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番外1149 山中に陣取る者は

「なるほど。高空から見るとあちこちへの水源となっているのですな。周囲に川となって流れる、と」


 高空からの映像や星球儀を見比べて、オズグリーヴが頷く。


「砂漠地帯を抜けた後だからこの辺りは降雨量もそこそこあるようだからね。それでも山があると纏まった水源を形成しやすいから」


 幾つかの高山が連なる山脈で――そうした山々の地形に沿って氷河が形成され、やがてそれは標高を降ると共に溶け、川や伏流水となって山周辺の各地に流れ込む、というわけだ。

 ガルディニスが選んだのはかなり標高の高い山脈の奥地であるから、間違いなく人が来るには厳しい。あの場所に徒歩で向かおうとするならば、切り立った崖を登攀するか、クレバスのある氷河を遡っていくしかない。どちらも危険度が高いというか、空を飛べないなら辿り着くことは相当な困難が予想されるな。


 ネシュフェル王国はこの山脈より少し離れたところにあるようだが、山から流れていった川が大きな湖になっているところに国があるようなので、この山が果たしている役割は結構大きなものだろう。


「バハルザードにとっての水源か、と言われると……少し違うようだな」

「そうだね。バハルザードは……大元を辿れば更に南の熱帯雨林が水源になってる」


 星球儀を見て言うテスディロスに俺も頷いて答える。

 星球儀では熱帯雨林地帯と、そこから北にあるバハルザードへ向かって伸びていく大河、というのがよく分かるな。


 ガルディニスの仕掛けた罠に関してはバハルザードに直接的な被害を及ぼしはしない、というのは、ファリード王にとっては一先ず安心できる部分ではあるか。


 一方でネシュフェルにとっては……迷惑な話だろうな。

 罠が発動してしまえば、仮にネシュフェルに直接害が出なくても周辺部族への影響は避けられない。近隣部族の混乱は治安にも影響が出る可能性もある。


 とはいえ、こちらとしてもネシュフェルの国内事情を知らない内に、今以外の方針は立てにくかったりする。

 ネシュフェル王の人となりや周辺部族との関係性であるとか……その辺を全く知らずに危険性だけ喚起しても意味がない。

 例えば火種を求めているだとか野心的な人物がネシュフェルの指導者であるなら、周辺部族との関係悪化はその人物にとって望むところだからだ。


 だからまあ、情報収集はしても余計な接触を避ける、というのが今回の方針である。そうでなくてもガルディニスの遺した品というだけで火種になりかねないからな。存在を知られないままに回収してしまうのが理想というものだ。


 そうやって話をしながらあちこち見ていたが――。


「あれは何かの?」


 と、モニターの一つを見ていたルベレンシアが首を傾げ、そちらにみんなが視線を向ける。


「野営をしているのでしょうか……?」


 オルディアが言う。そうだな。

 何やらネシュフェル側の山の中腹より少し下あたりに、野営をしているらしき一団を発見した。なだらかな斜面に天幕を張っている、武装した一団がいるのが見て取れる。

 デュオベリス教団……ではないな。装備が統一されているし、旗竿が掲げられている。


「旗竿の紋章……。これはネシュフェルの軍部、か?」

「軍部……確か、この山岳地帯はネシュフェルの統治下からは外れるという話でしたが」

『装備を見ると……防寒用かしら? 遠征という雰囲気でもなさそうだわ』


 ステファニアが言った。

 そうだな。水晶板で拡大してその装備品を見てみれば……どこかに攻め入る格好ではないのが分かるというか。

 何やら動物の毛皮を加工した防寒用装備なのだ。山に踏み入る事を想定した装備であるのは間違いない。


「この山で活動するのを視野に入れておりますな、明らかに」


 オズグリーヴが眉根を寄せる。


「そうなると、軍がこんな所に来ている用件としては……訓練……よりは捜索や魔物の討伐が考えられる、かな」


 訓練であると考えにくいのは、山での活動というのが周辺の環境を考えると応用が利きにくいからだ。

 兵士達の精神修養の意味として山を利用する程度なら有り得ないわけではないが、防寒装備を揃えてまで標高の高い場所で活動するというのは些か費用対効果が悪いというか、潰しが利きにくくて実用的な訓練ではないように思う。

 魔物の討伐、というのは……十分あり得るな。当然軍としても魔物との遭遇は想定しているのか、武装はきちんとしている。


「捜索の場合は――行方不明者を探すとか、逃げ込んだ犯罪者を探すとか、目的は色々かな。勿論、ガルディニスの隠れ家を探しているっていう可能性もある」


 俺の言葉に、みんなの表情に緊張が走る。


『隠れ家を探していると仮定した場合……どこから情報が伝わったのでしょうか?』

『ネシュフェル王国とデュオベリス教団との間にどこかで繋がりがあるか……。或いはガルディニスの足跡を追ってきた教団の者達を捕縛した事によって、情報を得た……あたりかしら』


 グレイスが首を傾げると、クラウディアが思案しながら言った。ガルディニスの行動を知っていたのは教団の者しかいないからな。隠れ家に絡んで情報が伝わったとするなら、可能性としてはそのあたりか。有り得ない話ではない。


「一応こういう状況も想定して対策を考えてきたけれど……それは連中がガルディニスの隠れ家を探していると確信が持てた場合の話かな」


 相手の目的がはっきりしないと、こちらとしても態度を決めかねる。人探しの山狩りが目的ならば説得を視野に接触するのは藪蛇だし、軍を派遣した者の考え方も絡んでくる。


「隠れ家……或いは修行場などと認識しているのかも知れないが、それを知られているとしたら、些か困った事になるな」


 テスディロスが言う。まあ、そうだな。ガルディニスの足跡を探しているのだとしてもネシュフェルの立場からすると、魔人が何かしていた、ということで調査は必要だ。それを悪いとは責められないし、情報が伝わってしまった後でなかった事、にはできない。


「そこはまあ、方法があるというか――」


 そう言って俺の考えを説明すると、テスディロスは「……なるほど」と感心したように頷く。


『ふ、ふふ、テオドールらしいわね』


 ローズマリーは羽扇の向こうで肩を震わせ、オズグリーヴやヴァルロスも笑みを浮かべた。


「いや。この場合、実際有効でしょうな」

『面白い事を考えるものだ』


 奇策ではあるがこの状況では有効だろうとみんなも認めてくれているようで。

 幸い隠れ家と野営地はかなり離れているから、捜索しているのだとしても発見は当分後になるだろう。


 監視の目を置く事に関しては迅速に対応する必要があったからな。最低限の準備だけしてここまで来たけれど、一旦転移でタームウィルズに戻って更なる対策のための準備をする時間ぐらいはあるはずだ。


 とは言え、それも野営しているネシュフェル軍の目的がガルディニスの隠れ家であるなら、という前提の話だ。まずは――そうだな。あの野営地にカドケウスを送り込んで情報収集する、というのが次に打つべき最初の一手となるか。

 その上で……これが訓練であったり、人探しであったりするならば、こちらとしてもガルディニスの隠れ家にまでは行かないように少し考えつつ目的に合わせて動く、といった感じで動いていけば良い。


「人の世というのは難しいものじゃな」


 と、ルベレンシアが腕組みをしつつ言う。


「まあ、きちんと道筋を立てないとね。現時点じゃ誰が悪いとかそういう話じゃないし」


 というわけで、迷彩フィールドを展開したままもう少し距離を詰め……隙を見てカドケウスを送り込んでいくとしよう。野営をしていると言っても司令官に当たる人物はいるはずだからな。上手く天幕内部に潜入できれば何かしら目的を示す物などが見つかるかも知れない。

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