番外1158 イスタニア訪問に向けて
「ネシュフェル王国やイスタニア王国への書状もそうだが……他にも協力できる事があれば力になる故、気軽に相談してくれて構わぬぞ」
「私も今回の一連の作戦、計画については応援している。父上に比べれば微力ではあるが、私も同じ気持ちでいる。困った事があれば力になろう」
「ありがとうございます」
メルヴィン王とジョサイア王子からそう言われて、俺からも一礼する。顛末を口頭で伝えて現地の映像も見てもらい、二人ともガルディニスの遺品については一先ず安心してくれたようだ。
「ウォルドムとの約束については、ガルディニスの約束とはまた別の危険がある、のかな。説得しなければならないのだろうし」
「そうですね。分類としては救出作戦という事になりますが……問題としては封印されている者が目覚めた後でしょうか。とは言え、話を聞いてもらう段階は踏めるかなとは思っています」
テスディロス達も引き続き同行してくれるようだしな。魔人達であるが故に、覚醒魔人と同行しているならばいきなり戦闘とはならないだろうし……それに、ある程度ではあるが、説得のための作戦と目算はある。
説得すると一口に言っても、それがこれまで敵対していた種族で、情報を断絶されていたともなれば結構な困難も予想される。俺が魔人との和解を目指しているとか、魔人化が解除された実例があるとか、そういった情報が一つもないからだ。
そこに絶対はないのかも知れないが……約束をした以上は最善を尽くしたい。そういった俺の考えを伝えると、メルヴィン王とジョサイア王子は真剣な表情で頷いていた。
そうして報告とこれからの予定について少し話をした後で王城を後にした。
通信機で確認を取ってみれば、一緒に帰ってきたオズグリーヴ達は少し街を散歩した後で、すでにフォレスタニアに戻った、との事である。
では――俺もフォレスタニアに帰るとしよう。
水晶板を運んでくれるティアーズと共にタームウィルズの街中を移動し、知り合いと挨拶をしながらフォレスタニアへと戻る。
「おかえりなさい、テオ」
「おかえり、テオドール君」
「ああ。ただいま」
城に到着するとみんなが笑顔で迎えてくれる。前に冥府から戻って来た時にシーラがしたように、マルレーンが両手を広げて駆け寄ってくる。それを軽く抱き留めると、マルレーンは嬉しそうな表情で肩を震わせる。前にそうやって俺を抱擁してきたシーラも、マルレーンに継承された事にうんうんと頷いたりしているが。
そうして、みんなと順番に抱擁していく。グレイスやイルムヒルトからそっと頬や髪を撫でられたりして。腕の中の温かい体温と鼻孔を擽る仄かな香りが心地良い。
荒事も予想される場所だとみんなは流石に同行できないからな。出かける時と帰って来た時は恒例になっているような気がするが、俺としても帰ってきた実感が湧いて安心するというか。
「監視の目の配置も上手くいった様で何よりね」
「そっちの様子を見ながら、ネシュフェルの文化や魔法技術も色々面白そうなんて、そんな話をしていたわ」
「そうだね。今回はネシュフェルの王都までは見てこられなかったけれど、独自の発展をしていて、確かに面白そうだった」
抱擁し合っての離れ際、ローズマリーとクラウディアの言葉に笑って頷く。
「私達の体調は往診でも良いものだったわ」
「執務や街の様子にも異常はありませんでした」
ステファニアやアシュレイもそんな風に言って留守中の事についても教えてくれる。
「うん。みんなが元気そうで安心した」
「ふふ。テオドール様がお帰りになられた時の、この賑やかな雰囲気、好きですよ」
俺が返答するとエレナもそんな風に言って。
そうだな。帰ってきたという事で城の正面ホールに城の面々や動物組、魔法生物組も集まって迎えてくれているので、何というか賑やかな事だ。
コルリス、アンバーやティールにオボロといった面々がハイタッチの構えで迎えてくれたので、そのまま動物組や魔法生物組、ユイやリヴェイラ、ヴィンクルにカルディアといった面々とも掲げた手と手――翼や尾などもあったりするが――を合わせて少し笑い合う。
シャルロッテもにこにこしながらそれに混ざっているが、まあ、これもいつもの事だろう。
そうやって再会を喜び合ったところで、帰ってきてからやるべき事として、ネシュフェルの様子を見られるように、ティアーズ達の水晶板を通信室に配置していく事となった。
水晶板を配置すると、アピラシアが自分の胸のあたりに手を当てて、こくんと頷く。その背後で働き蜂達が整列してお辞儀をしてくる。見張りは任せてくれ、という事なのだろう。
「分かった。それじゃあ休憩時間も挟んで交代して魔力補給もできるように、ローテーションを組もうか」
俺の返答にアピラシアはこくんと元気よく頷き、ティアーズとシーカー、ハイダー達も俺の言葉に応じるように手を上げてきた。うむ。
そうして少し話し合い、ローテーションを決めていく。中継先に何か動きがあれば警報を鳴らして知らせてもらう、と。現地には転移で移動できるからな。
後はシリウス号、タームウィルズ、ネシュフェル間で転移できる体制を整えておけば、出先……例えばイスタニアや各地の魔人達の会合場所に向かった際にガルディニスの隠れ家に何かあっても即対応ができる。
時間稼ぎもできるようにメダルゴーレムも配置してきたからな。まあ、出先と隠れ家で、同時に何かあった場合でも分担して動けるように体勢を整えておくとしよう。
そうして……ネシュフェルからフォレスタニアに帰ってきて一夜が明ける。フォレスタニアは平穏なもので、みんなとの時間ものんびりと過ごさせてもらった。
執務に関しては……留守にしていた期間も短かったからな。書類も然程溜まっておらず、あまり時間もかからずに処理する事ができた。フォレスタニアも、シルン伯爵領も大きな問題もなく推移しているようだ。
イスタニア王国への訪問も控えているという事で、エリオットとカミラが訪問してきたのはその日の事だ。
俺達がネシュフェルに行っている間に執務も一段落させ、留守中の体勢についても整えてきたとの事で、エリオットとしても出かけるための準備をきっちり整えてくれていたらしい。
カミラと共に早めにフォレスタニアにやって来て、少し羽根を伸ばしてからイスタニアに出発する予定だ。エリオットとカミラが一緒に過ごす時間も確保してあるから、フォレスタニアで息抜きもしていってもらえたら、というところだ。
「よくいらっしゃいました。お二人とも元気そうで嬉しいです」
と、アシュレイも笑顔でエリオットとカミラを迎える。
「ああ、アシュレイ達も元気そうで私も嬉しい」
「ふふ、暫くの間、よろしくお願いしますね」
エリオットとカミラも笑顔でそれに応え、俺達もエリオット達と挨拶をかわす。
それからセシリアが、フォレスタニアにいる間、滞在してもらう貴賓室へと二人を案内。手荷物等を置いてもらったところで、みんなでサロンへと向かう。
サロンでも通信室と中継映像でやり取りができるので、各所と会話をしたり、ネシュフェルの様子を見たりできるようになっているな。
腰を落ち着けてエリオット達からネシュフェルについて質問されたりした。現地の様子等々、マルレーンのランタンで映し出して説明する。
「独自の紋様魔法というのは興味深いですね」
「紋様魔法に限って言うなら、かなり生活に根差しているようでしたよ。王都や歴史も、次の機会に訪問した時に調べてみたいとは思っています」
街並みや人々の様子を映し出しながら解説をする。ネシュフェルの人々が身体に描く紋様魔法については刺青の場合もあるが、染料で肌に紋様魔法を描いたりというのもあるようで、情報収集をしている時にそれ専用の店も見ている。
「染料でも中々消えないので一週間程効果を発揮するそうですよ。兵士や戦士達……日常的に紋様魔法を必要としている面々は、必要に応じて刺青にしていたりするそうですが」
あまり無計画に色々入れると効果が混ざったり、当人の魔力を消耗してしまう事もあるそうだ。魔力量に応じて幾つか厳選したり、かなり入念に準備して計画的に複数の紋様魔法を入れたりもするそうだが……。
デュオベリス教団でも似たようなタトゥー系の術は使っていたっけな。ネシュフェルの文化もガルディニスが知っていたのなら、応用してもおかしくはないか。
そういった話をすると、エリオットとカミラは楽しそうに耳を傾けていた。そうして、お返しという事でエリオットも留学していた当時のイスタニアの様子を、ランタンを使って教えてくれたりするのであった。