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番外1152 王国の対応は

「1人か? どこから来た?」

「ん……。東の道を通ってきた……はずなんだけど、どうも道に迷っちゃって。途中で動物? 魔物? に追いかけられたりして……お金も落としちゃって……はぁ」


 と、その場にへたり込み、少し疲れたような口調で答える。体重を預けていた杖は、節くれだった木の杖……に偽装したウロボロスだ。

 門番達は俺の反応に顔を見合わせると、まずは手を差し伸べ、立ち上がるように促してくる。


「まあ……災難だったな。被り物を外して顔を見せてみな」


 指示に従い、杖を支えに立ちあがってフードに扮したウィズを脱ぐと、門番達も少し驚いたような表情になる。


「髪の色がやんごとない方々に似ているって言われて……それで、恐れ多いし、騒動に巻き込まれないよう、そのあたりは隠すようにしてるんだ」

「なるほどな。まあ、確かに……。セルケフト陛下やオーラン殿下と似た髪の色かもな」


 セルケフト王にオーラン王子、か。その言葉に頷き、少し慌ててウィズを被り直すと門番は少し笑う。


「お二方とも寛大なお方だから、大丈夫だと思うけどな」

「それより金を落としたって、そっちの方こそ大丈夫なのか?」

「ええと、売り物は無事だったから。それでなんとかしようかなって」


 と、俺は革の袋を少し開いて、木と石の彫像を門番達に見せる。サバンナで見た動物、魔物達の姿を模した彫像だな。


「こいつは、坊主が?」

「ああ。自分で作った」

「すごいじゃないか。この鷲なんて、相当立派なもんだが」


 門番が興味を示したのは、翼を広げて飛び立とうとしている鷲の彫像だな。


「こいつは良いな。もし俺が買えば、今日の宿代ぐらいにはなるか?」

「それは助かるけど、良いの?」

「ああ、これだけ出来が良ければな。いくらだ?」


 ネシュフェルとの貿易や相場についてもファリード王から聞いている。危険な道を運んでくる事を加味すると値段は結構上がるので、それを差し引いて更に少し割安にしたぐらいが相場だろう。バハルザード側から運ぶ前の値段が参考にしやすいところだ。


 銅貨3枚と伝えると、そんなに安くていいのかと言われた。

 まあ、不要不急の工芸品扱いだからな。

 こういうものは精巧で芸術性もあれば値段も上がるものだが……その辺、芸術性はどうかと言われると俺としても別に自信があるわけではないので、美術品としての値段では流石に売れない。


 それに製作者が直で販売すれば、卸売、小売といった仲介を挟まないからな。安く捌いてもいい、というのは道理だろう。


「値段以上に価値があるって言ってもらえてるみたいで嬉しいけどね。でもまあ、作った本人から買ったら安くなるものだし」

「なるほどな」


 と、笑顔で門番とやり取りし、銅貨3枚で鷲の彫像を売る。そういう事なら俺も、ともう一人の門番も言って来て、こちらは大きな牙の生えたライオンの彫像を買ってくれた。こちらも銅貨3枚だ。


「ありがとう。助かるよ」


 と言うと、門番達は「頑張れよ」「それならきっと売れるさ」と笑って応じてくれる。

 割と親身になってくれる門番達なので少し質問もしてみた。

 露店として店を広げても良いし、こういうものを扱っていそうな店に売り込みに行くのも問題ないと、門番達が教えてくれた。


 銅貨6枚も得たし……これなら売る側ではなく、店で買い物をして情報収集に当たる、という事もできるな。そうしてお互いに手を振り合って街の中に入る事ができた。


『親切な方々でしたね』

「そうだね。今の話だけでも色々有益な情報を得られたし、貨幣も手に入ったのはありがたい」


 艦橋では水晶板越しにグレイスが笑顔を見せていた。俺もその言葉に同意する。

 後は……そうだな。宿を見つけて一泊していくとしよう。物を捌きつつ情報収集し、円満に街から帰ると言うところまでやって、門番達にも安心してもらうというような方向で動いていきたいな。


 それに、宿に泊まっている間にも準備できる事がある。情報収集が終わって今後の方針が決まったら夜間にそちらについての相談と作業を進めていこう。


 さて。一先ず街の中に入れた。

 補給のために軍は駐留しているが、一般市民や行商人も往来を普通に歩いているし、あちこちで談笑していたりと、不穏な空気はない。

 活気があって兵士達も受け入れられている感があるので……軍の統制もしっかり取れているし、統治者が慕われている、というのが窺えるか。


 実際に街を歩いてみればまあ、こういう空気から統治者達の普段の様子も伝わってくるものだ。精霊達も明るい様子で、視線が合うと手を振って楽しそうに飛んでいくシルフの様子も見て取れた。


 街の雰囲気は良いものだな。異国情緒もあって情報収集という目的はあるが、中々楽しいものだ。


 まあ……とりあえず露店に関してはある程度暗黙の了解で動いているが現場の兵士達に聞けば分かるだろうとの事である。


 門番達は親切だったので色々質問したい事もあったが「何故兵士がこんなに多いのか」等は、街中の様子を見た後でないと質問するには不自然だったからな。あの場では怪しまれないためにもあのぐらいで良いだろう。


 そうして街中をしばらく歩いて、露天の並んでいる通りを見たり、店を眺めたりして、それから露店を出す事にした。兵士達に話しかける話題作りにもなるしな。


 露店を出す場所などを巡回中の兵士達に質問する傍らで、妙に兵士達が多いのではと、質問をしてみる。


「ああ。何だか、ジャレフ山の山中に、危険なものがあるかも知れないって噂が立ってな」

「デュオベリス教団の教祖が何か持ち込んだんじゃないかって話だ。この街で教団員が捕縛されてから、かなり話題になって不安が広がっていたからな」

「その上、教団の隠し財宝があるんじゃないかなんて噂まで立って……セルケフト陛下が山への立ち入りを禁じると共に解決に乗り出してくれたってわけだな」


 なるほど。結構大きな噂になってしまって、お上が解決に乗り出した、と。

 俺達としては教団員と繋がっている者がいるか、或いは教祖の足取りを追ってきた者が捕縛されたかと推測を立てたが、その辺は当たっていたらしい。


 そうして事態の解決に際して派遣されてきたのが人望のあるオーラン王子という事で……不安が一転、逆に街が賑わっている状態という事らしい。


 しかし噂とはいったが……教団員が捕縛されているなら実際定期的に教祖が南方に出かけてジャレフ山に通っていたらしいと言うところまでは調査で掴んでいるのだろう。

 単なる噂ぐらいではここまで大部隊を動かさないだろうから王としては「教祖に絡んだ何かがあるのだろう」と言うところまで見積もった上で部隊を動かしていると思われる。


 そもそもガルディニスが健在であれば教団員が足取りを追う事もなく、こんな騒動にもならなかったのだろうが。


 だがまあ、そうだな。これだけ発覚に至る経緯がはっきりしているのなら、経緯そのものに裏は無さそうだ。王と王子も人望のある人物という事が分かったし、こちらとしても方針を定めて動いていける。


 何というかこうして色々話を聞くと、尚更に火種になるようなものは残せないと感じてしまうな。

 ガルディニスと約束した手前もある。しっかりと監視の目を置いて管理した上で、きっちりと回収できるように動いていきたい。


 では――このまま露店を出して今の話の裏付けを取りつつ、作戦について話し合っていくとしよう。当初想定していた作戦から少し軌道修正をすれば問題なく実行に移していけるはずだ。

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