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番外1150 天幕の中で

「それじゃ、カドケウス、バロール。お願いしても良いかな?」


 迷彩フィールドを維持したまま、野営地まで少し距離を詰めたところで言うと、カドケウスとバロールはそれぞれこくんと頷いた。

 では始めよう。野営地内部に潜入しての諜報活動だ。彼らの行動理由を割り出すのが目的となる。


 というわけでカドケウス、バロールと共に甲板に出る。バロールも……潜入まではしないまでも、カドケウスの出撃をサポートしてくれる。


「始めよう」


 そう言うとバロールが迷彩フィールドを纏う。ウィズやウロボロス、ネメア、カペラにアピラシアといった魔法生物組の面々がそれぞれ気を付けて、というように挨拶をしていた。

 そうしてそれに再び頷いて答えたカドケウスはバロールの脚に捕まるようにして甲板から飛び立つ。


 眼下に広がる山中へと、カドケウスと共に音も無く緩やかな速度で降下していく。


 そうして山肌まで降下したところで、カドケウスは地面と同じような質感に変化すると野営地目掛けて進んでいった。鳥になっても良かったのだが、この辺の生態系を把握していないからな。そんなわけで動物に擬態した場合に思わぬボロを出す事もあるから、甲板から地面に降りるまではバロールにサポートしてもらったというわけだ。

 バロールはカドケウスが出て行ったのを見届けると、迷彩フィールドを維持したままで直上に浮かんでくる。


『ん。おかえり』


 と、ティアーズが持っている水晶板の向こうでシーラが言うと、バロールも目蓋をゆっくり開閉して挨拶を返していた。そんな様子にイルムヒルトもくすくすと笑っているが。


「それじゃ、艦橋に戻ろうか。俺はカドケウスの制御に集中するけど、ウィズも手伝ってくれるから、ランタンでの状況再現と土魔法での模型作りも平行して出来ると思う」

「それは……分かりやすくて良いですね」


 オルディアが俺の言葉に笑顔を見せる。きっと役に立つからという事でマルレーンもランタンを貸してくれた。

 というわけで艦橋に腰を落ち着け、カドケウスと五感リンクを行っていく。

 カドケウスは地面の質感を再現したまま薄く広がり、野営地に向かって滑るように移動中だ。


 見張りの兵士達もいるが――視線が高過ぎるな。遠くからの接近を見張るのが通常の動きだから仕方がないが、カドケウスの場合は、注視していても気付けないし、移動中も全くの無音だからな。見張りの兵士達をやり過ごし、日陰になっている天幕の影へ滑り込む。


 一先ずは――この場所なら見つかる事もあるまい。地面と天幕の隙間から少しだけカドケウスを潜り込ませて天幕の中を確認していく。

 ……寝袋が並んでいるな。兵士達が寝泊まりしているようで、ここは目的の場所ではないが……天幕の中に収容している寝床の数などは数えておこう。それで野営している兵士達の規模なども、おおよそのところが分かる。


「ここは兵士達の寝泊り用、と」


 カドケウスの視界を再現した幻影を映し出しつつ、土魔法の模型に寝床とその数を再現していく。天幕の中身を見たら次の天幕へ。


「こっちは食糧庫で……こっちは武器庫か」

『装備品も山での行動を想定しているようですね』


 グレイスがそれを見て言う。

 そうだな。色んな状況に対応できるように弓や槍も持ち込んでいるようだが、山刀や鉈、斧を多めに持ち込んでいるのが窺える。標高の低い部分には森も拡がっているし、伐採して進むためにはこうした装備も必要になるか。

 更に標高が高くなると、植物もまばらになるので伐採の必要はなくなるが。


 そうして部隊の規模や装備、貯蔵されている食糧の量などを一つ一つ把握していく。本命は――野営地の中心部、入口に旗竿が置かれた天幕だ。発令や会議を行うならその場所だろう。


 本命と分かっていても後回しにしたのは、その場所に張り付く可能性を視野に入れているからである。

 隣には指揮官用なのか、個人用の天幕も設営されているようだ。見張りも置かれているので、念入りに調べるならやはりこの辺だろう。


 そうして内部を覗いてみれば――。そこには士官と呼んでいいのか。兵士達の上役達が顔を付き合わせている光景が飛び込んでくる。


 外の兵士達よりも上等な衣服や装備に身を包んでいるのが窺える。ネシュフェル王国軍の指令系統は分からないが、同系列の装備なのでやはり司令官や士官といった立場に属する面々なのだろう。

 今は……丁度兵士達の報告を受けて話し合いをしているところのようだ。


「では――この付近の捜索は切り上げても良さそうですね」

「あれだけ人を入れて何もないとなれば、北側中腹までは外れ、ですか」

「もっと標高の高い部分や山岳の奥地となると、今よりも危険が予想されますな。魔物は少ないし、動物はこちらの方が頭数も多いので向こうから逃げますが……寒さと足場の悪さばかりは如何ともしがたい」


 と、士官達がテーブルの上に広げられた地図を見ながら今後の方針を練る。カドケウスを天幕の内側に沿うように伸ばして上から見てみたが……ああ。これは良い。山の大まかな地図に、これまで捜索したルートのような図が書き込んであるのが見て取れる。


「良いね。この情報は求めていた」


 彼らがここにいる理由とは違うが、場合によっては必要になってくる情報だ。早い段階でこの情報が得られたのは有難い。

 全体像の模型とは別に新たな模型を作って、地図上の情報を再現しておく。

 後は……司令官かその副官あたりの天幕を調べて、ネシュフェル中央や彼らの上役からの命令文書等を探すか、会話から目的を探るか。


 いずれにしても先程の会話から、何かしらを探している、というのは間違いない。


「しかし……こうも外れが続くと兵士達も徒労感を覚えてしまうでしょうな」

「訓練も兼ねての捜索ではありますが、無駄足となれば確かに士気にも関わってきますね。彼らを労う事を忘れないように」

「はっ」


 この中で一番立場が上の人物は――士官達の中では比較的若い人物だな。褐色の肌に灰色の髪。精悍そうな顔つきの人物で、口調も物腰も丁寧だが意志の強そうな人物だ。第一印象としては……知り合いの中ではエリオットに少し似ている、かな。


「しかし、標高の高い場所は危険というのは私も聞き及んでいますが、やはりというか、それほどに、なのですか?」

「そうですな。山に詳しい者によれば、高い場所に行けば行くほど凍えるし、息も乱れやすくなる、との情報を得ております。天の頂きは命ある者の訪問を拒むのだとか」

「なるほど……。あるかないかすらも不確定では――兵達を徒に危険に晒すわけにもいきませんね。その辺りを理由に兵を退く事を視野に入れる、というのも良いのかも知れません」


 と、真剣な表情で思案しながら言う司令官。


「しかし殿下。王命を果たせなかったとあれば……」

「はっは。そうであるからこそ指揮官として志願したのです。元より不確定な危険を除くための任務。王族の私であるなら、失敗したとしても貴方達が責を問われる事もない。陛下もその辺りの事は分かっているからこそ、承諾して下さったのだと理解していますよ」


 と、司令官は楽しそうに笑って答える。


 ……なるほどな。この口ぶりから言うとやはりデュオベリス教団がらみで、どこからか情報を得たか。不確定と言っていたが、そのあたりは教祖の修行場に遺産があるかも、などと教徒達が見做しているから、かも知れない。


 ガルディニスからの情報では南方に修業に向かう事だけは伝わっていても、それ以上の事は教団の者達に知らせていない。遺産のようなものがあるかも、というのも追い込まれた者達の希望的観測なのだし。


「殿下……」


 将兵達は殿下と呼ばれた人物――王子の言葉に、感じ入っている様子であった。


「しかしそう言われては、我らとしても結果を出したくなってしまいますな」

「あまり気にせず、無理はしないように。兵士達はそうした事とも無関係ですからね」

「肝に銘じておきましょう」


 と、武官達は状況を見るために発令所を出て行った。後は――探しているものがガルディニス絡みであるという確定的な言葉か証拠……裏付けがあれば良いのだが。

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