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番外1155 王子達の探索

 ネシュフェルの探索班が滝の周辺に辿り着いたのは、俺達がジャレフ山で待機してから一夜が明け、昼を過ぎたあたりの事だった。

 俺達はと言えば、シリウス号内で早めに昼食を済ませて、遠方から生命反応の位置に注目しつつ待っていたところだ。

 山の川沿いは雨が降ると増水して危険だ。探索班もそれは分かっているようで、川沿いを上流に遡ってくるような動きはしていないようだ。


 生命反応の動きからすると川の左右を別々の班で分担し、ある程度の間隔を広げて探索を進めていたようだが――やがて彼らは茂みをかき分け、少し開けた場所に出て来る。

 滝と、滝壺のある場所だ。崖に配置されたハイダーの視点では、滝を見上げている探索班の様子が見て取れた。


「到着したようだな」


 テスディロスがその映像を見て言う。


「ああ。後は上手く見つけてくれるのを待つ事になるね。全く見つけられないようなら気を引くための方法もないことはないけれど」


 現地にハイダー達がいるから、岩を崩して音を立ててみる等のやり方がないわけではない。見つけるきっかけを簡単にしてしまうと作為的なものを感じてしまうかも知れないので、あまり積極的に取りたい手段ではないけれど。


 というわけで、水晶板を通して動向を見守っていく。彼らとしても森の中を進んできて、開けた場所に出たからやや安心し、滝を眺めて人心地付いていたようではあるが、やがて気を取り直した様子で、周囲の探索を再開する。

 崩れている岩が気になったのか、その場所に歩み寄っていったが――。


『……これは……魔石、か?』


 と、上手く砕けた岩の中に埋め込まれている魔石を発見してくれたようだ。


『待て、迂闊に触るな……!』


 という隊長らしき男の声。しかしそれは僅かに間に合わず、兵士が魔石に触れると、魔石にギリギリ残った魔力で空中に不完全な滝壺の幻影が映し出され、ノイズが走って消える。


『い、今のは――?』

『幻術……。ぎ、偽装のためのものか!? い、今すぐ本陣に連絡を!』


 探索班の動きがにわかに慌ただしくなる。地面に紋様魔法の描かれた布を広げると、それを囲んで跪き、手を翳して目を閉じ、魔力をこめるような仕草を見せる。と――黄色い光の柱のようなものが天に向かって昇っていく。布の端から焦げていっているようだが……。


 なるほど。紋様魔法と儀式魔法の応用か。魔力に乏しくとも複数人であるなら、ああして紋様魔法の描かれた布に魔力を注ぐ事で、ガイドビーコンのような術を使える、と。用途としては狼煙や信号弾のようなものだろうが……。


 そんな探索班のビーコンは本陣にも伝わったようで。発令所も俄かに慌ただしくなる。


『殿下、外をご覧ください!』


 と、発令所に駆け込んできた兵士達の言葉に、オーラン王子も将官達を連れて天幕を出る。


『黄色か。……何か発見したようだね』


 状況によって打ち上げる光の色を変える決まりになっているのか。オーラン王子は真剣な表情で頷くと、地図と磁石を持ち出して光の方向と部隊の配置状況から大凡の位置を割り出して頷く。


『私達も現場に向かうとしよう』


 そう言ってオーラン王子達は準備をすると、将官や護衛の兵士達を連れて野営地を出発するのであった。




『偽の隠れ家もきっちり発見できたようで何よりね』

「このまま問題なく調査を進めてくれそうではあるね」


 通信室で状況を見ていたローズマリーにそう答えると、みんなも真剣な表情で頷く。


 目的地がはっきりしている上に野営地に数頭の飛竜を有してるという事もあり、それほど時間もかからずにオーラン王子は現場に到着した。


『周辺の風景と似た幻影が僅かな間だけ映し出されました。魔法的な仕掛けもあるものと判断し、目視の確認と共に周辺の警戒を優先しておりましたが……』


 という隊長の言葉を肯定するようにオーラン王子は大きく頷く。報告通り、目視だけではあるものの、滝裏の足場も発見しているからな。


『他のものに触れなかったのは良い判断だ。魔道具に触れてしまった彼は大丈夫なのかな?』

『はい。今のところ体調の変化はありません』


 オーラン王子の言葉に答える兵士達。

 その言葉を受けて、将官達が紋様魔法の描かれた盾を取り出してそれを幻影の魔道具に向ける。紋様魔法の内容からすると、魔除けや護符の類か。


『反応は――ありませんな。魔道具も機能停止してしまったようですし……これは、壊れているのでしょうか』

『魔石に罅が入っているようです』


 将官が触れると、魔力を送ったのか、また一瞬ノイズ混じりの周辺の風景が空中に映し出されて消える。


『幻影を風景に被せる事で――滝裏にある台座のようなものを隠しているわけか』


 オーラン王子は幻影と実際の風景との差異を目ざとく見つける。


『滝の裏、か』


 将官達が魔除けの盾を翳しながら滝裏の足場へと近付く。方式の違う紋様魔法等々、細かい部分も発見、分析して探っている様子であったが、やがて、入り口を開くための小さな魔石を発見する。


『殿下、魔石が嵌っているのを発見しました。紋様に反応は――ありません』

『起動してみる、しかないか』

『では、私達が』


 そういう反応になる、よな。対策としてはきっちりしているが、ガルディニスの本物の隠れ家だったら、扉を開こうとした時点で全滅してしまう可能性が高い。あの魔除けの盾で防ぎ切れる規模ではないようだしな。


 あの盾は盾で、魔法罠の感知も出来る便利そうな品ではあるが。

 盾を構えたまま、ゆっくりと、魔石に触れる。魔力を流せば――岩がスライドして内部に繋がる通路が口を開ける。


『おお……』

『デュオベリス教団の……本当にあるとは』

『まだそうと決まったわけではない。慎重に内部を調べていこう』


 ざわめく将兵達をオーラン王子が諌める。


『誰か、本陣から本国への伝令を。数名が外の見張りを行うように』


 退路の確保や本陣、本国への連絡など、色々とオーラン王子はしっかりとしているな。それだけに見ている俺としては些か落ち着かないところがあるが。


 王子は自分で乗り込みたかったようだが、将官達はそんなオーラン王子を押し留め、安全が確認できるまでは、と説得する。

 オーラン王子は残念そうではあったものの、将官達の言葉に納得したように頷くと、外で待機する事にしたようだ。


 別の水晶板に目を移せば、カンテラと魔除けの盾を手に、偽隠れ家内に入ってきた将兵達の姿が映し出されていた。


 照明の魔道具は自動点灯だ。通路を抜けた瞬間に内部が明るくなると入ってきた面々が身構え――そうして広間にある実験器具や大釜を目にして、驚きの表情を浮かべていた。


 そうして、あちこちに魔除けの盾を翳しながら内部の安全確認を一通り行い……それから将兵達は頷き合って、外で待っていたオーラン王子を呼びに向かう。


『攻撃的な魔力はないようです』

『照明の魔道具や実験器具から僅かな魔力の残滓があるぐらい、でしょうか』


 ハイダーに関しては天井の高い部分にいるし、盾を近付けられそうになったら活動魔力を抑えていたからな。魔除けの盾に関しては、紋様からその働きを見て取る分には攻撃性のある魔力を感知して防御する、という仕組みのようだから、攻撃能力を持たないハイダーは見つからずに済んでいる。


 さて。こちらの狙った通りに王子達は魔導書も発見してくれたようだ。後はここから、ガルディニスの伝言に目を通し、どんな反応をするか、だな。ここにある物品を回収して撤退を決めてくれたら……俺達としても一安心ではあるのだが。

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