにきてくれた面々と言葉を交わしたり、拳を合わせたりして。それからシリウス号に乗り込んだのであった。


 甲板から手を振り合い――シリウス号がゆっくりと高度を上げて。そうしてイスタニアに向けて出港する事となる。

 イスタニアでの滞在もネシュフェルの時同様、それほど長くなる予定ではないが、念のために食糧を追加で積み込んでいるし、例によってランタンや魔法の鞄を借りて魔道具も持ってきているので、色んな状況に対応できるだろう。


 ネシュフェルに行った時のような高高度を取り、速度を上げて直線航路を選ぶ。ただ、今回は隠密性を高める必要がないので迷彩フィールドは展開しなくて大丈夫だろう。

 後は驚かせないようにイスタニアが近付いて来たら高度や速度を落としていけば良い。メルヴィン王から事情を説明するための書状を預かっているし……シリウス号自体も音響砲はともかく通常の兵器を積んでいないからな。問題を起こさないよう、穏便に進めていきたいところだ。




 イスタニアまでの最短距離での航路は――星球儀で見ると海原を越えていくルートとなる。高度を高く取っているので脇に島々は見えるが、どこかの領地に属する島の上空を直接通過する、という事はなさそうなので気楽なものだ。


「ウォルドムから聞いた話によると、イスタニア王国の西……この辺りから急に海底が深くなっていて、この辺に天然の海底洞窟があるらしい。封印を残したのも、このあたりだね」


 星球儀を見ながらみんなに説明する。グレイス達もフォレスタニアの通信室に戻ってきて、みんな真剣な表情でその話を聞いていた。


「そのような場所となると、イスタニアの反応が悪いものだったとしても、直接ウォルドムの遺した封印に手出しをするのは難しそうですな」


 オズグリーヴが思案しながら言う。

 そうだな。具体的な場所を知らなければ耐水圧、水中呼吸といった深海での活動に魔法的対策を取れる魔術師を有していても、場所を探す事自体難しい。

 ただ、こちらとしても封印を解いて説得するという手順を踏む手前、イスタニア王国側に話を通さないわけにはいかない。

 仮に説得が失敗した場合の事を想定するなら、やはり近くにイスタニアがあるわけで……その辺は配慮する必要があるからな。

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